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憂鬱聖女の結婚事情 ー憂鬱聖女は今日も最愛の恋人を探して旅に出ますー  作者: 矢間カオル


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75話 調印

翌日、ワーレンブルグの貴族会議が開かれた。


最も力の強かったサンチェス公爵がいなくなったので、今は、ソフィア王妃の実家でもある弟のグレイソン・ハワード公爵の力が強くなった。


ハワード公爵が終戦・同盟に賛成する意見を述べると、誰も反対する者はなく、国王夫妻も含め、全員一致で終戦・同盟が可決した。


会議の席で、サンチェスとゴメスのことが話題になったが、サンチェスとゴメスを弁護する意見は何一つなく、彼らに対する判決についても、国家反逆罪の判決としては、皆当然の結果だと受け止めていた。


国王が、鉱山の権利を不当な金額で騙し取られた場合は、元の所有者に戻すつもりであることを話すと、多くの貴族が国王に感謝した。




ワーレンブルグにグランテリア国王が滞在しているので、調印式はワーレンブルグで行われることになったが、グランテリアの宰相、財務大臣を呼び寄せたので、調印式は二週間後に行われることになった。


二人が来るまでは、同盟の条約制定の会議にレオンが代表として出席し、原案を作成することになった。


レオンがグランテリアの国王であることと、二週間ワーレンブルグに滞在することが公になったので、ワーレンブルグの貴族たちは、是非ともグランテリアの国王にお目にかかりたいと、謁見の申し込みが殺到した。


これを機に親交を深めることも良いだろうとワーレンブルグの王室の配慮で、毎日小規模の晩餐会が開かれることになった。


今までの苦労を労いたいと、レオンの護衛騎士たち全員の席も用意されたので、レオンにしてみれば、断ることができず、毎日会議と晩餐会でとても忙しい日々を送ることになった。


宿泊は迎賓宮なのだから、サラと頻繁に会えると思っていたのだが、忙しすぎて、ゆっくりと話す時間もなかった。


一緒に過ごす時間が欲しくて、レオンはサラに聞いてみた。


「できればサラにも晩餐会に出席して欲しいのだが。」


するとサラは迷うことなく言った。


「私の和平の使者としての任務は終わりました。それに、陛下もご存知の通り、そのような席は苦手でございます。それに加え、ワーレンブルグの人々の中にも、私と祈ることを楽しみにしている人が増えました。今は、そのような人たちの思いを大切して、神殿での祈りに集中したいと思います。そういうわけですので、申し訳ございませんが、晩餐会の出席はご遠慮させていただきます。」


サラに毅然とした態度でそう言われると、レオンはそれ以上誘うことができなかった。


サラは、貴族の付き合いより、一般国民の気持ちに重きを置くのだな。うん、なるほど。その方がサラらしい。


レオンはサラの申し出に納得した。


レオンが忙しい毎日を送っている間、サラは、変わらず毎日神殿に行き、祈りを捧げていた。


サラの護衛も、変わらずルークとトビーであった。


サラが、ルークの生きて戻って来た姿をようやく見ることができたのは、裁きに使われた謁見の間であった。


ルークが生きていたことを聞かされたのは、それより前であったが、ルークを自分の目で見るまでは心配が絶えなかった。


謁見の間では立ち位置が違い、遠目でしか見ることができなかったが、大きなケガもなく、元気そうな姿だったので、本当にほっとした。


しかし、二人が言葉を交わすことはなく、寂しさを感じていた。


ルークは、護衛の仕事に戻り、サラに接する態度は拉致される前に戻っていて、サラに必要以上に近づくことはなかったが、心の中は違っていた。


トビーから、「サラがルークの気持ちを伝えに兵舎まで来たんだよ。」と聞かされたときは、危険を顧みずに動くその実行力に驚いた。


しかし、自分を理解し、自分のために動いてくれたのだと思うと、ただただ嬉しさがこみ上げてきて、これまで以上にサラを愛しく思った。


だが、その気持ちを伝えることはできず、黙々と護衛を務めているのだった。




町の様子は、皆、終戦になったことを喜び、人々の表情は明るかった。


もう、戦はないのだ、戦禍で苦しむことはないのだと、人々の口から喜びの声が上がっていた。


「聖女様、私は終戦になることを毎日お祈りしていました。祈りが叶いました。本当にありがとうございます。」


「もう、私の夫が戦争に行くことはないのですね。ああ、終戦になって本当に良かった!」


神殿に祈りを捧げに来た人たちの顔にも笑顔があふれ、サラが来た初めての日とは全く違っていた。


サラもそのことがとても嬉しかった。


しかし、ただ、一人、日が経つにつれ、徐々に暗くなっている人物がいた。


ルークだった。


調印が終れば、サラはグランテリアに帰ってしまう。


そして国王と結婚する。


国王はとても良い男で、サラのことをこの上なく愛している。


ルークはそのことをよくわかっていたので、この結婚はサラを幸せにすると思った。


そして、サラがいなくなってしまう辛い気持ちは、自分の心の中で我慢するしかないと思っていた。


グランテリアの宰相と財務大臣が到着すると、同盟に関する条約の確認が行われ、残すところは調印式のみとなった。


調印式の日が近づくにつれ、町はお祭りムードで賑やかになっていった。


至るところで祭りの準備が行われ、当日を待つ人々の顔はとても楽しそうだ。


ワーレンブルグと同じで、グランテリアでも、調印式の日を終戦・同盟記念日と定め、今はお祭りの準備で忙しい。


宰相たちは気を利かせて、祭りの準備の指示も済ませてきたのだ。


祭当日はレオンもサラもいないが、調印式が終わってグランテリアに帰ると、終戦・同盟を祝うパレードが行われることが決まっていた。


レオンと和平交渉の功労者であるサラが一緒に屋根のない馬車に乗り、国民から祝福を受けることになっている。


おそらく、馬車に仲睦まじく一緒に乗る二人を見て、国民誰もが想像するだろう。


そう、それは事実上の婚約発表のようなものなのだ。


宰相からこの話を聞いたレオンは、とても満足していた。


国民全てに祝福され、花吹雪が舞う中をパレードするサラと自分を想像すると、嬉しくて仕方がなかった。




調印式の日になった。


式典は、王宮の大広間で行われ、参列者は、ワーレンブルグの王公貴族たちとその護衛騎士たち、グランテリアからは、レオン、宰相、財務大臣と、その護衛騎士たち、そしてサラが出席し、アイリスとカイゼルにも末席が用意された。


大勢の参列者が見守るなか、ワーレンブルグの最高神官立ち会いのもと、調印式は厳かに行われ、二人の王は協定書に調印した。


調印式の後、王室主催の祝賀パーティーが催されたが、サラは神殿で多くの人々が待っているからと、パーティーは辞退した。


アイリスとカイゼルには、パーティーに出ることを薦めたが、アイリスは「私は聖女様と一緒に行動したいです。」と言い、カイゼルは「堅苦しいのはちょっと・・・」と断ったので、式典後、神殿には三人で行くことにした。


もちろん護衛はルークとトビーである。


サラにとって、見知らぬ貴族たちと過ごす時間よりも、一緒に祈りを捧げる人々との時間の方が大切であった。


そして何より、ルークと一秒でも長く一緒にいたかった。


神殿に着くと、すでに大勢の人が待っていて、サラとともに、終戦・同盟に対する感謝の祈りを捧げた。


人々の中には、「終戦を迎えることができたのは、聖女様のお陰です。ありがとうございます。」とサラに感謝の言葉をかける者もいた。


アイリスは、さすが聖女様だとまるで自分のことのように嬉しく思った。


ルークもいつもと変わらぬ位置で護衛をしていたが、一つの使命を最後までやり遂げたサラに後光がさしているような気がして、時々眩しそうに見ていた。


この日の祈りの時間は、祭りのためにいつもより早く終った。


神官が「皆さんで祭りを楽しんでください。」とお金が入った袋をサラに渡してくれた。


いつもなら馬車に乗ってすぐに迎賓宮に帰るのだが、神官の好意が嬉しく、せっかくだからと祭り見物をしてから帰ることにした。


雑用係のカイゼルも、神官から許しをもらい、サラたちと一緒に町に出た。



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