74話 裁き
騎士が連れてきた男は、右目にホクロのある男と、ジェイコブだった。
昨夜、レオンたちから報告を受けた近衛騎士団長は、国王への報告と同時に、第一騎士団長と第二騎士団長に連絡を取り、王都中を探させたのだ。
王都の警備が主な仕事である第一、第二騎士団にとって、二人を探し出すのは容易なことだった。
「ゴメスよ、この男に見覚えがあろう。」
「ううっ。」
さすがに知らないとは言えなかった。
酒場で数回であるが、密談をした。
知らないと言えば、目撃者をこの場に証人として出すつもりであろうことは想像できた。
「さて、この男が何をしたかだが。証人は前に出よ。」
ジェイコブが証人として前に出た。
「証人は、身に起こったことを正直に申せ。」
「はい。俺が、いえ、私がグランテリア嫌いだと知ったこの男に、仕事を頼まれました。鷲城に閉じ込めた二人の見張りをして、後から来る兵士に引き渡すことが仕事でした。他にも、見張りとして腕の立つ男が五人雇われていましたが、閉じ込めた二人が逃げ出したら殺すようにと言われました。その二人が、聖女様と騎士様だったので驚きました。」
「この男の言い分に相違ないな。」
王はホクロの男に問うた。
「・・・はい。」
「そなたは、この仕事を誰に頼まれたのだ。」
「ううう、」
第一騎士団長がギロリと男を睨んだ。
第一騎士団長は、死ぬよりも辛いと言われる拷問で有名だった。
ホクロの男は、第一騎士団長の拷問に耐えられず、既にすべてを白状していた。
「・・・ゴメス侯爵でございます。」
「ううっ、この裏切り者め。」
ゴメス侯爵はホクロの男を睨んでいたが、最後は力なく項垂れた。
「ゴメスよ。そなたが犯した罪は明白である。この男を使い、聖女並びに護衛騎士を鷲城に閉じ込め、殺害しようとした罪は大罪である。」
次に国王は、サンチェスに向かって言った。
「さて、サンチェス、お前は、ゴメスと共謀し、聖女と護衛騎士を殺害した後、聖女殺害の罪を護衛騎士と見張りの男たちに被せるつもりであったな。そして、証拠隠滅のために、鷲城にいた者を全員殺害することを兵士に命令した。」
「何を証拠にそのようなことを。あれはゴメスが勝手にしたことだ。私は関係ない。」
「なんと往生際の悪い奴だ。私兵たちをこれへ。」
近衛騎士が、サンチェスの私兵五人を連れてきた。
「何故? 死んだのではなかったのか。」
五人の姿を見て、サンチェスは驚いた。
「証人は前に出よ。」
赤茶色のかつらを被ったレオンが前に出た。
「私のことを忘れたとは言わせませんよ。」
「お、お前は・・・」
「あなたは私に、ルークが生きていたら必ず殺すようにと命じましたね。」
「お前は、いったい誰だ。」
レオンはかつらを取り、美しい金髪をさらりとかき上げて言った。
「私ですか? 私が誰なのか、名乗ることは、また後ほどにいたしましょう。陛下、裁きの続きをお願いいたします。」
「ああ、それでは近衛騎士団長、証言を。」
「はい。この者たちはサンチェス公爵の私兵であることを認めています。鷲城にいる聖女、護衛騎士、他の六人全員を殺害し、死体をサンチェス公爵邸に運ぶことを命令されておりました。」
「ご苦労であった。」
もともと私兵たちに白状させたのはレオンの騎士たちであったが、ここは、近衛騎士団長に花を持たせるため、全てを騎士団長に任せることにした。
「サンチェスよ。もう、言い逃れはできまい。まだ、ゴメスが勝手にしたことと申すか。」
サンチェスは返す言葉もなく、ガクリと肩を落とした。
「判決を下す。サンチェス、ゴメス両人は、和平交渉の最中にも関わらず、聖女とその護衛騎士を殺害し、罪を護衛騎士と他六名に被せて、和平交渉を決裂させようと企てた。これは国家反逆罪に値する大罪である。よって、両名は爵位剥奪のうえ死罪とする。両家門の領地並びに鉱山などの全ての権利を没収することとする。裁きはこれにて終了とする。」
サンチェスは、全身の力が抜けたように項垂れて言った。
「何故、こんなことに・・・」
「何故? サンチェスよ。お前は欲張りすぎたのだ。ただ、それだけだ。」
裁きが終わった夜、ワーレンブルグ国王夫妻の寝室。
「ソフィアよ。今日の私はどうだった?」
「陛下。たいへん素晴らしいお裁きでした。」
「カッコ良かったかい?」
「ええ、それはもちろん。今までで一番カッコ良かったですよ。」
「ああ、私はそなたに褒めてもらうのが一番嬉しいよ。」
そう、今日の国王オーウェンの演技は最高だった。
よく通る声、威厳ある物腰。
これぞ王たる者の姿と言っても良いほどだった。
ソフィアの台本を確実に演じたオーウェンの演技は、称賛に値するものだった。
そして、裁きの後の想定外の出来事にも、オーウェンは上手く対処した。
それもソフィアにとっては、嬉しい誤算だった。
裁きの後、国王夫妻が謁見の間を出て休憩室に移動するとき、近衛騎士団長と数名の近衛騎士たちが護衛についていた。
その中に、トビーとルークも含まれていた。
休憩室に入り、国王夫妻が席に着くと、トビーがいきなりオーウェンの前に跪いた。
「恐れながら国王陛下に申し上げます。私は、大きな罪を犯してしまいました。どうか、私にもお裁きをお願いいたします。」
トビーが、ルークとサラに薬を飲ませたことは、ホクロの男から聞き出し、裁きの前には既に知っていたことだった。
しかし、サラもルークもそのことには触れず、トビーの立場が悪くなるようなことは言わなかった。
妹を人質にとられ、しかたなく犯してしてしまった罪であることを、皆理解していた。
オーウェンは、トビーにとぼけたように言った。
「ほう、そなたが犯した罪とは、御者に騙されたことであろう。もし、そなたを罰するとなると、ルークも罰することになるのだが、私は気が進まぬのう。」
「いえ、そうではな・・・」
ルークがすかさずトビーの横に跪き、トビーの頭を押さえて頭を下げさせて言った。
「国王陛下、寛大なお言葉、誠に感謝申し上げます。これからも陛下のご恩に報いるため、トビーも私も、日々精進してまいります。」
「ははは、それが良い。」
ふむ、あの時のオーウェンも、なかなかカッコ良かった。
これも褒めてあげよう。
「おや、顔が笑っているが、何か面白いことでもあったかな?」
「いえ、陛下の雄姿を思い出すと、嬉しくなっただけです。」
「ああ、嬉しいことを言ってくれるなぁ。ソフィア、愛しているよ。」
「ふふ、私もですよ。」
この夜、二人は久しぶりに熱い夜を過ごした。




