73話 名誉
レオンとルークと騎士たちは、ジャスミンを守りなから、襲ってくる敵を倒しながら進んだ。
いつの間にか、敵の姿が見えなくなったが、皆は用心しながら屋敷から庭に出た。
その時、ディックが殺気を感じて上を見た。
二階のバルコニーに、身を乗り出して矢を射ろうと構えている男がいた。
一人ではない。
五人の男たちが、上からディックたちを狙っていた。
「危ない!バルコニーからの攻撃だ!」
ディックが声をあげて皆に知らせた。
だが、その瞬間、弓矢を持つ男の胸に矢がささり、男はバルコニーから転落した。
「えっ!?」と皆が驚いていると、続けて矢が放たれ、グサッ、グサッと残りの四人も矢で射貫かれ戦闘不能に陥った。
「俺だ、門は開放した。門から出ろ。」
トビーだった。
トビーは、サラから話を聞き、ルークが目指す場所はゴメス侯爵邸しかないと思った。
それならば、俺も合流しなければと、武器を持って馳せ参じたのだ。
屋敷の門番を気絶させて中に入ると、ルークと騎士たちに守られた妹が屋敷から出てきた。
ああ、妹が助けられたとほっとしたのも束の間、二階のバルコニーに弓矢を構えた男たちを見つけた。
トビーは、彼らが矢を射る前に、自分の矢を放った。
弓の名手でもあるトビーの矢は、百発百中であった。
屋敷に入るときは、塀を越えて入ったルークたちであったが、ジャスミンを連れた帰りは、堂々と門から出た。
完全な勝利だった。
レオンたちが、ジャスミンを守りながら、門を抜けると、トビーが腕を広げて待っていた。
「兄さん!」
ジャスミンは、トビーに抱きついた。
「兄さん、兄さん、怖かったぁ。」
ジャスミンは、ほっとしたのか、泣きながらトビーに抱きついて離れなかった。
「よしよし、もう大丈夫だ。」
トビーは、幼子をなだめるように髪の毛を優しくなでながら、ジャスミンを慰めた。
しかし、すぐに、眼差しはルークと騎士たちに向けられた。
「ルーク、すまなかった。俺がしたことを許してくれとは言わない。だが、これだけは言わせてくれ。生きていてくれて本当にありがとう。」
深く頭を垂れるトビーにルークは言った。
「トビー、右手を上げて。」
「ん? 手を? こうか?」
ルークはトビーの右手をがっしりと掴んで言った。
「ああ、お前の望み通り、生きて帰ったよ。」
「ルーク・・・」
トビーは溢れそうになる涙を堪えて、姿勢を正し、レオンたちを見た。
「どういう経緯で一緒に妹を助けに来てくれたのか知りませんが、皆さんのお陰で、妹が救われました。本当にありがとうございます。この恩は必ずお返しいたします。」
トビーは妹を救ってくれた皆に、心から感謝した。
その言葉にレオンは応えた。
「それならば、一つお願いしたいことがある。今すぐ騎士団長に会わせてもらいたい。」
翌朝、日が昇ると同時に、サンチェス公爵の館に近衛騎士団が攻め込んだ。
サンチェス公爵の私兵が応戦したが、騎士たちとの戦闘能力の差は歴然で、あっという間に制圧された。
屋敷の中には使用人が大勢いたが、王直属の近衛騎士団に抵抗する者も、サンチェス公爵を守ろうとする者も、誰一人としていなかった。
なぜなら、騎士団長は大声ではっきりと、こう言ったのだ。
「サンチェス公爵を国家反逆罪で逮捕する。サンチェス公爵を庇うものは、同罪と見なす。」と。
国家反逆罪と聞いて、皆は震え上がった。
それはおそらく死罪になるだろうということが、容易に想像することができた。
「貴様ら、私に何をする。私は公爵だ。こんなことをして許されると思うのか。」
サンチェス公爵は、拘束されたときも、ロープでしばられているときも叫んだが、騎士たちは誰も相手にしなかった。
それよりも、良い気味だという目で見ていた。
騎士団長は、連れていく騎士たちを、サンチェス公爵に恨みのある家門から選んでいた。
そういう団長自身も、好き勝手に使われることに恨みを抱いていた一人である。
「サンチェス公爵、あなたの時代は終わりです。反論があるならば、国王陛下の前で仰ってください。」
サンチェス公爵は、ロープでしばられた姿で謁見の間に連れていかれた。
そこには、すでに、ゴメス侯爵が、自分と同じ姿で床に座らされていた。
昨夜のジャスミン救出の後、レオンは、ゴメス侯爵邸から誰も外に出ないように、セブたちに見張らせた。
ゴメス邸での戦闘の最中、異変に気付いたゴメス侯爵は、いったい何事かと耳を澄ませたが、男たちが戦う剣の音と声に震えあがって、部屋から一歩も出なかった。
しばらくして、屋敷内が静かになると、部屋から出て、ジャスミンが救出されたことを知った。
そのことをサンチェス公爵に知らせる為に、使用人を使って手紙を届けさせようとしたが、見張っていた騎士たちに見つかり、知らせることも、ゴメス侯爵自身が屋敷から出て行くこともできなかった。
レオンはセブたちにゴメス邸の見張りを任せた後、ルーク、トビーと一緒に近衛騎士団長を訪ねた。
そして、騎士団長にゴメス侯爵と、サンチェス公爵の悪事を話した。
話を聞いた騎士団長は、すぐに国王陛下に報告をした後、迅速な早さでゴメス侯爵の逮捕に踏み切った。
そして、日が昇ると同時に、サンチェス公爵逮捕に動いたのである。
謁見の間には、国王陛下、王妃の他に、近衛騎士団長、第一、第二騎士団長と、その部下の騎士たち、証人、並びに立会人として、レオンとその護衛騎士たちとサラがいた。
「今から裁きを始める。」
国王自ら指揮をとるのは異例のことだったが、国家反逆罪という前代未聞の大罪なのだからと、この場にいるものは、皆納得していた。
「まず、ゴメス侯爵、そなたは罪なき使用人に罪を被せ、拷問をした。我が国では、たとえ使用人であろうと、罪を犯していない者に処罰並びに拷問してはならないと、法で決められているのを忘れたか。」
「恐れながら申しあげます。使用人は私の指輪を盗んだのです。ですから処罰は妥当かと。」
「使用人をこれへ」
「はっ」
近衛騎士団長が、部下に目配せすると、部下がジャスミンを連れてきた。
「使用人は、証言せよ。」
「私は決してご主人様の指輪を盗んでいません。いつの間にか、私の机の引き出しに指輪が入れられていたのです。真実を話しても信じてもらえず、髪を切られ、大切にしていた母の形見も奪われ、地下牢に閉じ込められました。」
「使用人はこう申しておるが?」
「ですから、そいつが嘘を言ってるのです。」
「まだ、そのようなことを。証人をこれへ。」
騎士がメイド長を連れてきた。
「私は、侯爵様に、ジャスミンの机に指輪を入れるように命令されました。とても嫌なことでしたが、ご主人様の命令に背くことはできませんでした。今では浅はかなことをしてしまったと後悔しております。」
メイド長はジャスミンを見て言った。
「あなたには辛い思いをさせてしまいました。ごめんなさい。」
「いえ、本当のことを証言してくださいましてありがとうございます。」
ジャスミンは、盗人の濡れ衣を着せられたことは辛かったが、自分を身内に持つ兄の名誉も汚されることになると思うと、そちらの方がもっと辛かった。
しかし、この公の場で、皆が見ている前で、自分の名誉が挽回されたことが、本当に嬉しかった。
「ゴメスよ。お前は、法を犯した罪だけでなく、この期に及んで、まだごまかそうとするとは・・・。本当に情けない。」
国王はジャスミンとメイド長に言った。
「二人は、もう下がって良いぞ。」
二人が退席したのを確認すると、国王はゴメスに、はっきりと威厳のある声で言った。
「さて、ここからが、本題だ。お前の罪はこれだけではない。和平交渉中にも関わらず、和平交渉の使者として来た聖女を、殺害しようとした罪は、国家反逆罪にも値する大罪である。」
「な、何を証拠にそのようなことを。」
「証人を連れてまいれ。」
騎士が二人の男を連れてきた。




