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憂鬱聖女の結婚事情 ー憂鬱聖女は今日も最愛の恋人を探して旅に出ますー  作者: 矢間カオル


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68話 鍛冶屋

レオンたちは、陽が上ると同時に出発し、崖の下を流れる川に沿って、下流から上流へと探したが、ルークを見つけることはできなかった。


崖に引っ掛かっているのではないかと思ったが、それもなかった。


川のどこまで流されたのか、それもわからない。


サラには悪いが、ルークは、死んだのだろうと誰もが思った。


これ以上の捜索は、もうすぐ来る近衛騎士に任せることにして、レオンたちは農家に借りた家に行き、赤茶色の髪の兵士に服を返した。


レオンが、思った通り、彼の騎士は、優しかった。


兵士は、騎士が自分のために用意していた毛布を掛けてもらって、一晩を過ごしていた。




サラは、ルークを探しに行きたかったが、護衛騎士に止められ、行くことができなかった。


近衛騎士に混じって聖女様が行くと、かえって足手まといになると言われたら、なおさら、行きたいとは言えなくなった。


だから、迎賓宮で近衛騎士からの報告を待った。


夕方になり、やっと近衛騎士が報告に来たが、「ルークを見つけることはできなかった。たとえ、崖から落ちたときに生きていたとしても、川に流されて死んでいるだろう。」と伝えられた。


ルークは、絶対に生きているのに。


いったい、ルークは、どこにいるの?





鍛冶屋の男の朝は早い。


まだ暗いうちに家を出て、夜が明ける頃には木を切り始める。


鍛冶屋は、サンチェス公爵が抱えている鍛冶屋の一人だ。


サンチェス公爵が、鷲城とその周辺の土地を、十年ほど前に元の所有者から買い取ったので、鍛冶屋はこの場所に、燃料となる木材を切りに来ることを許されていた。


いつも妻と二人で来るのだが、今日は十歳になる息子が一緒に行きたがった。


「父さん、前に見たでっかい魚、また、見てみたい。」


「来たいなら一緒に来なさい。」


すると、息子と夫のやり取りを聞いていた妻が息子に言った。


「魚ばっかり見てないで仕事の手伝いもするのよ。」


こうして三人は暗いうちに出かけ、明るくなり始めた頃には、木を切り始めた。


しかし息子は、川に行きたくてウズウズしているので、母親が言った。


「そんなに見たいんだったら見ておいで。でも、絶対に川に入ったらだめですよ。」


「はーい。」


息子は喜んで走って行った。


息子が川に着くと、川の真ん中に突き出ている大きな岩に、大木が引っ掛かっているのを見つけた。


よく見ると、大木に何かが引っ掛かっている。


それは、どう見ても人間だった。


息子は驚いて、両親の元に戻った。


「父さん、大変だ! 人が川に引っ掛かっている!」


人が川に引っかかる? 


何をバカなことをと思ったが、息子の顔が真剣そのものだったので、これはただ事ではないと思った父母は、ロープを持って息子と一緒に走って川に出た。


すると、岩に大木と一緒に、人が引っ掛かっているのを見つけた。


鍛冶屋は、ロープを自分に結ぶと、頑丈そうな木にロープの反対側を結びつけ、救助に向かった。


幸い一番深いところが胸までだったので、歩いて行けた。


木に引っ掛かっているの人を抱き抱えると、妻と息子にロープを引っ張らせて、川に流されないように慎重に岸まで運んだ。


妻も息子も、夫が父が、助けた人と一緒に流されては大変だと、力を合わせて、一生懸命に引っ張った。


「ねえ、生きてるの?」


岸に横たわる男を見て、息子は聞いた。


「ああ、生きてるよ。服がボロボロになっているのを見ると、崖から落ちたんだろう。意識を失ってはいるが、生きてるよ。」


「良かったぁ」


妻も息子も、ほっとして喜びの声を上げた。




「良かった!良かった!ヒューイが助かったよ。」


喜びの声を上げたのは、鍛冶屋の妻と息子だけではなかった。


天界のサラとヒューイの友人の神々も、手をたたいて喜んだ。


ハービスは涙ぐむし、モーラとビンセルは抱き合って喜んだ。


彼らは、サラとルークが鷲城に連れ去られたときから、ヒヤヒヤして見ていたが、二人を助けることはできなかった。


今までも、誘拐されたり、毒蛇に噛まれたりと、サラの危機に直面してきたが、神力を使うことは許されておらず、ただ、見守ることしかできなかった。


ルークに関してもそうだ。


本の少しの幸運さえ、授けることは許されていなかった。


ルークが崖から落ちたときは、本当に死ぬかと思った。


だが、ルークは落ちながらも、ジェイコブにもらった短剣を崖に突き刺した。


そのお陰で落ちる速度か緩まった。


しかし、短剣1本で彼の身体が止まることはなく、崖に突き刺し速度を緩めたまま落下した。


落下の先に、崖から横に張り出している大木があった。


ルークはその大木に乗っかるようにして、一瞬だけ止まった。


が、もろくなった崖の土ごと根が切れるようにはずれ、大木はルークと一緒に川へと落ちた。


枝葉が落ちた衝撃を和らげたが、落ちる瞬間、大木に頭を打ちつけたルークは、大木にしがみついたまま意識を失ってしまった。


まるで、大木のいかだに、しがみついた状態で、水に溺れることなく流され、川の真ん中に突き出ていた岩に引っかかっていたのだ。




鍛冶屋夫妻は、仕事を早く切り上げて、木材を運ぶ荷馬車に、ルークを載せて家に帰った。


家に入ると、ルークをベッドに運び、濡れた服を脱がせて、ケガをしているところに薬を塗り、擦り傷がひどいところは包帯を巻いた。


幸いなことに、服はボロボロになっていたが、服のお陰で怪我が少なく、骨も折れていなかった。


騎士の服は着せられないので、鍛冶屋の男は自分の服を着せると、この後の世話は、妻に任せて仕事を始めた。


「ううっ」


ルークが傷の痛さを感じて目を覚ました。


しかし、着ている服は自分のものではなく、腕には包帯が巻かれていたので驚いた。


見知らぬ家のベッドで寝ていることも分かり、このとき、やっと自分が誰かに助けられたのだと自覚した。


「あら、目が覚めましたか? 良かったぁ。」


鍛冶屋の妻がルークに声を掛けた。


「ん?・・・あなたは・・・花屋のリリー?」


「え?」


「ああ、失礼した。初対面なのに、ふと頭に浮かんだ名前が口に出てしまった。」


「もしかしたら、以前にどこかで会ったことがあるのかもしれませんね。私は今は結婚して鍛冶屋の妻ですが、結婚前は花屋のリリーだったんですよ。」


「思い出せないが、会ったことがあるのかもしれない。ところで、私を助けてくれたのですか。」


「はい。川の岩に引っかかっているところを、主人が救助しました。私と息子は縄を引っ張っただけです。」


「傷の手当てもしてくれている。」


「ええ、主人と二人でしました。傷は痛みますか?」


「いや、大丈夫です。本当に何から何までありがとうございます。この感謝の思いをどのように伝えたら良いか・・・。そうだ!」


ルークは感謝の思いをもっと強く表したいと思い、ベッドから降りて、リリーの前に跪いた。


「申し遅れましたが、私は近衛騎士をしているルーク・バルビエと申します。この度のご恩は一生忘れることはございません。」


そう言って頭を下げた。


「ちょっと、止めてくださいよ。騎士様が私たち平民に頭を下げるなんて。あなたの気持ちはよくわかりましたから、どうか顔を上げて、普通に座ってください。」


「あなたの、ご命令とあらば。」


ルークは、ベッドに腰を掛けた。


「私たちは、ごく当たり前のことをしただけです。それに、困っている人を助けたら、神様にご恩返しができたかなって、そう思っているんです。」


「神様に?」


「はい。引っ込み思案な私が、ジョンと結婚できたのは、神様のお陰だと思ってるんです。だから、神様にご恩返しがしたいなって。ふふふ、おかしいでしょ。」


「いえ、そんなことありません。あなたが良いことをするたびに、きっと神様は喜んでくれますよ。」


二人が談笑をしていると、夫のジョンが部屋に入って来た。


「ああ、目が覚めましたか。」


「はい。あなたのお陰で命を救われました。本当にありがとうございます。ところで、早速で申し訳ないのですが、あなたにお願いがあるのです。」


ルークは、ジョンに真剣な眼差しを向けた。



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