67話 兵士
兵士たちが、レオンとサラを囲んだ。
もう逃げ場はなかった。
兵士のリーダーが、勝ち誇って言った。
「さっきから、王だとか訳のわからぬことを、ごちゃごちゃとうるさい奴だったが、もう終わりだな。」
だが、レオンは、それ以上に勝ち誇って言った。
「一国の王が、護衛も付けずに出歩いていると思うのか?」
「何?」
「傷を負わせても良い。生け捕りにしろ!」
「はっ」兵士の背後から九人の声がした。
レオンが話をして時間を稼いでいる間に、すっかり準備はできていた。
五人の兵士は、背後から縄をかけられ、馬から引きずり落とされた。
一網打尽とは、まさにこのことだった。
「彼らが自害しないように。」
レオンが言うと、騎士たちは、ロープで縛った兵士に猿轡をかませた。
「では、行こうか。」
レオンは、鷲城が怪しいと睨んでから、今日までの間に、この近辺の農家の空き家を買っていた。
馬車と馬も買い、農家の住民に世話も頼んでいたのだった。
今回の捕縛で、新しく馬が五頭手に入ったのは、嬉しい誤算であった。
レオンは、空き家に兵士を運ぶ際、兵士の一人が赤茶色の髪であることに気がついた。
「ふむ。これは使える。」
レオンは、兵士に聞こえないように騎士の一人に耳打ちし、一つ仕事を任せた。
「それでは、俺は、サラを送ってくる。五名は、ここで見張りを、残りは、目立たぬように護衛を頼む。」
レオンはサラを馬車に乗せ、自分も乗り込み、騎士を一人、御者に任じて馬車を出発させた。
サラの涙は止まっていたが、心ここにあらずで、頭の中は、ルークのことでいっぱいだった。
向かいに座っているレオンのことを見ず、窓に顔を向け、思い出したように、また、涙が頬を伝った。
「サラ、もう暗くなってしまったから、ルークを探しに行くのは難しい。だが、明るくなったら必ず探しに行くから、それまで待ってほしい。」
サラも、暗い中で谷に入る危険は十分に承知していた。
だから頷くしかなかった。
「ルークは、生きています。だから、明日、必ずお願いします。私も一緒に探しに行きます。」
サラが地上にいる間は、ルークは死んでいない。
もしかしたら瀕死の状態で、今も助けを待っているかもしれない。
そう思うと、本当は今からでも探しに行きたかった。
でも、皆の危険を考えると、それは言えなかった。
「サラ、君が探しに行くのは危険だ。明日は、迎賓宮でじっとしていて欲しい。君は、まだ狙われているかもしれないんだ。だから、頼む。後のことは俺に任せてくれ。」
馬車は王城に向かって走っていたが、馬車の御者は、レオンの護衛騎士だ。
レオンたちは、グランテリアに帰ったことになっているから、王城にこのまま乗り込むのは危険だった。
レオンはまず、神殿に行った。
そこでカイゼルにわけを話し、御者を任せることにした。
もしもの時の連絡にと、宿屋の場所も教えておいた。
カイゼルは、皆の役に立てることか嬉しくて、喜んで引き受けた。
カイゼルの馬車が王城内に入り、城内の人々に出迎えられるのを見届けてから、レオンたちは、一旦宿屋に戻った。
サンチェス公爵は、もう兵士たちが帰って来ても良い頃だが、と思いながら、少しイライラしながら待っていた。
門番には、どんなに遅くなっても、兵士が帰ってきたら、自分に連絡するように伝えている。
サンチェス公爵は、自分が考えたシナリオが、実に良くできたものだと、自我自賛していた。
ワーレンブルグの国民と、国王が選んだ護衛騎士が、結託して聖女を拉致し、鷲城まで連れ去った。
その情報を掴んだ私が、急を要することなので、騎士に頼まず、私兵を使って聖女を救出に行かせた。
しかし、時すでに遅く、聖女は殺されていた。
兵士は護衛騎士を含む犯人たちを捕まえようとするが、反抗され、危害を加えてくるので、仕方なく全員殺した。
兵士たちは、全員の死体を証拠として、ここに運んできて終わりだ。
和平の使者を、国民と王が選んだ護衛騎士が殺す。
ここが重要だ。
怒り狂ったグランテリアの国王が、同盟なんぞ結ぶはずがない。
終戦どころか、明日にでも、休戦を止めて戦を仕掛けてくるんじゃないか?
ふふふ。それにしてもルークとトビーは、良い人選だった。
建前上、王が選んだことになっているが、選んだのは私だ。
神嫌いで有名なルークと、人質が手の内にあるトビー。
上手く使って、最後は殺せば良いのだから。
それにしても遅い、とイライラしていると、門番が連絡に来た。
「公爵様、兵士が戻って参りましたが、どうされますか?」
「おお、やっと戻ってきたか。その場で待つように伝えよ。」
兵士たちは、八体の死体を運んできている。
血なまぐさいものを、屋敷のそばには近寄らせたくない。
そう思ったサンチェス公爵は、ランプを持って自ら外に出た。
ところが、目の前にいるのは、赤茶色の髪の兵士が一人、跪いているだけたった。
「他の者はどうした?」
「恐れながら申し上げます。我が隊は、私以外全員殺されました。」
「何?全員だと?」
「我々が鷲城に到着したときには、護衛騎士は、すでに自分で縄をほどいていたようで、見張りの六人は全滅しておりました。我々は、騎士を殺そうとしたのですが、騎士は非常に強く、我々の力が及ばす、皆殺されてしまいました。私は、このことを公爵様に早く知らせねばならないと思い、恥を忍んで生きて帰ってまいりました。」
「では聖女もルークも生きているのだな。」
「はい。そうでございます。」
「ううっ、奴の剣の腕はすごいとは聞いていたが、まさかここまでとは。」
サンチェス公爵が歯噛みして悔しがっていると、また、門番がやって来た。
「公爵様、王城から連絡の者がやって来ましたが、どうされますか?」
「ここに連れてこい。」
やって来た男は、王城の使用人の服を着ていた。
サンチェス公爵が、城内に放っている間者だった。
「公爵様、行方不明だった聖女が戻って参りました。ただ、戻ってきたのは、聖女一人でした。」
「聖女一人だと? ルークはどうした?」
「聖女が言うには、裏道を通って逃げる途中に、ルークが崖から落ちたと申しております。そして、まだ生きているから探して欲しいと、泣きながら訴えておりました」
「ほう、あの崖から落ちたのか。それでは、もう助かるまい。」
「はい。ですが、明日、近衛騎士たちが探しに行くそうです。」
「そうか。多分死んでいるだろうが、もし、生きていたらやっかいだな。」
「お話し中恐れ入ります。それならば、私が今から探しに行きます。もし生きていたとしても、おそらく瀕死の状態のはず。私がとどめを刺して来ます。」
「おお、それが良い。では、今すぐ行って参れ。生きていたら必ず仕留めるのだぞ。」
「はっ」
赤茶色の髪の兵士は、走って門を出ていった。
門を出たこの兵士は、宿屋の部屋に戻り、カツラを外した。
兵士の服も脱ぎ、元の服に着替えた。
今頃、あの兵士は、下着姿のまま、震えているだろうか。
いや、俺の騎士は優しいから、きっと毛布でもかけてやっているだろう。
レオンは優しい騎士のことを思うと、ふと笑みがこぼれた。
着替え終わったレオンに、セブが跪き、話しかけた。
「レン様、ルークのことは、助けることができず、申し訳ございませんでした。」
「いや、あれは仕方がなかった。一番近くにいた俺でも、どうすることもできなかった。ルークは、護衛騎士の任務を最後までやり遂げたんだ。彼のお陰でサラは助かった。彼の献身に、心から敬意を表したいと思う。」
部屋にいた四人の騎士たちは、レオンの言葉に無言で頷いた。
「次はどうされますか?」
ディックがレオンに尋ねた。
「明日は、ルークを探しに行くが、ワーレンブルグの騎士も来るそうだ。早く出て、騎士に遭遇する前に戻ってこよう。明日は早い。早く寝よう。」
レオンたち五人は、遅い夕食を急いで食べて、すぐに寝た。




