66話 山道
レオンがルークに初めて会った場所は、サラの病室だった。
あのとき、ルークのことを危険だと思ったが、サラに危害を加える意味ではない。
むしろ逆だった。
どう考えても、ルークがサラに危害を加えるとは思えなかった。
だったら、何故?
これも、サンチェス公爵の手のひらの上なのか?
俺の推測が正しければ、二人は鷲城に連れていかれたはずだ。
セブの話を聞いてから、鷲城については調べた。
王都の北西にあり、そう遠くはない場所にある山城だ。
今は廃城になっていて、誰も住んでいない。
二人を閉じ込めるには、ちょうど良い場所だ。
鷲城に救出に行こう。
レオンが皆に、そのことを伝えようとしたときに、サンチェス公爵の屋敷で監視をしていたディックが戻って来た。
「サンチェス公爵の私兵が五人、出発の準備をしています。」
「ならば、私兵よりも先に着かなくては。急ごう。」
ここまでが、レオンがサラを救出に来た経緯だが、実際に二人に話す内容は、全てを話さず、短く端折って話した。
騎士の間では、ルークが一人悪者になっていることを知り、がっくりと肩を落としたルークであったが、それよりも、嘘をつかねばならなかった友を憐れんだ。
三人は、レオンを先頭に、サラ、ルークと並んで歩いた。
レオンが現れてからは、ルークはサラの手を握るのを止めた。
少し歩くと、右側が急斜面の土壁、左側が崖の道に出た。
崖の下は深い谷になっていて、谷底は暗くてよく見えないが、底には川が流れている。
道幅は馬一頭が通れるほどではあるが、所々崖が崩れた場所があり、そこは道幅が狭くなっていて、道の端がもろくなっていることがわかった。
「二人とも、気を付けて。崖側を絶対に歩かないように。」
レオンは来るときに、一度通っている道なので、この道が危険なことは分かっていた。
三人は足元に気を付けながら、歩いていたのだが、ボロボロと急斜面を伝って上から少量の土砂が落ちてきた。
ルークが危険を察知して上を向くと、一人の男が急斜面の上から、サラを目掛けて矢を放った。
カキ―ン
ルークは矢を剣で弾き飛ばした。
この男は、城で倒された仲間を見て、とても剣では歯が立たないと思い、この場所で弓矢を使ってルークとサラを殺そうとしたのだ。
矢が弾き飛ばされると、男はすかさず、再度、矢を射ろうとした。
「お前たちを、逃がすわけにはいかないんだ。」
と叫びながら男が弓を引いているときに、ルークは男に向かって剣を投げた。
グサリと剣は見事に男に命中し、男はゴロゴロと転がり落ちてきた。
ドサッと男が落ちてきた衝撃で、崖の一部が崩れた。
「えっ?」
サラの足元も同時に崩れた。
「キャア―!」
サラが崩れた土と一緒に崖に落ちた。
「サラ!」
ルークは落ちるサラの腕を掴み、思いっきり引き上げ、レオンに投げ渡した。
「レン、頼む!」
レオンは、自分に投げられたサラを抱きかかえると同時に、後ろに飛び移った。
レオンがいた場所が、ガラガラと崩れて谷底へと落ちていった。
間一髪だった。
サラは、レオンに抱きかかえられ、一命をとりとめた。
が、ルークは、サラを助けた反動で、そのまま崖の下へ落ちていった。
暗く底が見えない谷底へと・・・。
「ルーク!」
サラが叫んだ。
崖に向かって走り出そうとするサラを、レオンはぎゅっと後ろから抱きしめて必死で止めた。
「サラ、行くんじゃない。危険だ!」
「だって、だって、ルークが!お願い、行かせて!」
「駄目だ、サラまで落ちたらどうする。ルークはサラを守って落ちたんだ。ルークの思いを無駄にするな。」
「ルーク、ルーク・・・」
サラの目からボロボロと涙が零れた。
ルークの言葉が脳裏に浮かんだ。
サラ、俺がお前を助ける。何としてでも、サラだけは助ける。
ルーク、助かるときは二人一緒だって言ったじゃない。
やっと会えたのに、どうして・・・。
また、私はあなたを失ってしまうの?
泣きじゃくるサラに、言い聞かせるようにレオンは言った。
「サラを助けて命を落としたルークのことを思うと、辛い気持ちはよくわかるよ。だが、サラ、もう行こう。早く行かないと、追手が来る。」
「ルークは死んでいません。まだ生きています。」
だって、私がまだここにいるから。
ルークが死んだら、私は天界にもどされるのだから。
レオンは、ルークの死をサラが受け入れられないのは、サラの身代わりにルークが命を落としたという現実が、あまりにも辛くて悲しいからだろうと思った。
「そうだね。ルークはまだ生きているかも知れないね。サラを無事に送り届けたら、必ずルークを探そう。」
この崖を落ちて、とても助かるとは思えなかった。
今のレオンに言える精一杯の慰めの言葉だった。
レオンに引っ張られるように立ち上がり、歩き始めたサラは、しばらく涙が止まらなかった。
ルークは崖の下のどこかでまだ生きている。
お願いだから、早くルークを探して・・・。
心の中でそう叫び続けていた。
崖の道を過ぎると、左右に木が生えている山道になり、次第に道は広く平坦になっていった。
「この林を抜けたら街道だ。」
とレオンが言ったとき、後ろから馬の走る音が聞こえてきた。
振り向くと、五人の兵士だった。
「とうとう来たか。思ったより遅かったな。」
レオンが呟いた。
五人の兵士、サンチェス公爵の私兵が遅くなったのも無理はない。
兵士たちは、表道を通って、鷲城に到着した。
聞いていた話では、城に着くと、男に聖女と護衛騎士を閉じ込めている部屋に案内されるはずだった。
だが、しばらく待っても、誰も出てこない。
おかしいと思って中に入ると、体格の良い男が二人、倒れていた。
五人に緊張が走った。
倒した奴が、中にいるのかどうかもわからない。
城内を進むと、広間に出た。
そこでも男が二人倒れていた。
鷲城で二人の見張りを任されたのは、六人だと聞いている。
残りの二人はどこだ?
部屋を探すと、他に人はおらず、切られたロープだけが見つかった。
詳しいことはわからないが、聖女と護衛騎士は逃げたと判断した。
裏道を通って逃げたのだろう。
五人の兵士は、二人を追いかけたが、整備されていない山の坂道を馬に乗って行くのは危険なので、馬に乗らず、馬の手綱を引っ張って道を下った。
途中、崖道で、男が倒れているのを見つけたが、この道はもろく崩れやすいことが分かったので、特に慎重に歩いた。
やっと平地に出た頃には、ずいぶんと時間が経っていたのだ。
五人の兵士が、レオンとサラに追いつき、リーダーが言った。
「二人とも動くな。」
レオンは剣を抜いて、笑いながら兵士に言った。
「はは、動くなと言われて、はいそうですかと聞くわけがなかろう。」
「何をふざけたことを。」
「俺たちを助けに来たのか?」
「ふふ、残念ながら、その反対だ。」
「俺をグランテリアの王と知っての狼藉か?」
「護衛騎士が何を言う。お前たちの命はもらった。」
その言葉を聞いて、レオンは腹黒い笑みを浮かべた。




