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憂鬱聖女の結婚事情 ー憂鬱聖女は今日も最愛の恋人を探して旅に出ますー  作者: 矢間カオル


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65話 脱出

「殺してやる!」


大柄の男二人が、剣を振り上げて迫ってきた。


「ここを動かないで。」


ルークはサラに声をかけると、ジェイコブにもらった短剣に手をかけ、男たちに向かって駆けた。


シュパッ!

シュパッ!


ドサッと音を立てて男たちが膝から床に崩れ落ちた。


瞬殺だった。


しかし、ギリギリのところで急所は外している。


熟練の騎士ならではの技だ。


運が良ければ命は助かるだろう。


だが、できれば、サラに血生臭いところを見せたくなかったのに・・・。


フウとため息を漏らし、ルークは短剣をしまった。


男が持っていた剣は、ルークの剣だった。


ルークは自分の剣を取り戻した。


戻ってきたルークに、サラは礼を言った。


「ありがとう。助かりました。」


ルークはその言葉に少し胸が熱くなったが、平静を保って言った。


「サラを必ず助けるって言っただろ?」


サラは、無言で頷いたが、その言葉がとても嬉しかった。


「サラ、さあ、行こう。」


ルークは自然とサラの手を握り、歩きだした。


サラは、手を握られて驚いたが、嬉しさの方が大きくて、今はそんな場合じゃないとわかっているのに微笑んでしまった。


そして、手を繋いだまま、ルークについて行った。


城の出入口につくと、また別の二人の男がいた。


どちらもさっきの男と同じように、大柄の強そうな男たちだった。


ここを出れば、城の外に出ることができる。


ルークは無駄な殺生はしたくなかったが、こればかりは、敵の出方次第だ。


男たちがどう出るかと見ていると、ルークと目が合った。


ルークを見つけた男たちは、


「このやろう、どうやって出てきた?」


「俺たちに見つかったら、命はないと思え!」


と剣を振りかざして襲ってきた。


ならば、迎え撃つしかない。


自分の剣を手にしたルークは無敵だ。


「サラ、ちょっと待ってて。」


ルークは、瞬時に男たちとの間合いに入り込み、男二人は、どうやって切られたのかもわからないまま倒れた。


これで四人。


あと一人はどこだ?


視界の範囲には見当たらない。


だが、このまま、俺たちを襲ってこなかったらそれで良い。


ルークは、サラの手をとり、城を出て裏道へと進んだ。


サラたちが閉じ込められたいた山城は、文字通り山に建てられた城なので、城から出ると、裏道は下り道で、整備されているとは言えない山道だった。


「サラ、道が悪いから転ばないように気を付けて。転びそうになったら、俺に掴まるんだ。」


「ありがとう。ふふふ、馬に初めて乗ったときも、同じようなことを言われたわ。あのときも、ルークに助けられたわね。」


サラは、初めての乗馬で、ドキドキしながらルークにしがみついたことを、懐かしく思い出した。


ルークもそのシーンを思い出して、少し顔が熱くなったが、つないだ手はそのままに、顔をサラに向けないようにして、歩いた。


「下まで降りたらどうするのですか?」


サラの問いにルークは答えた。


「サラを王城に送り届けた後、トビーに会いに行く。お前の望み通り、俺は生きてるぞって言ってやる。そして、トビーを苦しめるものから、あいつを救ってやりたい。」


「ルークはトビーを信頼しているのですね。」


「ああ、トビーは私利私欲のために、あんなことをする奴じゃない。あいつは、俺が知る中で、一番誇り高き騎士なんだ。あいつの誇りを傷つけた奴を、俺は許さない。」


木が茂っている山道は、日中でも、光が木に遮られて、少し薄暗い。


だが、歩くには十分な明るさで、ルークは、この明るさが続いているうちに、早く山を下りたいと思った。


山道には、二人の足音だけが響いていた。


が、ルークが急に足を止めた。


「ルーク?」


「静かに。」


小さな声でサラに囁いた。


耳を澄ませると、自分たちの足音以外の音が前方から聞こえてきた。


ルークとサラは木の陰に隠れ、ルークは剣を抜き、次の動きに備えた。


やってくるのは、敵か味方か? 


足音が近づいてきた。


曲がった道では、近くまで来なければ判別できない。


じっと足音の主がそばに来るのを待った・・・が、顔を見て驚いた。


医療従事者のレンだった。


いや、正式にはグランテリアの国王、レオン・グランテリアだが。


レオンが、二人の気配に気づき、立ち止まり、剣を握った。


このままうっかり戦闘になってしまっては大変だと思ったサラは、「レン様、私です。」と木の陰から顔を出し、声をかけた。


「サラ、良かった。無事だったんだね。ところで、一緒にいるのはルークか?」


「そうだ。」


ルークも顔を出した。


「ルークも無事で良かった。ルークには聞きたいことがたくさんあるからな。」


「ルークが助けてくれたのです。」


「そうか、ルークのお陰で逃げ出すことができたんだね。実は、俺は、二人の救出に向かっているところだったんだ。」


「俺たちが山城に連れていかれたことを、どうして知っている?」


「ああ、情報をつなぎ合わせて、ここだろうと判断した。時間がもったいない。歩きながら話そう。」


レオンは来た道を戻りながら、今までの経緯を話し出した。




レオンは、王妃ソフィアの話を聞き、噂を流すだけでなく、サンチェス公爵とゴメス侯爵に監視をつけていた。


三日前は、セブがゴメス侯爵の監視役だった。


ゴメス侯爵がサンチェス公爵を訪ねた後、ゴメス侯爵はいったん自分の屋敷に戻ったが、平民の服装で出てきた。


フードを深く被り、身分を隠していることは明らかで、セブは、怪しいと思いながら後をつけた。


ゴメス侯爵が、酒場に入ったので、セブも目立たぬように酒場に入った。


ゴメス侯爵は、店の隅のテーブルまで行くと、既にそのテーブルに座っていた右目の下にホクロがある男の向かいに座り、ひそひそ話を始めた。


「・・と聖女を・・・三日後に・・・」


ゴメス侯爵の近くに座り、神経をとがらせたが、聞き取れたのは、この言葉だけだった。


ゴメス侯爵は、男に何か書かれた紙を渡した。


男がその紙を折りたたんで、右のポケットにしまうのを、セブは見過ごさなかった。


無造作にしまわれた紙の端が、ポケットから少しはみ出ていた。


話が終わったゴメス侯爵は店から出たが、男はまだ一人で飲んでいた。


しばらくすると、男は立ち上がり、厠に向かって歩き出したので、セブは男に近づき、そっとポケットから紙を抜き取り、自分のポケットに隠した。


見事なまでの早業で、誰にも気づかれることはなかった。


セブが誰にも見られない場所でその紙を開くと、それは、簡単に書かれた手描きの地図だった。


王都から遠くない北西の位置に丸く印が付いていて、その場所は、鷲城と書かれていた。


内容を覚えたセブは、厠から戻ってきた男のポケットに、地図をそっと戻した。




宿屋でセブの話を聞いたレオンは、計画を練った。


ソフィアの話では、サンチェス公爵がサラを狙っているようだった。


三日後に、何かが起こる。


どこで何が、起こるのか。


迎賓宮にも、神殿への道中にも、優秀な護衛騎士が二人ついているし、襲うにしては目立ちすぎる。


ならば、神殿内でか? 


民衆をパニックにさせるような何かを起こして、その隙を狙う可能性が高い?


以前、ベイツ伯爵領での拉致事件もそうだった。


火事を起こして、その騒ぎの最中にサラを狙った。


だから、レオンは騎士たちを、平民姿で神殿内外に配置することにした。


ところが、問題の三日後、いつもの時間にサラは来なかった。


サラを待っている参拝者たちに、不満の声が上がる頃、神官が前に出て言った。


「皆さん、お待たせして申し訳ないが、聖女様のお身体の調子が悪いので、今日の祈りの時間は、お休みとさせていただきます。」


サラの調子が悪いとは聞いていない。


カイゼルに真相を聞いてみると、騎士団長から、サラとルークについて連絡があったと言う。


内容はこうだ。


トビーが騎士団長に、ルークと聖女が行方不明になったと報告に来た。

トビーはルークに、聖女のために水を持ってきてほしいと頼まれたので、水をもらいに行った。

水をもらって馬車に戻ると、ルークも馬車も消えていた。

どこに行ったのかわからない。

アイリスが同乗しなかったことに関しては、ルークから、聖女一人で行くことになったと聞いたので、そのままアイリスに伝えただけだと報告している。





これだけを聞くと、まるでルークが全てを計画し、サラを連れ去ったように聞こえた。


本当にルークがしたことなのか?


レオンは、ルークの今までの行動を思い出していた。


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