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憂鬱聖女の結婚事情 ー憂鬱聖女は今日も最愛の恋人を探して旅に出ますー  作者: 矢間カオル


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58話 医療宮

私はいったいどれくらい、この暗闇の中にいるのだろう。

腕が動かない。

足が動かない。

指先一つも動かせない。

目を開こうと思っても、まぶたが動かない。

音は時々何かが聞こえるような気がするのだけど、はっきりと聞こえない。

体が痺れたような感覚は、まだ続いている。

このまま私は死んでしまうのだろうか。

ううん、私はまだ死ねない。

生きなければ。

生きて、終戦と同盟を見届けて、ヒューイを探すのよ。


時々、私の身体を温かい何かが包んで支えてくれる。

ディック? セブ? それともルーク?トビー?

支えられた私の身体を潤すように、口の中に甘い水が流れ込む。

これはきっとアイリスね。

私を生かすために、命をつなぐために、飲みなさいって気持ちが伝わってくる。

頑張って飲み込もうとするんだけど、全部を上手く飲み込めない。

まだ、思うように動かせない。

目覚めたら、確かめたいことがあるの。

だから、私、諦めないから。

生きるから。

死なないから。

ああ、 また意識がも・・うろ・・うとして・きた・しんぱ・・いかけ・・てごめん・・な・さ・・・




レオンたち五人は、医療宮に案内されたが、中に入れたのは、医療従事者の身分のレオンだけだった。


他の四人は、レオン見送った後、迎賓宮に案内された。


レオンはまず、医療宮の 責任者であり、サラの主治医であるギルバート・ケリーを訪ねた。


「私はグランテリアの医療従事者、レン、ガドフィールでございます。国王陛下の命を受け、ゴールドスネークの解毒薬を持って参りました。」


「ああ、遠路はるばるよく来てくれたね。私は医療宮の責任者ギルバート・ケリーだ。よろしく頼む。しかしすごいな。グランテリアにはゴールドスネークの解毒薬があるなんて。」


「はい。医療分野の研究所を作り、日夜研究に勤しんでおりますので、数多くの解毒薬を作ることができました。」


「ところで君、ケイアル病って知っているかな?この国特有の病気なんだが。」


「はい存じております。我が国でも、国境に近い場所で、時折患者が出ますので。しかし、研究の結果、最近良い薬が開発されました。」


「それはすごい。」


「同盟が結ばれれば、共同研究も可能になることでしょう。」


レオンは、本当は一秒でも早くサラのもとに行きたかった。


しかし、自分を医療従事者だと印象付けるためには、ギルバートとの会話は必須だった。


レオンは医療従事者と名乗っているが、決して出まかせで名乗っているわけではない。


前王妃イレーヌが、医療研究所に力を注いでいるとき、レオンにも医学の知識はあった方が良いと、何度も研究所に連れて行った。


お陰で、本物の医者のような実践経験はないが、知識だけは、誰にも引けをとらないほどに蓄積されたのだった。


「では、聖女の部屋にご案内しましょう。」


やっとギルバートが腰を上げてくれたときは、ほっとした。


廊下を歩きながら、レオンはギルバートに話しかけた。


「聖女様の様子はどうですか?」


「まだ、難しい状態が続いています。私はこれまで、ゴールドスネークに噛まれて、こんなに長く生きた人を見たことがありません。護衛騎士の応急処置が、良かったこともありますが、それだけでなく、聖女の生きたいという意思を強く感じます。応急処置を施してすぐに死ななかったとしても、皆、薬を与えても、上手く飲み込めなくて、結果的に毒に負けてしまうのです。彼女の場合、なんというか、飲み込もうと努力しているように感じます。」


「そうですか。」


レオンは、毒におかされてもなお、使命を果たそうとするサラを思うと、胸が熱くなった。


そして、何としてでも助けなければ、と思った。


「それから、侍女の働きも良いですね。病人看護は、きれいな仕事だけじゃない。ですが、嫌がる素振りを全く見せず、黙々と献身的に働いていますよ。」


「着きました。ここです。」


ギルバートがドアをノックすると、中からアイリスの「どうぞ。」と言う声が聞こえた。


ギルバートがドアを開けると、アイリスは、後ろに立っているレオンを見て驚いた。


すかさずレオンは唇に指を立て、アイリスに黙っているように合図を送った。


ギルバートとレオンが中に入ると、「先生、急患です。」と看護師がギルバートを呼びに来たので、ギルバートは「失礼します。」と一言残して部屋を出ていった。


部屋には、ベッドで寝ているサラと、アイリス、レオンの三人だけになった。


レオンは、ベッドで寝ているサラを見て衝撃を受けた。


やつれて、生気のない青白い顔。


もう何日も、口にするのは薬だけで、しかもそれさえも、満足に飲み込めない。


こんなにやつれてしまうのは、当然のことだった。


「アイリス、今までよく頑張ったね。」


その言葉に、アイリスの目に涙が溢れた。


決して誰かに褒めてもらいたかったわけではないが、レオンの言葉が、アイリスの心にしみた。


アイリスは返事をしようと口を開いたが、それよりも早くレオンが言った。


「ああ、今の俺は医療従事者のレン・ガドフィールだ。だから、レンと呼んでおくれ。」


「は、はい。レン様。」


「さっきの医者が、アイリスのことを褒めていたよ。サラのために献身的に働いているって。本当にありがとう。」


「そう言っていただいて、本当にありがとうございます。」


「サラの様子はどうだい?」


「ずっと寝たままの状態が続いています。」


「薬はどうなっている?」


「二時間おきに、この器を使ってお薬を飲ませています。でも、飲んでくれるのですが、上手く飲めなくて、こぼしてしまうことがあります。」


「そうか・・・。ところで、護衛騎士が見当たらないが、今どこにいるんだ?」


「ルークは、薬をとりに薬室に行ってます。聖女様のお身体を拭くから、しばらく来ないように伝えています。トビーは、こちらに来ないで、毎日熱病の患者に、薬を届ける仕事をしています。」


「そうか。サラの体はもう拭いたのかい。」


「はい、ちょうど今終わったところです。」


「それなら・・・、しばらく、俺とサラの二人にしてくれないだろうか。」


「は、はい。それでは、私は迎賓宮に、着替えをとりに行ってきます。」


アイリスが部屋から出た後、レオンはしばらく、じっとサラを見つめていた。


「ああ、サラ。こんなにやつれてしまって・・・。助けに来たよ。今から薬を飲ませるから、必ず飲んでくれ。」


アイリスの言葉――上手く飲めなくて、こぼしてしまうことがあります。――


ギルバートの言葉――生きたいという意思を強く感じます。――


レオンは二人の言葉を脳裏に浮かべると、サラの上体を起こし、抱きしめた。


そして、解毒薬を半分、自分の口に含むと、サラの顔を上げ、口移しで薬を飲ませた。


ごくん。


サラの喉が動き、薬を飲んだことが分かった。


レオンは、ほっとして、残りの半分を口に含むと、もう一度サラに口移しで飲ませた。


ごくんと、またサラの喉が動いた。


「ああ、サラ、ちゃんと飲んでくれたんだね。一滴もこぼさずに。良かった・・・。」


レオンの目に涙が浮かんだ。


そして、そのまま、サラをしばらく抱きしめていたが、最後におでこにキスをして、そっとサラをベッドに横たえた。


レオンは、ベッドの横に置いてある椅子に座り、サラの寝顔を見ながら、アイリスが戻ってくるのを待っていた。


しばらくすると、ドアがノックされた。


「どうぞ。」とレオンが言うと、ガチャリとドアが開かれたが、そこに立っていたのは、アイリスではなく、ルークだった。


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