57話 入城
サラを医務室に運んだあと、ルークとトビーは薬草を届けるために、部屋を出て行った。
医者から、ゴールドスネークの特効薬がないと聞かされたアイリスは、急いでセブとディックに伝えに行った。
ちょうどディックは、付き人マテオと剣の鍛練をしている最中であったが、話を聞いて、すぐにサラのもとに行こうとした。
しかし、マテオからストップがかかった。
「ダメだ、ディックもセブも、医療宮に行くことはできない。お前たち護衛騎士は迎賓宮以外に入ることは許されていないんだ。特に医療宮は、城内にいる人々の極秘事項が多いから、医者ならともかく、よほどの事がない限り、入ることはできない。」
「くそっ、こんなことまで制限がかかるのか。では、今から伝書鳥で陛下に知らせるが、それはいいな。」
「ああ、伝書鳥の使用は許されているからな。俺の前で書くことが条件だが。」
ディックは、サラがゴールドスネークに噛まれたこと、ワーレンブルグには特効薬がないことなどを書いた。
それ以外の知らせたいことは暗号にして、誰が読んでも、隠されている意味は分からないように書いた。
マテオは文章に問題がないか確認し、許可を出したので、ディックは、伝書鳥レディを飛ばした。
それから、しばらくは、セブもディックも、サラに会いに行くこともできず、護衛もできない日々が続いた。
できることは、昼間はマテオと鍛錬をすることと、夜になると、城外に出て、情報を集めることぐらいだった。
サラが倒れて三日目、ディックが夜の酒場で皆が話すことに耳を傾けていると、サラのことを話す会話が聞こえてきた。
「おい、聞いたか。あの熱病で死にかけたパン屋の子どもが、なんとか生き延びたらしいな。聖女の薬が効いたそうだ。」
「ああ、他にも死にかけた子どもが助かったらしい。さすが聖女の薬だ。今まで、あの熱病には、薬がなかったのにな。」
「あの病気になった子どもがいれば、役所に届けておくと、騎士様が聖女の薬を届けてくれて、使い方も教えてくれるらしいぜ。」
「ほお、有難いこったな。それにしても、聖女の力はすごいな。願いを叶えるだけでなく、薬も作っちまうんだから。」
どうやら、ルークもトビーも、薬草を届けて使い方を教える際に、薬草のことを『聖女の薬』と伝えているようだった。
きっとこれは、ルークとトビーが、この国でのサラの地位を上げようと配慮しているのだろう。
ディックは、ルークのことが気に入らなかったが、サラに対する配慮を知り、少しは見直した。
だが、サラが毒蛇に噛まれたことは別問題だ。
ルークとトビーが、もっとしっかりしていれば、毒蛇に噛まれることもなかっただろうに。とディックは思った。
ディックがレディーを飛ばした翌日の夕方、グランテリアの王城にレディーが到着した。
ディックから届いた手紙を読んで、レオンは怒りに震えた。
いったい何のための護衛騎士だ。
セブとディックを外しておいて、これか?
レオンはすぐに騎士団長に連絡をして、潜入捜査に長けた九人を人選させた。
そしてもう一人、自分の替え玉も密かに呼び寄せた。
お忍びで領地訪問をする際には、長期に渡る場合、いつも替え玉に自分の代わりをさせていた。
レオンによく似たその替え玉は、髪の色が違うだけで、顔の作りも、目の色も体格も実によく似ていた。
普段は王城で、度のない黒縁眼鏡をかけて警備兵をしているのだが、必要な時は呼ばれ、カツラを被ってレオンの代わりを務めることになっていた。
「陛下、またですか。陛下の代わりを務めるたびに、私は胃が痛くなるんですよ。」
「今回はいつもより、長くなると思う。」
「え、そんな!早く帰って来てくれないと困ります。」
「もし、俺が帰って来れなくなるようなことがあれば、お前が俺の代わりに王になれば良いさ。」
「陛下、なんてことを言うんですか。私が王になれるわけがないでしょ。王の激務なんてやりたくありませんよ。警備兵の方がよっぽど気が楽で、自由ですからね。」
哀れな替え玉君は、これからしばらく胃炎に悩ませられることになるだろう。
騎士団長が、九名の騎士を連れてきた。
四人は、レオンと一緒に入国証を持って正規ルートでワーレンブルグに入国し、残りの五人は密かに国境越えをする。
彼らは、今までに何度も密偵として働いてきたので、それくらいは、お手のものだった。
レオンはゴールドスネークの特効薬や栄養剤などを荷物に詰めると、護衛四人と一緒にすぐに出発した。
時間がない。
急がなければ。
サラの命が危ない。
馬を何度も乗り換えて、ひたすら走り続けて、三日後には国境に着いた。
入国証を見せてワーレンブルグ内に入ると、今までのような走り方はできなかったが、馬に負担をかけない範囲で、できる限りの早さで移動し、二日かけて、ワーレンブルグの王城に着いた。
レオンの身分は、医療従事者レン・ガドフィール。
四人の護衛騎士と共に入城した。




