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憂鬱聖女の結婚事情 ー憂鬱聖女は今日も最愛の恋人を探して旅に出ますー  作者: 矢間カオル


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54話 噂

さて、ディックたちはどうしているかというと、昼間は鍛練と城内散策を繰り返し、夜になると、交代で、城外に出て、情報を集めていた。


三日目の夜は、セブは酒場で安い酒を注文し、飲んでいるフリをしながら、回りの会話に耳を傾けていた。


ここでも聖女の話で持ちきりだった。


アイリスから初日の騒動を聞いたときは、これからどうなるのかと心配していたが

会話の多くは聖女に対して肯定的だったので、セブは内心ほっとしていた。


それは良いのだが、時々混じるグランテリアの噂が気になった。


グランテリアの人間は野蛮人で、戦時には、女や子どもを容赦なく惨殺する。


捕まえられたワーレンブルグの兵士は、生きたまま目をくりぬかれたり、手足を切り取られたりすると、人々は噂していた。


グランテリアの騎士や兵士が、そんな残酷な仕打ちをするはずはなく、誰かが意図的に流している噂だった。


翌日の鍛錬が終ると、付き人のマテオに聞いてみた。


「マテオは俺たちに友好的に接してくれているが、グランテリアの騎士を憎いとは思わないのか?」


「ああ、実は、騎士になった頃は大嫌いだったよ。グランテリアの騎士や兵士については、いろんな噂が流れているからな。捕虜の目を生きたままくりぬくとか、手足を切り取るとか。でも、実は俺、休戦前に捕虜になったことがあるんだよ。ああ、俺も目ん玉くりぬかれるのかって、恐ろしかったよ。だけど、1ヶ月間収容所にいたけど、扱いは人間的だった。食事もまあ悪くはなかったし。休戦になって、戻って来れたけど、噂は嘘だったんだなってわかった。それから、少なくとも、お前たち二人のことは、憎くはないよ。」


マテオは笑いながら答えてくれた。


やはり、誰かが、意図的に噂を流しているのだろう。


実際に、グランテリアの騎士に会ったこともない民衆には、噂の真偽を確かめるすべもなく、グランテリアに都合の悪い噂だけが、どんどん一人歩きして広まっていく。


セブは、この状況で、終戦と同盟を結ぶのは至難の業なのだろうと思った。





サラが神殿で祈り始めて五日が過ぎた。


参拝者の中には、時々心無い言葉を投げかける者もいたが、その数は徐々に少なくなり、今では、落ち着いた雰囲気の中で祈りの時間を持つことができるようになった。


ルークとトビーは、迎賓宮を出てから戻るまで、護衛騎士としてずっとサラから離れずにいた。


ルークは、初めの頃、サラを見ると湧き出てくる不思議な感情を持て余していたが、もう慣れた。


というか、自分の感情を受け入れていた。


見た目は自分の好みのタイプだ。


馬車から降りる際に、トビーと交代で手を貸すようにしているが、できたら毎回自分がしたいと思う。


どんなに冷たい言葉を投げかけられても、嫌な顔一つせずに、まっすぐに相手を見つめ、誠心誠意答えようとするサラの姿を好ましいと思う。


真面目で一生懸命に、和平の使者としての役目を全うしようとする態度に、尊敬の念を抱いている。


それに、自分に危害を加えようとした者を許し、優しい言葉をかける姿を見たときは、尊敬の念を越えて、愛しいとさえ思った。


まだ出会って五日しか経っていないが、ずっと前からサラを愛していたような感覚が、なぜか時折り湧いてくる。


護衛期間は二ヶ月と言われているが、もっともっと長く、サラと一緒にいたいと思っている。


ルークは、このようなサラに対する特別な感情は、誰にも知られない方が良いと思った。


だから、自分の感情を表に出さないように、絶えずポーカーフェイスで接するようにしていたので、ルークの気持ちなど、誰にも分からなかった。




六日目の祈りの日、参拝者がいつもより、とても少なかった。


七日目は、もっと少なくなった。


神官がそのわけを教えてくれた。


「少し前から熱病患者が出てきていたのですが、昨日あたりから、急に熱病が流行り始めたようです。ですから、皆、用心して出歩かなくなったようですよ。」


「その病気を治す薬はないのですか?」


「今のところ、特効薬はないですね。でも、熱病と言っても、手足に少し発疹が出て、微熱が三日ほど続くだけなんですよ。熱が高めに出る人は、熱冷ましの薬を飲むことがありますが、三日たてば、自然に治りますので、薬を飲まない人が多いです。そんなに心配するような病気ではないのです。」


人数は少なくなったが、この日の祈りも無事に終わり、サラとアイリスは迎賓宮に帰った。


サラとアイリスが迎賓宮に到着し、ルークの手を借りて馬車から降りているときに、迎賓宮の執事が駆け寄って来た。


とても慌てている様子から、何事か大変なことが起こったのだと皆は思った。


「聖女様、大変なことが起こりました。第三王子殿下が熱病に感染したのです。さきほど、町から来た報告では、感染した子どもの中に、重症化した子どもがいるそうです。この件で、王妃様がお呼びです。」


サラとアイリスは、王妃が待つ第三王子殿下の部屋に案内された。


部屋に入ると、六歳の王子アンソニーがベッドで横たわり、ベッドのそばにいた王妃ソフィアが、心配そうな顔をサラに向けた。


「ワーレンブルグの太陽、王妃陛下にご挨拶申し上げます。」


「ああ、聖女よ。堅苦しい挨拶はよい。それよりも私の息子アンソニーを見ておくれ。」


アンソニーの手のひらには赤い発疹が出ており、息は苦しそうだが、意識はしっかりしていた。


「聖女様、お見舞いに来てくれたんですね。どうもありがとうございます。」


「アンソニー、私は聖女と少し話をしてくるから、待ってておくれ。」


サラはソフィアに促されて部屋の外に出た。


会話が中に聞こえないところまで移動すると、ソフィアの方からサラに話しかけた。


「先ほど、町から連絡が来た。この熱病にかかり、三日たっても熱が下がらなかった子どもが五人、今にも死んでしまいそうなほど、重症になっているそうだ。私の息子は、熱が出てから今日で二日目。まだ意識はしっかりしているが、もしものことがあったらと思うと、心配でならぬ。聖女は祈りで病を治すことができると聞いた。息子のために祈ってはくれまいか。」


王妃は、グランテリアで瀕死の状態にあったマリアが助かったことを聞いていたのかもしれない。


だが、あのときとは、状況が違う。


マリアを救うために、サラは封印された神力を、健康の女神サンテに送った。


女神なら神力は時間と共に回復していくが、神の力を持たないサラは、神力が回復することはなかった。


今のサラには、神のオーラを感じ取れる程度の、ほんの少しの神力しか残っていない。


今は、サンテの神力に頼るしかなかった。


「病を治せるかどうかわかりませんが、お祈りしたいと思います。王子殿下のそばに行きましょう。」


サラと王妃は、再度アンソニーのそばに立った。


「それでは祈ります。」


サラの声とともに、王子の部屋にいる皆が祈り始めた。


サラは祈りながら、神力の動きに集中した。


しかし、サンテからの神力は感じられなかった。


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