表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
憂鬱聖女の結婚事情 ー憂鬱聖女は今日も最愛の恋人を探して旅に出ますー  作者: 矢間カオル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/99

50話 初めの祈り

神官とサラが参拝者の前に立つと、それまでざわついていた人々が、静かになった。


しかし、皆がサラを見る目は、冷たく厳しい。


神官はそんな人々を見て困ったような顔をしていたが、気を取り直して、サラを紹介した。


「この方は、グランテリアから来た聖女です。我が国王が望まれたので、神殿に祈りを捧げに来てくださいました。祈り方には、決まり事があるそうなので、それは聖女からお聞きください。皆さんに神のご加護があらんことを。では、私はこれにて。」


神官は、聖女がここにいるのは、国王の望みなのだということを強調して、話し終わると、そそくさと出て行った。


サラが一人になると、人々が、またざわつきだした。


「グランテリアの犬!」


誰かが叫んだ。


「私の夫はグランテリアに殺されたのよ!」


「俺の親父も戦争で殺された!」


「帰れ!帰れ!」


人々から、憎しみの声が上がり、神殿の中は騒然となった。


トビーとルークは、サラの邪魔にならないようにと、少し距離を置いて護衛をしていたが、ルークは、危険を感じ、サラのそばに歩み寄った。


シュッと、何かがサラに向けて投げられた。


ルークはぐっとサラの肩を抱き、自分の側に引き寄せた。


パシッ!


もう片方の手で、飛んできた物を掴んだ。


それは、拳ほどの大きな石だった。


ルークが引き寄せなければ、サラの顔に当たっていただろう。


「誰だ!石を投げたのは? 出てこい!」


ルークは、目の前の人々に向かって大声で叫んだ。


その声は神殿に響き渡り、人々は一瞬で静まり返った。


しかし、私がやりましたと、出て来る者はいない。


「ルーク、いいのです。あなたのおかげで私は無事でした。どうもありがとう。」


サラは、敵国で、グランテリアのように順調にできるとは思っていなかった。


神官の言葉を聞いたときに、こんなこともあろうと想像もしていた。


だが、人々の声がとても悲しかった。


肉親を失った悲しみは、いつまでたっても忘れることはない。


戦争の傷跡がここにも残っている。


グランテリアでも、多くの人の嘆きを聞いてきた。


ワーレンブルグでも、人々の辛さは変わらない。


自分ができることは祈ることだけ。


でも、それが、少しでも、和平につながればいい。


戦争で苦しむ人たちのために、終戦を、和平をと、強く願った。


「皆様、私はグランテリア国王から、この国に和平の使者として遣わされました。グランテリア国王は、終戦を望んでいます。これ以上罪なき人々が苦しまずにすむよう、平和な世の中にするために、私を使者として遣わされたのです。ワーレンブルグの国王陛下は、私が皆様と一緒に祈る機会を与えてくださいました。国王陛下には心から感謝しております。どうか、皆さん、私と一緒にお祈りください。どのような些細なことでも良いのです。それが皆様の幸せにつながりますように。決まりごとは一つです。私が祈りの終わりを伝えるまで、祈り続けてください。」


静まり返った神殿に、サラの凛とした声が響いた。


人々のサラを見る憎しみの目は少なくなったが、好奇心の目は増えた。


初めて聞く祈りの決まりごとに驚き、隣どうしのお互いの顔を見合わせて、こそこそを囁き合うものはいたが、神殿内が騒然となることはなかった。


「それでは祈りを始めます。」


サラが祈り始めると、人々も祈り始めたが、目を閉じ、祈りの姿勢を取っている人は半分ほどであった。


ルークもトビーも、祈っている最中に、サラに何かする者がいないか緊張して見ていたが、誰も何もしなかった。


サラは、いつもなら、一番にヒューイのことを祈るのだが、それは止めた。


どうか、一日も早く終戦になり、人々が幸せに暮らせるようにと祈った。


祈り終わると顔をあげ、人々を見た。


祈っている者が半分、残りの者は、じっとサラを見ているか、きょろきょろと周りを見回しているかのどちらかだった。


ここにも、もと神のオーラを感じることはなく、ヒューイらしき人はいなかった。


「それでは、祈りを終わります。」


サラの言葉とともに、祈りの時間は終わった。




その頃、天界では、サラの友人たちは、大騒ぎだった。


「女性に、それも女神に石を投げるなんて、信じられる?」と愛の女神モーラ。


「どうかしてるね。」と戦いの男神ビンセル。


「サラ、可哀そう。前途多難だね。」と農業の男神ハービス。


「こうなったら、サラのために、できるだけ、多くの人の願いを叶えてあげるのが良いね。物事の本質を見抜けない者は、損得勘定だけで判断しようとするから。」と金銭の男神ゴルダード。


「そうね。今回は広く浅くよ。神力をあまり使わなくて済む願いを、たくさんかなえてあげることにするわ。」と健康の女神サンテ。


神たちの瞳に、闘志で燃える赤い炎が浮かび上がった。




一回目の祈りが終わると、サラは、今後も何度も祈りの時間を持つことを告げ、一礼して、壇上を去った。


人々もまた、神殿を去っていった。


カイゼルは、神官見習いの仕事として、神殿の出入り口に立ち、帰っていく人々を、見送っていた。


初めから終わりまで、この場所から見守っていたが、グランテリアとのあまりの違いに、ドキドキハラハラして見ていた。


サラに向けて石が投げられたときは、恐ろしさのあまり、卒倒しそうになったが、ルークがサラを助けてくれたので、本当にほっとした。


その後もどうなることかと心配していたが、サラが祈りの前に、人々に話をしたあたりから、なんとなく、空気が変わったように見えた。


そして今、神殿を出て行く人を見ていると、殺気立った表情が抜けているように感じた。


中には、少し微笑んでいる人もいた。


親子連れの会話が聞こえた。


「願いが叶うといいね。」「ふふふ。ほんとにね。」


憎しみの声を上げている人がいたが、必ずしも全員がそうではないのだとわかった。


ワーレンブルグの人々も、グランテリアの人々と基本的には変わらない。


同じ物事に対しても、人によって、感じ方も考え方も違う。


カイゼルは、サラがこの国でも、多くの人に受け入れられて欲しいと思った。



その後、サラは、何回も祈りの時間を設けたが、人が多かったのは一回目だけで、その後は、少人数での祈りとなった。


しかし、グランテリアに対する憎しみは相当なもので、グランテリアから来た聖女と聞いただけで、怒りだす人が多かった。


だが、初めは怒っていても、サラの和平を望む真摯な態度と誠意のこもった話を聞くと、多くの人が怒りの鉾を収めるのだった。


聖女と一緒に祈れることを、知らなかった人も多く、サラを見て、初めて聖女を見たと喜んでいる人もいた。


護衛騎士のルークとトビーは、また同じことが起こったらと、緊張して護衛を務めていたが、心配していたことは起こらず、ほっとした。


サラの祈りの時間は夕方までと決められていたので、時間になると、サラたち三人は迎賓宮に帰ろうとした。


しかし、神官が、カイゼルを引き止めた。


「この神殿は、人手不足なので、もしよかったら、神官見習いとして、しばらく神殿にいて欲しいのだが、どうだろう。」


「付き人の自分が、いきなりグランテリアの神官見習いとして働いてもいいのですか?」


カイゼルが驚いて聞くと、神官は言った。


「私から陛下に話しておくから大丈夫。」


今は御者の仕事がなく、付き人はアイリスがいれば十分だ。神殿で情報を得る方が、何かの役に立つのではないか?


そう思ったカイゼルが、問いかけるようにサラを見ると、サラは笑顔で「カイゼルが望む方を選びなさい。」と言った。


「それなら、よろしくお願いいたします」とカイゼルは神官の申し出を受け入れ、本日から、神官見習いとして、この神殿で過ごすことになった。


  


迎賓宮への帰り道、馬車の中でアイリスはサラに話しかけた。


「聖女様、今日は本当に大変な一日でしたね。それにしても、お怪我がなくて本当に良かったです。」


「ええ、本当に。ルークのおかげで助かりました。」


あのとき、ルークが肩を抱き寄せてくれたから、石が当たらずに済んだ。


もしも、ルークがいなかったらと思うと、ぞっとする。


そして、一瞬だったけど、抱き寄せられたときの感覚が、ルークの胸の鼓動が、今も忘れられない。


怖かったのに、温かい。


ルークを思い出すと、何故かサラの胸が少しだけ熱くなった。





サラとアイリスを迎賓宮に送り届けた帰り道、ルークはセブに尋ねた。


「なあ、聖女、じゃない、サラのことをどう思う?」


「とても美しい人だね。それに美しいだけじゃない。あの最悪の状況の中で、臆することなく、堂々とみんなに話している姿には、感動したよ。」


「ああ俺もだ。サラは、一度決めたことは、最後までやりとげようとするからな。」


「あれ? お前、どうしてそんなことを言うんだ? まるで前から知っているみたいな口ぶりだな。」


トビーに言われて、ルークは自分でも驚いた。


「いや、何となくそう思っただけだ。」


なぜ、俺はそんなことを思ったのだろう?


そして、サラと口にしたとたん、とても懐かしい気持ちになり、胸が甘く疼いたことを不思議に思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ