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憂鬱聖女の結婚事情 ー憂鬱聖女は今日も最愛の恋人を探して旅に出ますー  作者: 矢間カオル


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48/99

48話 それぞれ

ワーレンブルグ国王夫妻の寝室。


「ソフィア。今日の私はどうだったかな。ちゃんと威厳よく言えたかな。」


「はい。陛下。国王らしく振る舞えていらっしゃいました。」


「そうかそうか。ソフィアに褒めてもらえることが、私は一番嬉しい。それでは私はもう寝るよ。愛しているよ。お休み。」


隣で寝ている夫を見て、ソフィアは思った。


そう、確かにこの男は、国王らしく堂々とした態度で聖女たちに言葉をかけた。

サンチェスの台本通りに・・・。

それにしても、サンチェスは何故、二ヶ月も聖女を留める気になったのか。

聖女の祈りで国民の願いを叶えるためとか、もっともらしいことを言ってたが、本心とは思えない。

手の内を決して見せない彼だから、裏ではいったい何を考えていることやら・・・。

サンチェスは国民感情を煽ることに長けている。

国民に、グランテリアを憎むように仕向ける情報を流し、動かしているのは、サンチェス自身なのだから。


ソフィアは、二ヶ月間、聖女が無事に過ごせることを祈った。





サンチェス公爵邸の書斎。


ゴメス侯爵は、使用人が入れたお茶を飲んでいた。


高級な茶葉が醸し出す香りは豊潤で甘く、さすが公爵が好むお茶は違うと、ゴメス侯爵はサンチェス公爵のご機嫌伺に余念がなかった。


「ところで公爵様、聖女の話をどう思いましたか?」


「ああ、同盟が結ばれれば、国をあげて食料援助をすると言ってたな。まったく、何を考えているのやら。そんなことをされては、我々の利益がなくなるではないか。」


「仰る通りでございます。飢饉になれば、グランテリアの商人から、我々が仕入れているのですからな。」


ワーレンブルグでは、約十年ごとに冷害が起こる。


そのたびに食料危機に陥るのだが、サンチェス公爵とゴメス侯爵は、たとえ敵国であっても、裏ルートでグランテリアの商人と結びついており、安く仕入れた食料をワーレンブルグで高く売り、暴利をむさぼっていたのだ。


「公爵様、聖女の件は、いつ頃します?」


「ああ、期間は二ヶ月もあるからな。そんなに慌てることもあるまい。それよりも、聖女の化けの皮が剥がれるのが楽しみだ。」


「化けの皮が剥がれるとは?」


「なんだお前、まさか聖女の噂を信じているのではあるまいな。」


「いえいえ、そんなことはありませんよ。公爵様の仰る通りでございます。」


ゴメスは、慌てて否定した。やれやれ危ない危ない。


「聖女と一緒に祈ると願いが叶うなんざ、あんなのはただの思い込みに過ぎない。

あれは、グランテリアだからこその思い込みだ。

あの国には、聖女伝説が国民に浸透しているからな。

聖女も信仰の対象になっているわけだ。

明日晴れますようにと、聖女と一緒に祈ったら晴れた。

ああ、これも聖女のお陰だと考える。

祈らなくても晴れるものを。

くだらん。全く愚かな者たちだ。

しかし、ここは、ワーレンブルグだ。

聖女信仰なんてない。

つまり思い込みがないってわけだ。

一ヶ月もすれば、聖女と祈ることが無駄だと気づくことだろう。」


「本当に仰る通りでございます。」


「それに、もし、本当に聖女が人の願いを叶える力があるのなら、誘拐されたときに、自力で脱出できただろう。しかし、聖女は、一週間も地下室に閉じ込められた。聖女だ何だと言っているが、所詮、愚かな小娘に過ぎない。」


「その通りですな。さすが公爵様。洞察が素晴らしい。」


「ふふふ、聖女のことは、情報を流しておいた。神殿にも人を送る。明日が楽しみだ。」





バルビエ伯爵邸のルークの自室。


黒髪の、苦虫をかみつぶしたような顔をした若者、ルーク・バルビエは、混乱しまくっていた。


今までの人生の中で、もしかしたら、一番混乱しているかもしれないと思うほど混乱していた。


何故だ、どうしてだ、俺に何があった?

団長から聖女の護衛の命令を受けたとき、はっきり言って乗り気じゃなかった。

なんで俺が? 他の奴に頼めばいいのに・・・と思っていた。

だが、だが・・・


ルークは何度もあの瞬間を思い出しては、ドキドキして顔が火照った。


「グランテリア王国の使者が入場します。」と声がして、聖女が謁見の間に入って来た瞬間、ドキッとした。

自分でも驚いた。

そして、彼女が一歩一歩と近づいて来るにつれ、ドキドキと心臓が高鳴った。

俺は心臓の病にでもなったのか?

そう思ったが、今まで病気知らずの俺が、まさか心臓の病になるはずがない。

ああ、何なんだ。いったいこれは!

そう思っていたら、跪いた聖女が顔を上げた。

ドッキーン!!!

心臓が破裂するかと思った。

このままでは、やばい。

俺はどんな顔をしている?

顔を見られてはいけない。

そう思って顔をそむけた。

何か違うことを考えねば!

そうだ、八歳のときに、酔ったオヤジに理由もなく投げ飛ばされたことがあった。

あれにしよう。

ああ、思い出しただけでムカついてくる。

あのときに感じた理不尽さと痛さは忘れられない。

聖女から顔をそむけた俺は、悔しくムカつきながら、オヤジのことを必死になって思い出していた。


この感情、何かに似ている。

そうだ、神の肖像画を見たらムカつくあの感情だ。

理由がわからないのに、なぜがムカつくあの感情。

聖女も同じだ。

理由がわからないのに、なぜかトキメクこの感情。

えっ? 俺はときめいたのか?

聖女に?

顔もはっきりと見えない入場の瞬間から? 

わからん。わからん。

俺はいったい、どうなってしまったのだ?

だが、はっきり分かることがある。

俺は聖女が嫌いじゃない。

きっと嫌いになるだろうと思っていたが、そんなことはなかった。

いや、それよりも、もっとそばで見ていたいと思う。

ああ、また変なことを考えてしまった。

俺はいったい、どうしたんだ!

明日から聖女の護衛が始まるというのに・・・。

とりあえずは、この感情がばれないようにしなくては。

こうなったら、ポーカーフェイスを貫くしかない!

 


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