47話 謁見の間
レオンは、ワーレンブルグ国王から届いた親書を読み、思ったより早く使者の受け入れが承諾されたと思った。
そしてすぐに準備を始め、一ヶ月後の暖かい春の日に、和平の使者サラは、ワーレンブルグへと旅立った。
護衛騎士はセブとディック、侍女はアイリス、御者兼付き人は、もちろんカイゼルである。
親書の中には、入国証が十枚入っていたが、何が起こるかわからない危機感の中、五枚はいざというときのために残しておいた。
レオンは、どうか無事であってくれと、祈りを込めて、別れ際に、サラの手の甲に口付けをした。
握った手の柔らかさと温もりが、今もはっきりと感じられる。
レオンは自分の手を握りしめ、どうか無事で帰って来て、あの優しい笑顔をもう一度見せてくれと願った。
サラたちが、ワーレンブルグの王宮に着いたのは出発して十日後であった。
王宮に着くと、まず、迎賓宮に案内された。
迎賓宮は、贅を尽くした美しい宮殿で、使者に対するこの国の姿勢が感じられた。
宿泊する部屋に荷物を運ぶと、明日の国王謁見のときまで、迎賓宮から出なければ自由にして良いと言われたので、一行は、迎賓宮の中を少し見学して過ごした。
しかし、見学している最中も、付き人と称する監視の者がずっとそばにいるので、決して自由とは言えないものであった。
翌日、時間になると、案内人がやって来て、王宮の謁見の間に、サラ、セブ、ディックの三人を案内した。
アイリスと、カイゼルは謁見を許されておらず、今回は留守番だ。
案内人は、何度も謁見の作法を口にした。
まかり間違えば首が飛ぶからと、同じことを何度も繰り返した。
顔を上げずに、うつむいて歩くこと。
許しがあるまで顔を上げない。
謁見の間で、許しがないまま王と目が合えば、謀反のうたがいありと見なされ、その場に控えている騎士に切られると言われた。
過去に、謁見の間で物騒なことがあったのだろうかと、思わずにはいられない。
謁見の間に着くと、扉が開かれた。
「グランテリア王国の使者が入場します。」
と案内人が言った。
サラを先頭に、その後ろにセブとディックが並んで歩いた。
前を見ず、うつむき、赤い絨毯を見ながらまっすぐに歩いた。
「その場で跪きなさい。」
と声がしたので跪いた。
すると、次は、低くどっしりとした威厳のある声が聞こえた。
「面を上げよ。」
サラが顔を上げると、壇上に王と王妃、王太子の三人が椅子に座って、サラをじっと見ていた。
「ワーレンブルグの太陽であらせられる国王陛下、王妃陛下、王太子殿下にご挨拶申し上げます。私はグランテリアから和平の使者として参りました聖女サラと申します。」
「用件を申してみよ。」
「恐れながら申し上げます。グランテリア国王は、ワーレンブルグとの終戦並びに同盟を望んでおられます。この望みが叶った暁には、ワーレンブルグの飢饉には、国をあげて援助すると申しております。我がグランテリアでは、ここ三十年の間に、食糧生産量が、飛躍的に向上いたしました。十分にご期待に添える援助ができることでしょう。ここに国王からの書簡がございます。どうぞお納めくださいませ。」
横に控えていた王の侍従が、書簡を受け取り王に渡した。
「では、私からも言おう。今回の案件は、早々簡単に決めることはできない。返事は二ヶ月後、それまでは、迎賓宮に留まってもらいたい。それから我が国には、聖女の伝説がないものでな。国民の皆が聖女というものを知らぬ。だから二ヶ月間、そなたにグランテリアでしていたことと同じことを、この国でもしてもらいたいのだ。それから、後ろに控えている護衛騎士、そなたたちは、敵国の騎士だ。我が国を好き勝手に動いてもらっては困る。それゆえ、明日から聖女の護衛は、あの者たちに任せることにする。」
王が、少し離れて立っている栗毛色の髪と黒髪の若者二人を、手で示した。
一人は、真剣な顔でまっすぐにサラたちを見ていたが、もう一人の若者は、よほど嫌なのか、まるで苦虫を噛み潰したような顔をして、まともにサラたちを見ようとしない。
ディックが、驚いて
「恐れながら申し・・・」
と反論の意を表しかけたとき、サラが手で制した。
「国王陛下の仰る通りにいたします。私は二ヶ月間、この国で聖女としての、和平の使者としての役割を果たしましょう。ですから、どうか、終戦並びに同盟について、陛下のお心のままに、吟味してくださいませ。」
「おお、そうか。さすが聖女だな。よくわかっておる。護衛騎士よ、そなたたちに、付き人をつけるから、何かあれば、、その者に申し出よ。それでは、今日は、これにて終わりじゃ。」
謁見の時間が終わり、サラたちは迎賓宮に戻った。
しかしディックは、納得がいかなかった。
予定では、一週間くらいなら滞在は覚悟していた。
それ以上言い渡されたなら、一旦国に帰り、改めて出直すつもりだった。
それが、二ヶ月。
しかも、俺たちは護衛できない。
まるで、聖女を人質にとられたようなものではないか。
ディックの怒りをあらわにした顔に、アイリスもカイゼルも何をどう言って良いのかわからず、黙って見ていた。
聖女様は? とサラを見ると、ディックとは対照的に、なんとなく嬉しそうに見えた。
「聖女様はお怒りにならないのですか?」
「怒るだなんてとんでもない。少なくとも、二ヶ月間は、希望が持てるということです。私は、終戦に向けて、私ができることを精一杯するまでです。」
この言葉に、アイリスは感動し、ディックは、己の心の狭さが恥ずかしくなった。
だが、サラは、二人を思うと少し心がチクリと痛んだ。
サラは、この国で自由に動けるようになるには、終戦と同盟が必要だと考えていた。
それまでは、ヒューイを探したくても、我慢しなければならないと思っていた。
しかし、それがどうだ。
国王の方から、終戦を待たずして、ヒューイ探しをしても良いと言ってきたのだ。
ディックとセブには悪いが、ヒューイ探しができるなら、この国の護衛騎士でもかまわないと思った。
「聖女様の気持ちはよくわかりました。しかし、あの護衛騎士はいただけない。一人はともかく、あの黒髪の嫌そうな顔した騎士、あいつに聖女様を任せるなんて、納得がいきません。なあ、セブ、お前もそう思うだろ。」
それまで黙っていたセブは、急に話を振られて驚いたようであったが、
「ああ、確かにあんな顔をされてはな。だが、国王陛下の前で普通、あんな顔をするか?何か理由でもあるんじゃないかと、ちょっと気になってたんだ。」
サラは、苦虫を噛み潰したような顔をした騎士を思い浮かべたが、あのとき、不思議と嫌な思いはしなかった。
どちらかというと、セブの意見に賛成だったが、これ以上言うと、ディックが気を悪くするような気がして、黙っていた。
そして、明日からまた、ヒューイ探しが始まることに、胸が高鳴っていた。
サラの新しい旅が始まりました。
これからどうなるか、楽しみにしていただけたら幸いです。
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これを励みに、これからも頑張って書いて行こうと思います。




