46話 寝室
ここは、ワーレンブルグ国王夫妻の寝室。
「陛下、グランテリア国の使者を受け入れますよね。これはチャンスではないですか。」
「ああ、でも・・・サンチェス公爵とゴメス侯爵が何というか・・・。」
「あなたは国王なんですよ。もっとしっかりしてください。」
「ああ、そうは言っても、父上の借金のことを考えるとだなぁ・・・ああ、ソフィア、そんなに怖い顔をしないでおくれ。もう、私は寝るよ。愛しているよ。お休み。」
はぁと、ワーレンブルグ国の王妃ソフィアは、横で寝ている夫を見て、ため息をついた。
国王であり、夫であるオーウェンは、人前では威厳のある堂々とした態度で振舞うことができるが、プライベートになれば、優柔不断の小心者に変身してしまう。
私の夫の長所は、演技力と側室を持たないことくらいか・・・
それにしても、いつも私の進もうとする道を邪魔するサンチェス公爵とゴメス侯爵には、腹立ちが止まらない。
休戦期間を二年にしたいと言えば、最も反対したのは彼らだった。
これに関しては、国の現状を考えて、なんとか押し通したが、いつなんどき、反対されるかわかったものではない。
サンチェス公爵と、ゴメス侯爵、この二人の権力は、今や、王室をもしのぐ勢いで、誰もが彼らの顔色をうかがっていた。
ワーレンブルグには、良質の鉱山が多数存在する。
サンチェス公爵は、言葉巧みに、ときには弱みを握り、ときには借金のかたに、鉱山の所有者から、鉱山の権利書を次から次へと巻き上げた。
そのとき、腰ぎんちゃくのゴメス侯爵は、裏からサンチェス公爵が有利になるように動き、二人の連携プレイによって得た権利書だった。
サンチェス公爵とゴメス侯爵は、腕の良い鍛冶屋も武器商人も多数抱えていた。
戦争が激しくなればなるほど、莫大な利益を得ることができるのだ。
それに加えて、サンチェス公爵は、見栄張りの前国王にも目を付けた。
言葉巧みに、贅沢三昧の味を覚えさせ、湯水のように金を使わせ、気が付けば、前国王は、サンチェス公爵とゴメス侯爵に莫大な借金をしていたのだ。
もし、借金を返せと言われたら、王室は破産に追い込まれるだろう。
ソフィアはオーウェンと結婚してから、その事実を知り、とても悔しい思いをした。
まさか借金まみれの王室に嫁ぐことになろうとは。
しかも王妃となったあの絢爛豪華な結婚式が、サンチェスからの借金で成り立っていたとは・・・。
本当に笑える。
昔は王家所有の鉱山もあったのだが、今では、掘りつくされ、廃鉱となり、借金全額をまとめて返す当てもない。
もっと早くに手を打てば、このようなことにならなかっただろうに・・・。
愚鈍な王家の人間にも、腹立たしさを感じずにはいられなかった。
今は亡き、隣国のイレーヌ王妃なら、きっともっと早くに打開策を講じることができただろう。
ソフィアは二十二歳も年上のイレーヌのことを、敵国の王妃であったが、大きな関心を寄せていた。
若くして王妃になったイレーヌは、家臣の反対を押し切って、私費を投じて研究所を作ったという。
そして、そのおかげで王室は莫大な財産を築くことができた。
中には、王族ともあろう者が商人のまねごとをするなんてと、誹謗中傷をするものもいたらしい。
だが、夫のアシュラムがその者たちに牙をむき、イレーヌが自由に動けるように後押しをしたと聞いている。
なんとうらやましい。
私の夫は、もし、私が同じ状況になったら、助けてくれるのだろうか。
はぁと、またため息が出た。
とりあえず、明日の会議を乗り切らなくては。
サンチェスとゴメスが何を言うかわからないが、とにかく、邪魔をさせないようにしなくては。
とソフィアは固く心に誓った。
翌日、国王オーウェンの名のもとに、十三人の貴族が召集され、国王と王妃を含めた総勢十五人の貴族会議が開かれた。
議題は、和平の使者を受け入れるか、受け入れないか。
「和平交渉など、グランテリアは本気ですかね。また、我々を騙す気では?」
「そうですよ。二百五十年前の大飢饉のとき、約束していた食糧支援をしてくれなかった。そのために、どれだけ大きな被害が出たことか。餓死者の数は、それはもうひどいものでしたからな。今回も、いきなり手のひらを返すのでは?」
「確かにグランテリアが我が国にしたことは、許されるべきではないが、二百五十年も前のことを持ち出して、決めつけるのもどうかと思うのだが。」
「それに、今回の使者は、聖女なのだろ。一度会ってみるのもいいのでは?」
貴族たちは、それぞれの意見を述べるが、なかなか決着はつかなかった。
しかし、ずっと黙って聞いていたサンチェス公爵が、口を開いた。
「皆の意見をまとめるとだな。とりあえずは、聖女を受け入れてはどうかな。和平に応じるかどうかは、その後で決めれば良いではないか。」
公爵の顔色をうかがうことが、保身の絶対条件であることを、貴族たちは知っている。
サンチェスの意見の後に、口を開く者はいなかった。
「それから、私に一つ考えがあるのだが。」
サンチェス公爵は、続けて自分の考えを披露した。
すると、王妃が反応した。
「しかし、それでは、グランテリアが納得しないのではありませんか?」
「あちらが納得できないと言うのであれば、誠意なしと見なし、この話はなかったものとすれば良いのです。」
王妃は、それ以上言えなかった。
最後に国王オーウェンが、堂々と威厳のある態度で、言った。
「それでは、グランテリアの使者を受け入れることに決定する。受け入れについては、公爵が言ったことを基本とする。これにて解散じゃ。」
その威厳ある態度と大きな張りのある声は、さすが王だと思わせるものであったが、結局は、公爵の言いなりであった。
騎士団の練習場所で、数人の若者が剣の鍛錬をしていた。
そこへ、副団長が二人の若者を呼びに来た。
「おい、ルークとトビー、団長がお呼びだ。すぐに執務室へ行け。」
「はい。わかりました。すぐに移動します。」
そう答えたものの、名前を呼ばれた二人は、何故呼ばれたのか心当たりがなかった。
「おい、トビー、お前何かしたのか?」
「何を言う。優秀な俺が、そんなへまをするはずがないだろ。お前こそ、何かしたんじゃないのか?」
「いや、たぶん、何もしてないと思うけど・・。」
二人は訳が分からぬまま、執務室に向かった。




