41話 メイソン・ベイツ
注)今回は残酷な描写が含まれています。内容も非常に重いです。苦手な方、嗜好に合わない方は、ご注意ください。
メイソン・ベイツ少年は、ベイツ伯爵城で両親と一緒に暮らす元気な男の子だ。
もうすぐ六歳の誕生日を迎える彼は、少し気難しい父親と、優しい母親からもらう誕生日プレゼントを、とても楽しみにしていた。
ある日のこと、いつもより早く目覚めたメイソンは、二階にある子ども部屋のバルコニーに出て、空を見上げた。
雲一つない晴天で、澄み切った青空がどこまでも続いていた。
ああ、きれいだなぁと思った。
お父様は、昨日から王都にお出かけだ。
晴れて良かったな。
誕生日までには戻ってくるって言ってた。
きっと、僕のプレゼントも買って来てくれるんだろうな。
ふと下を見ると、母親が侍女もつけずに一人で庭を歩いていた。
あれ、お母様、一人でどこに行くんだろ。
散歩かな? それとも花を植えるのかな?
母親は、花の世話が好きで、よく庭師のキースに教えてもらいながら、花苗を植えたり、水やりを手伝ったりしていた。
メイソンも、一緒に植えたことがある。
キースの教え方が上手かったので、上手に植えることができた。
そんなメイソンを、母親は「偉いわね。」と頭をなでてくれたので、メイソンは上機嫌だった。
花苗を植えている母親は、とても楽しそうで幸せそうで、そんな母親を見るのも好きだった。
今、庭を一人で歩いている母親は、美しい濃い青のドレスを着ていた。
ああ、お母様のお気に入りのドレスだ。
あのドレスを着ると、城のみんながよくお似合いですって褒めるんだ。
僕もそう思う。
あのドレスを着たお母様は、きっと世界で一番の美人だよ。えへへ。
そうだ。お母様と一緒に花を植えよう。
メイソンは、母親のもとに向かった。
だが、花壇にはいなかった。
じゃあ、キースの家かも。
メイソンは、何度か訪れたことがあるキースの家に足を向けた。
庭師専用に作られた小さな家は、園芸資材や用具を入れる倉庫と、庭師の居住空間が隣合わせで作られていた。
キースの家が見えたとき、バタンと大きな音がして、ドアが乱暴に開かれた。
その音に驚いたメイソンは、思わす木の影に隠れてしまった。
出てきたのは、父親だった。
怒りを顕にした形相が恐ろしくて、メイソンは声をかけることができなかった。
父親は、小走りで、逃げるように去っていった。
お父様がなぜ?
お父様は王都にお出かけしたんじゃなかったの?
どうしてあんなに怒っているの?
幼心にも、ただならぬ予感を抱きながら、メイソンは、開け放たれたドアから家の中に入った。
しかし、中には誰もいなかった。
物音一つしない。
この部屋には、キースの寝室に続くドアがある。
メイソンは、恐る恐るドアを開けた。
メイソンは見てしまった。
血まみれのベッドの上に横たわる、二つの死体を。
ヒッ!
メイソンは、あまりの恐ろしさに声を上げることもできず、尻餅をついた。
血の海の中、男は服の上から背中がぱっくり割れていた。
その隣の女は、胸からあふれ出た血の海の中に横たわり、ドレスは真っ赤に染まっていた。
目をカッと見開いたその顔は、恐怖の絶頂で息絶えたことを物語っていた。
そして、無造作に転がされた斧が、女の体に重なっていた。
この人は誰?
お母様?
違う、違う、この人はお母様じゃない。
お母様は青いドレスを着てた。
絶対にお母様じゃない。
メイソンは逃げるように自分の部屋に戻った。
その日から、メイソンは悪夢にうなされるようになった。
赤いドレスの女が、自分に向かって歩いてくる。
メイソン、メイソン
ずるずると斧を引きずりながら。
メイソン、メイソン
女は名前を呼びながら、一歩一歩と近づいて来る。
ギヤーーッ!
メイソンは叫び声と共に目を覚ます。
違う違う、お母様じゃない。
その度に、メイソンは、バルコニーに出て空を見上げた。
お母様は、きれいな青空の日に、必ず戻ってくる。
あのお気に入りの青いドレスを着て、必ず戻ってくる。
メイソンは、毎日母親を待った。
待った。
待った。
しかし、母親が戻ってくることはなかった。
いつしか、晴れた日の空の色と、濃く美しい青いドレスの色、この二つの色を追い求めることが、メイソンの生きる証であり、人生の目標であり、彼の全てになった。




