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憂鬱聖女の結婚事情 ー憂鬱聖女は今日も最愛の恋人を探して旅に出ますー  作者: 矢間カオル


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38話 計画

ディックに話し終った後、ブラッドはベイツ伯爵城に向かっていた。


いつもなら、重苦しい気持ちを抱えたまま、ベイツ伯爵に会うことになるのだが、今のブラッドは、心が軽くなっていた。


ふわふわと浮いているようだった。


ずっと一人で抱えてきた。


今まで誰にも話せなかった。


今、初めて、誰かに聞いて欲しくてたまらなかったのだと自覚した。


あの護衛騎士は、最後まで話を聞いてくれた。


途中で怒りの目を向けることがあったが、それでも黙って聞いてくれた。


最後まで・・・。


嬉しかった。


罪を告白したのだ。


聖女を救った後は、自分はもう、どうなってもいいとさえ思えた。


しかし、ブラッドは、サラに関することを全て話したわけではなかった。


あまりにも取るに足らないことだから、一つだけ、ディックに話していないことがあった。


ブラッドは、サラを森の地下室に運んで、ベッドに寝かせた後、地下室から出て、ドアに鍵をかけた。


ドアから出ると、三メートル離れた場所に上に上がる階段がある。


階段を上がると、そこが地下通路の出入り口になっていた。


その場所は、森の小屋に隣接された物置小屋の床であった。


ブラッドは、本来ならば地下通路を歩いて城に行き、ベイツ伯爵に報告する予定だった。


しかし、ディックに話をするために城に向かわず、森に出ることにした。


ブラッドが物置小屋から出たとき、雲が切れ、柔らかな月光が辺りを照らした。


そのとき、月光を浴びて白く輝く花を見つけた。


遠い故郷の村でもよく見る花だった。


秋の訪れを告げる花で、祖国ではこの花をポーラーと呼んでいた。


北に位置する星に似ているという理由らしい。


ブラッドは子どもの頃から、この花が大のお気に入りだった。


今頃、故郷の父母もこの花を見ているだろうか。

私のことを思い出しているだろうか・・・・。

誰も来ないこの森で、誰にも見られず、ひっそりと俯いて咲くこの花は、まるで自分のようだ・・・。


ブラッドはポーラーを一輪摘み、物置小屋に置いてあった花瓶に入れて、地下室に戻った。


サラはまだ意識を取り戻していなかった。


そっと水を入れて、花瓶をテーブルに置くと、来た道を戻り、ディックのいる村へと向かった。


取るに足りない花のことなど、他人に話すことでもないので黙っていた。


だが、聖女が目覚めたときに、花に気付いて欲しいと思った。


欲深い思いであったが、願わくば、自分の思いが伝わって欲しいと思った。




ブラッドが去ると、入れ替わるようにセブが戻って来た。


ディックは、ブラッドとから聞いた話をセブに伝えた。


サラが、今は安全な場所で過ごしていることも。


「聞いたことは以上だが、ブラッドを信用してもいいのだろうか。」


「ブラッドと名乗ったんだね。ベイツ伯爵はその名を口にしていた。部下であることは間違いないだろう。もしもこちらを騙すつもりなら、偽名を使うんじゃないか? それにしても、なかなか城に戻ってこないと思ったら、まさか、ここに来てたとは・・・。」


二人はブラッドを半分信用することにして、これからのことを話し合った。


ミスがないように綿密に計画を立て、カイゼルとアイリスにもそれを伝えた。


夜が明けると、ディックは伝書鳥のレディを飛ばし、レオンに計画を伝えた。


ハービーに、倉庫にある食料を皆に分けるように伝えると、ディック、セブ、カイゼル、アイリスはそれぞれの役目を全うすべく、ベイツ伯爵城に向かった。


聖女捜索開始一日目から、多忙を極めた。


会議の後は、それぞれ決められた仕事をするために移動した。


セブとディックは、決められた地域に移動し、聖女に関する嘘の情報を流した。


身元がばれないように、平民服に着替えて、もっともらしく、あそこで、ここで、聖女を見たと情報を垂れ流した。


この情報を伯爵城に持っていくと褒美がもらえることも、忘れずに付け加えた。


カイゼルとアイリスは、ベイツ伯爵から片時も離れず、本部で情報収集の仕事をした。


ベイツ伯爵が、どこかへ行こうものなら、追いかけて、伯爵様が必要です!と袖を引っ張り連れ戻した。


情報を持ってきた人には、懇切丁寧に対応し、幾ばくかの褒美の金を渡し、どんな些細な情報でも構いませんから、何かあれば、必ずまた来てくださいねと念押しした。


ベイツ伯爵は、「たいした情報でもないのに褒美を渡す必要はない」と、不機嫌に言い放ったが、「このお金は聖女様のために使うようにと、神殿からお預かりしたお金です!」とアイリスも負けてはいなかった。


皆の連携プレーで、本部は忙しく、ベイツ伯爵は一人で行動する余裕がなかった。


ベイツ伯爵の監視は、昼間は問題なくこなせたが、夜が心配だった。


セブは怠慢警備兵を煽り、クソ真面目警備兵に変身させた。


警備中に居眠りをしていた兵士が、ネズミ一匹でも見逃さない意気込みに変わった。


就寝中に、ベイツ伯爵がサラに会いに行くことを一番恐れていたが、その時は、ブラッドからの連絡が来るようになっていた。


だが、用心に越したことはない。


兵士の変化で、用心深いベイツ伯爵が、夜に行動を起こさないことを願った。



一日目の夕方、ようやくレディーが レオンに手紙を届けた。


手紙を読むや否や、レオンは手紙を持つ手が震えだした。


顔面蒼白になりながらも、直ぐに、近衛騎士隊長に連絡した。


そして、翌朝日の出とともに特別に編成された五人の精鋭部隊と出発した。


しかしベイツ伯爵に悟られぬようにするため、移動中の服装は商人にした。


馬を早めに交換することを繰り返し、全力疾走で移動した。


あまりに急ぐレオンたちに、馬屋番が興味本位で聞いてきた。


「そんなに急いで、いったい何があるんだい?」


「大事な取引があってね。間に合わないと、店が他人の手に渡ってしまうんだ。」


「そりやたいへんなこって。気をつけて行きなさいよ。」


聖女捜索四日目の夜、レオンたちはやっと待ち合わせ場所のサウスタウンに着いた。


五日目の午前中にはディックとセブと合流し、これからの動きを話し合った。


六日目の朝、セブたち四人はベイツ伯爵城 から出ると、ブラッドに指示された場所に移動した。


森の近くにある空き家だった。


そこには既に武装したレオンと近衛騎士が待機していた。


そこへ、ブラッドがやって来た。


「今から案内しますが、馬のいななきひとつで感づかれるかもしれません。ここからは徒歩で。」


カイゼルとアイリスを残し、ブラッドに案内されて、レオンたちは、慎重に、静かに、素早く移動した。


計画では、森の小屋に到着したら、ベイツ伯爵より早く地下室に入り、水が出る部屋に隠れてベイツ伯爵を待つ予定だった。


だが、到着すると、ベイツ伯爵とサラの声が聞こえてきた。


ベイツ伯爵よりも、遅れて到着してしまったのだと悟った。


二人が何を言っているのか、はっきりと聞こえなかったが、とても悪い予感がした。


はやる気持ちを抑えながら、慎重に物置小屋の床にある入り口を開け、階段を降り、地下室へと向かった。


ブラッドがドアの鍵を開けているとき、中からはっきりと声が聞こえた。


「城の地下にある拷問部屋があなたの部屋だ。」


拷問部屋? そこで何を?


「なに、美しい顔に傷はつけないよ。」


顔以外には傷をつけると言うのか!


「そばに来ないで。」


ああ、サラ!


ブラッドが「開きました。」と言うや否や、レオンは怒り心頭で力任せにドアを開いた。


バーンと激しい音が響いた。


開いたドアの向こうには、今にもサラに触れそうな手はそのままに、振り返り呆然とレオンを見ているベイツ伯爵と、怯えた顔のサラいた。


ああ、間に合った!


「ベイツ伯爵、そこまでだ!」


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