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憂鬱聖女の結婚事情 ー憂鬱聖女は今日も最愛の恋人を探して旅に出ますー  作者: 矢間カオル


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35話 各自の仕事

セブがベイツ伯爵の監視を続けている頃、村はつい先ほどの喧騒が、嘘のように静まり返っていた。


村人たちは、初めのうちは走り回って、大声を出しながらサラを探していたが、ランプの油が切れると、それ以上探すことができなくなった。


火事の騒動と、聖女探しで疲れ切った体を休めるために、それぞれの家にもどり、睡眠をとっていた。


カイゼルとアイリスは、本当は眠らずにサラを探したかったが、疲れに抗うことはできず、テントの中でいつの間にか眠ってしまった。


村に戻って来たディックは、二人に毛布を掛けた後、テントの前で仮眠をとることにした。


明日は一日中動き回って、サラを探さねばならない。


そのためにも、少しでも仮眠をとっておいた方がいい。


そう思って毛布をまとい、仮眠を取ろうとしたが、悶々とした思いが心を支配し、なかなか眠れなかった。




人は、探し物をするときに、同じところを何度も探すことはよくあるが、いったん、ここにはないと確信を持つと、それ以上は探さない。


ましてや、ドアが焼け落ち、壁が半分剥がれ落ちて、屋根はあるものの、外から中が丸見えの倉庫など、もう一度探そうなどと、誰も思わない。


誰もいない、静まり返ったその場所で、倉庫の床がパカリと開いた。


下から梯子がかけられると、一人の男が、布で巻かれた大きな荷物を肩に担いで、ゆっくりと音もたてずに出てきた。


そして、そのまま、闇夜に消えて行った。




夜が明けるとすぐに、ディックは伝書鳥のレディーを空に放った。レディーには申し訳ないが、どうか1時間でも早く、レオンに届くようにと祈った。


この日は朝から大忙しだった。


明け方近くに村に戻って来たセブと話し合い、朝陽が辺り一面を明るく照らし始めた頃、ハービーに、倉庫にある食料を皆に分けるように伝え、ディックたち四人はベイツ伯爵城に向かった。


これから始まる聖女捜索について、ベイツ伯爵と話し合うためだ。


話し合いの結果、次のことが決まった。


セブとディック、警備兵の半分は、町や村に出て、情報を集める。


同時に、領民からの情報提供を求め、有力な情報提供者には褒美を与えることを公布する。


その集約本部はベイツ伯爵城とする。


本部には、ベイツ伯爵、カイゼル、アイリスが常駐し、領民からの情報を聞き取る。


夜には、皆本部に集まり、それぞれの情報を共有する。


城に残った警備兵は、城の内外の警備を強化徹底する。


ディックたち四人はベイツ伯爵城で宿泊し、ディックとセブは夜の警備に参加する。


身代金目的の場合、犯人は何らかの接触をしてくるはずだから、どんな些細なことも見逃さないようにと、セブは警備隊長に念押しをした。


ベイツ伯爵は、本部に自分が常駐することは構わないが、アイリスとカイゼルまで一緒にいる必要はないのでは? と三人の常駐に難色をしめした。


しかしアイリスが


「私たちは、聖女様のことが、心配で心配でしかたがないのです。私たちにも仕事をさせてください。」


と、泣きながら訴えてきたので、渋々認めた。


話し合いが終わった後は、各自、決められた仕事をするために解散した。


ベイツ伯爵は、ベイツ伯爵城の本部に、わざわざ情報を持ってくる領民などいないだろうと思っていたのだが、現実は違い、多くの情報がもたらされた。


町の宿屋にピンク色の髪をした美人がいたとか、移動している馬車の窓から見えた婦人は、聖女様だったとか。


その度に、アイリスとカイゼルが、事細かに聞き出し書き留めるので、本部の仕事は忙しく、ベイツ伯爵は、その場を離れてゆっくりする暇がなかった。


ベイツ伯爵は、情報提供者に礼は言うものの、その口調は冷たく、提供者の去り際には、その背中をゴミでも見るような目で睨んだ。


ベイツ伯爵は、情報がでたらめであることがわかっていたので、あからさまな褒美目的の情報提供者に、激しくイラついていたからだった。


しかし、それを表には出せない。


自分の隣にはカイゼルとアイリスがいる。


二人は、情報がでたらめであることなど知らないのだから、適当に二人に合わせる必要があった。


聖女の捜索は、夜に皆が本部に集まり、情報共有し、翌日の計画を話し合うまで続いた。


そしてやっと長い一日が終わった。


*  *   *


ディックたち四人が、ベイツ伯爵城に向かっているとき、サラは、天井から差し込む光を見ていた。


天井の板張りの隙間から、いくつもの細い光が差し込み、窓のない暗い部屋を、動くには困らない程度に明るくしていた。


入り口のドアを開けようとしたが、びくともせず、自分が閉じ込められたことを悟った。


「誰か、誰かいませんか?」サラは大きな声を出して呼びかけたが、バサバサと鳥が飛び立つ音が聞こえただけで、人がそばにいるようには思えなかった。


それはそうよね。

少し叫んだだけで、誰かが助けてくれるような場所に、私を閉じ込めるはずがないわね。

窓がなくひんやりとした部屋、天井から差し込む光。

たぶんここは、秘密の地下室?


サラの想像は当たっていた。


サラが閉じ込められた地下室は、ベイツ伯爵城から、二キロメートルほど離れた森の中に建てられた小屋の地下室だった。


小屋の窓から朝陽が差し込み、床を照らしていた。


その光が床板の隙間を抜けて、地下室を明るくしているのだった。


森は、ベイツ伯爵家専用の狩猟用の森で、許可なく入れば死罪だと言われていたので、領民は誰も入ったことがなく、小屋があることすら知らない。


知っているのは、伯爵と極一部の限られた者だけだった。


小屋は、城内で危険にさらされたときに、城外へ逃げる地下通路の出口であり、そこに作られた地下室は、長期間、潜伏できる秘密の隠し部屋だった。


数代前の伯爵の時代に作られたもので、代々爵位を受け継ぐものにしか伝えられない場所だった。


サラが部屋の中を見回すと、大きな布袋が四つ置かれていた。


結ばれたひもをほどいて中を見てみると、三つの布袋には干し肉、乾パン、ドライフルーツなど保存がきく食べ物が、乾燥剤と一緒に大量に入っていた。


残りの一つには、タオル、簡素な衣類など、生活に必要な日用品が入っていた。


この量なら、三ヶ月程度は余裕で暮らせそうだ。


サラが寝かされていたベッドは、木製の狭く質素なベッドだったが、布団はふかふかで、ごく最近運び込まれたのだと思った。


そして驚いたことに、古ぼけてとても美しいとは言えない室内だったが、きれいに掃き清められ、チリ一つ落ちていなかった。


隣に続く扉を開けると、石を積まれた壁でできた小さな部屋があった。


右の壁のちょうど腰のあたりに、石を掘って作った樋が突き出ており、そこからちょろちょろと清水が流れ落ちている。


石の床には溝が作られていて、清水はその溝を伝って左側の壁に開けられた穴を通って出て行く。


溝は少し傾斜になっているので、清水は止まることなく穴の中に吸い込まれていった。


この場所は水飲み場であり、水洗トイレでもあった。


敵の目を逃れて、長期間潜伏できるように作られた地下室であった。


この部屋で、数ヶ月はなんとか生きていける。


それがサラには嬉しかった。


あのとき、火事に向かって皆で走っていたとき、アイリスの足が速くて、少し私が遅れてしまったあの瞬間、何者かに後ろから鼻と口を塞がれ拘束された。


そこから先は、何も覚えていない。


本当に一瞬の出来事だったと思う。


気がついたら、この部屋のベッドに寝かされていた。


私を拉致した人は、私を殺す気がないようね。

もし殺しが目的なら、今頃とうに殺されて、天界へ戻っているはず。

父神ゼシュー様との賭けは、ヒューイか私のどちらかが死んだらゲームオーバー。

命さえあれば、ヒューイを探し続けることができる。

命さえあれば・・・。

それにしても、いったい誰が、私をここまで運んだのだろう・・・。


部屋の片隅に、小さなテーブルがあった。


テーブルには小さな花瓶が置かれていて、花瓶には俯いて咲く白い花が一輪活けられていた。


ふと、サラを監視していた男を思い浮かべた。


男は、村でサラが話しかけている間、俯いたまま、一度も顔を上げることがなかった。


この白い花は、あの男に似ていると思った。


そして、サラにはそれが、男からのメッセージのように見えた。


ごめんなさいと、サラに謝っているように・・・。




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