27話 目覚め
サラが目を覚ましたとき、自分がベッドに横たわっていることに気が付いた。
ああ、私は意識を失っていたのか・・・。
ぼんやりした頭で、意識を失ったときのことを思い出そうとした。
そのとき、聞き覚えのある声が聞こえた。
「サラ、目が覚めたかい?」
レオンだった。
王都で別れてから、まだ数日しか経っていないのに、何故かとても懐かしく思えた。
それほど今回の祈りは、身体にかかる負担が大きかったということだろうか。
それにしても、いつも忙しいはずの国王が、何故こんなところに・・・?
そう思っていると、レオンの方から話してくれた。
「サラが倒れたって、レディが手紙を届けてくれたんだ。サラのことが心配で、慌てて飛んできてしまったよ。といっても、俺は馬に乗ってきたけどね。俺にもレディのように翼があれば良かったのに。そしたらもっと早く来れたのに・・・。」
「陛下はいつからここにいらっしゃるのですか?」
「昨日の夜に着いたんだ。」
「あの・・・私はいったいどれくらい眠ってたのでしょうか。それからアイリスとカイゼルは?」
「眠っていたのは丸二日。それから、アイリスたちは別の部屋で寝ているはず。彼らはずっと夜中も眠らないで、君のそばにいたからね。彼らも疲れていると思って、俺と交代したんだ。」
「そうですか。二日間も眠っていたんですか・・・。陛下自ら私のそばにいてくれただなんて・・・ありがとうございます。」
サラは、喉の渇きを感じ、水を飲みたいと思ったが、国王であるレオンに頼むわけにはいかなかった。
まだ、疲れが残る体を動かして、自分で水を飲みに行こうと思って、ベッドから降りた。
しかし、二日間も寝込んでいた体は、想像以上に弱っていたらしく、足元がふらついてしまった。
レオンは、慌ててサラの体を抱きかかえて支えた。
おかげでサラは倒れることはなかったが、レオンの腕が自分を抱いていることに今更ながら気づいた。
その腕から逃れようにも、がっちりホールドされた腕を振り払うことはできない。
レオンはレオンで、初めはふらついたサラを思わず抱きかかえ、支えただけであったが、日ごろからの妄想が頭を過ぎり、抱き支える腕に、自然と力が入ってしまった。
ああ、このままずっと抱きしめていたい・・・。
そしてその唇に・・・
「陛下、ありがとうございます。あの・・・手を・・・」
レオンはサラの声で我に返った。
すぐに抱きしめていた腕をほどいたが、妄想していた自分が恥ずかしくなり、ポッと赤くなってしまった。
「あっ、すまない。つい力が入ってしまった。転ばなくて良かった。」
慌てて言い訳したが、もしもサラに頭の中を覗かれたらと思うと、恥ずかしくてたまらない。
サラに人の心を覗く力がなくて良かったと、心底思った。
「聖女様~! 目が覚めたんですか。」
アイリスとカイゼルの声が聞こえた。レオンと交代しようと部屋に入ってきたところだった。
「本当に心配したんですよ。マリアさんは良くなったけど、その代わりに聖女様が倒れるんですから・・・。もしもこのまま目が覚めなかったらどうしようって、本当に心配で心配で・・・」。
「心配してくれてありがとう。」
サラは、アイリスの頭を優しくなでた。
「あっ、僕もです。僕もものすごく心配しました。」
カイゼルが焦ったように言う。
「カイゼルもありがとう。」
サラは、カイゼルの頭も優しくなでた。
そんな微笑ましい光景を、レオンは眩しそうに見ていた。
結局この日は、サラの体調を考慮して、サラが寝ていた客室で過ごすことになった。
侯爵夫妻が、改めて礼を言いに来たのはもちろんのこと、食事もこの部屋に運び、サラ、アイリス、カイゼルの三人にレオンが加わって四人で食べた。
ディックとセブ、それにレオンが連れてきた護衛三名は、交代しながら真面目に護衛の任務についていた。
レオンは、王都で別れてから、旅の道中で起こった出来事を、アイリスとカイゼルから面白おかしく聞いて過ごし、翌朝早く、護衛とともに王都に帰っていった。
サラは、レオンを見送った後、マリアの様子を見に行った。
マリアはすやすやと寝息を立てていて、気持ち良さそうに眠っていた。
専属のメイドが言うには、サラが寝込んでいる間も、目に見えて回復していき、病人食をきちんと朝昼夕と食べたそうだ。
「本当に良かったね。」
サラは優しくマリアの頭をなでながら呟いた。
この後、いつものように民と一緒に祈りを捧げるために、サラたちは領地の神殿に行ったが、サラが、領主の娘の命を救ったという噂は瞬く間に広がったようで、待っていた民から熱狂的な歓迎を受けた。
サラは、そんな民たちと一緒に、一日に何度も祈りを捧げ、テイラー侯爵領を後にした。
別れ際に、侯爵の家族と城で働く全員の見送りを受けた。
その中心には、歩けるまで回復したマリアの姿があり、彼女は、馬車が見えなくなるまで可愛い手を振り続けてくれたのだった。
この後の移動は順調だった。
御者のニックの仕事は、テイラー侯爵領までだったので、ここから先の御者は、カイゼルの仕事になった。
カイゼルは、神殿で馬の世話もさせられていたので、馬には慣れていた。
時には、馬車を使って荷物を運ぶ仕事もさせられた。
雑用ばかり任せられると嘆くこともあったが、こんな風に役に立つのなら、雑用も悪くはないと思った。
テイラー侯爵城に来るまで、ニックの指導が上手かったようで、皆はカイゼルに安心して御者の仕事を任せることができた。
サラたちは、どこの領地でも歓迎を受けた。
中には「聖女様御一行、大歓迎」の垂れ幕を掲げて歓迎してくれる町もあったし、その領地に古くから伝わる歌と踊りを披露してくれることもあった。
レオンも、時々視察と称してひょっこりやって来たり、平民に変装して来ることもあったりで、思いのほか一緒に過ごすことが多かった。
大歓迎を受けるサラたちは、行く先々でとても温かい待遇を受け、アイリスもカイゼルもさすが聖女様だと、鼻高々であった。
しかし、サラは誰も見ていないときに、深いため息をつくことがあった。
アイリスはそれに気づいていたが、サラが人前で一切文句を言うことなく、誰にもわからないように自分の感情を表現しているのであれば、きっとそれは、触れない方が良いのだろうと思い、黙っていることにした。
聖女様は、皆の祈りの中の、悲しみや苦しみに共感し憂いているのだろう。
そんな慈悲深くお優しい聖女様だから、皆に愛され慕われるのだろう。
だから、これから続く旅も、きっと幸せな旅になるに違いない。
アイリスは、この思いがもうすぐ打ち砕かれることになるとは、思いもしなかった。
何と自分はお子様で甘い考えをしてたのか・・・と気づくことになることも・・・。




