23話 旅立ち
オークションが終わった後も、サラは毎日大神殿で参拝者たちと一緒に祈りを捧げていた。
聖女として降臨してから既に二ヵ月が過ぎた。
王都のほとんどの人と祈ったと思う。
しかし、ヒューイはいつまでたっても見つからない。
ヒューイは王都にいないのでは・・。
そう思ったサラは、次なる一歩を進むことにした。
そのために、レオンに謁見の申し込みの手紙を書いた。
王宮内の執務室で仕事をしているレオンに、執事が一通の手紙を持ってきた。
「聖女様からのお手紙でございます。」
「ああ、手紙なら、そこに置いといてくれ。」
レオンがまったく気にしない口調で執事に指示すると、執事は言われたとおりに手紙を部屋の真ん中に置かれているテーブルの上に置き、部屋から出て行った。
執事が部屋を出たことを確認すると、レオンは仕事をするのをパタリと止めてテーブルまで駆け、手紙を手に取ると、まるで初めてラブレターをもらった少年のように小躍りして喜んだ。
「はいはいはい。まるで恋する乙女ですね。」
ディックは年甲斐もなく喜ぶレオンを見て呆れて言った。
「今は何を言われても、聞かなかったことにするよ。」
レオンは封を開け手紙を読んだ。
「サラができるだけ早く俺に会いたいだって。俺も会いたいと思ってたんだ。オークションの日から忙しすぎて会いに行けなかったから、これは嬉しい!」
レオンは早速、明日祈りが終わったらすぐに来るようにと返事を書いた。
サラが来たら何を話そうか、
こないだの涙の理由をそれとなく尋ねてみようか。
救護院と図書館の物件を見に行くのもいいな。
そのときは、町の家に寄って休憩するのもいい。
まるでこれって、デートみたいだな。
えっ、デート?
レオンの妄想はどんどん膨らんでいく。
仕事をしては、時々手を止めてにやにやしている自分の上司に、またもやディックは呆れて、はぁとため息をついた。
翌日、祈りが終わってから、サラはアイリスとカイゼルを連れて王宮を訪れた。
事前に連絡を受けていた執事が、三人をレオンが待つ執務室へと案内した。
執務室には、レオンと護衛中のディックがいた。
レオンは待ってましたとばかりに、ニコニコ顔でサラたちを迎え入れた。
挨拶をしようとするサラたちに、かしこまった挨拶はいいから椅子に座るようにと言った。
皆が席に着き、一息ついてからレオンが切り出した。
「ところでサラ、今日は会いに来てくれて嬉しいよ。俺も早く会いたいと思っていたんだ。救護院も図書館も、今のところ順調に進んでるよ。今度一緒に見に行こう!」
喜び勇んで話すレオンだが、それに比べ、サラは重苦しい顔で俯いている。
サラの表情に気が付いたレオンは、心配になって尋ねた。
「・・・サラ、どうした? 何かあったのか?」
「今日は陛下にお願いしたいことがあって参りました。」
「願いとは? もしかして、この前の涙と関係あるのだろうか?」
「まったくないわけではございません。私は先日、陛下と踊ったこと、とても幸せでございました。ですが、世の中にはまだまだ不幸な人々がたくさんいます。そのことを思うと悲しくなってしまったのでございます。それで、今までは王都の神殿だけで祈っておりましたが、この国中の神殿を巡って、もっと多くの人と祈りを捧げたいと思ったのです。」
「なんと・・なんとサラの心は美しいのだ。」
「そのようなこと・・・滅相もございません。つきましては、領主の皆様に、陛下からご一報を届けていただきたいのです。それが私からのお願いでございます。」
王都の人々のために救護院と図書館を提案しただけでなく、
日々の人々との祈りも毎日欠かさず、
その上に、国中の人々のために祈りの旅に出るとは・・・
なんと素晴らしく清い心の持ち主なんだ。
とレオンはいたく感動した。
サラがいなくなってしまうのはとても残念だが、サラの国民を思う気持ちを大切にしたいと思ったレオンは、サラの申し出を受け入れることにした。
「私からのお願いも聞いてもらえるだろうか。」
「はい。私にできることなら・・・。」
「サラ、あなたの護衛をセブとディックに任せたい。」
「ちょっ、えっ、陛下!?」
傍で聞いていたディックが驚いた。
「ディック、安心して任せられるのはお前とセブだけだ。ここは一つ引き受けてくれ。」
ディックが王の命令をはねのけることなどできるはずもなく、結局、護衛を引き受けることになった。
セブには鍛錬から戻った際に報告したが、陛下の御心のままにと冷静に受け止めた。
サラたちが神殿に帰ると、アイリスが頬を紅潮させてサラを褒め称えた。
「聖女様、本当にすごいです。いつもいつも国民のことを考えていらっしゃる。また聖女日記に書くことが増えました。」
サラは、苦笑いをしながらアイリスの言葉を聞いていた。
いや、本心は違うから。
ヒューイ探しのためだから。
とは、口が裂けても言えない。
それにしても、レオンが簡単に願いをきいてくれたことにはホッとした。
心の優しい王だから、きっとああ言えば大丈夫だろうとは思っていたが、心のどこかが、ちょっとだけチクリと痛んだ。
各神殿には大神官ジェネロから、各領主にはレオンから手紙を出してもらうことで話はついた。
旅費は今までサラが祈りを捧げたおかげで、神殿にたんまりと金があるから、そこから出してもらえる。
後は日常のこまごまとした必要な物を大きなトランクに詰めた。
一緒に旅に出るアイリスとカイゼルも、あれやこれやとトランクに詰め込み準備が完了した。
旅立ちの早朝、セブとディックは護衛のために、レオンは見送りに神殿まで馬に乗ってやって来た。
「サラ、元気でね。何かあったら必ずすぐに戻ってくるんだよ。」
レオンの言葉にサラは優しく微笑んだ。
「それでは行ってきます。」
サラ、アイリス、カイゼルの三人が馬車に乗り、セブとディックが馬に乗って並走して馬車はゆっくりと神殿から出て行った。
見送りに出ていた神官たちは、すぐに仕事に戻ったが、レオンは馬車が見えなくなるまでずっとその場で見送った。
― 陛下と踊ったこと、とても幸せでございました。―
この言葉を聞いたときから、何度も、そして今も、大切な宝物のようにレオンの心に浮かんできた。
そのたびに胸のあたりがぽっと熱くなるのを感じるレオンであった。
サラたちが馬車で移動している頃、ある神殿で二人の若者が話をしていた。
「おい、お前。もうすぐ友人の結婚式が始まるってのに、何でそんなしかめっ面してるんだよ。」
「仕方がないだろ。俺は、あいつが大っ嫌いなんだから」
そう話した男が、祭壇の上に飾られているゼシュー神の姿絵を指さした。
「お前の神様嫌いも相当なもんだな。」
「ああ、昔っからな。あいつの顔を見ると、理由はわからないんだが、なぜかむかついてくるんだ。だから、今まで、神に祈ったフリをしたことはあるが、本気で祈ったことはない。」
「じゃあ、今日の結婚式も祈るフリだけか?」
「そうだな。新郎新婦には悪いが。もし、俺が祈るとしたら、好きな女が死にかけたときぐらいじゃないか。」
「ったく、お前にそんな女が現れることを祈るよ。」
ここまで読んでくださいましてありがとうございます。
やっとサラの旅立ちのときがやってきました。
旅立ちまでは、一気に読んでいただきたくて、間を空けずに投稿しましたが
ここからは週1程度で投稿したいと思います。
引き続き、読んでいただけたら幸いです。




