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憂鬱聖女の結婚事情 ー憂鬱聖女は今日も最愛の恋人を探して旅に出ますー  作者: 矢間カオル


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19/99

19話 自覚

国王レオンの毎日はとても多忙であった。


前国王アシュラムが崩御した後、ワーレンブルグ国との休戦調印に向けての準備から調印完了、

国葬を仕切り、王の仕事の引継ぎ、半年後の王妃の崩御に伴い、休戦期間延長の申し入れと調印、

そしてまた国葬、休戦調印後は、兵士たちを労い、被害者の救済、荒れ果てた町や村の復興など、

数え上げたら切りがない。


さらにここに、救護院と図書館の設立が加えられた。


この一カ月間は通常業務とチャリティー舞踏会とオークションの準備、並びに救護院と図書館に相応しい物件選びを並行して行った。


傍にいる家臣たちは、いったい国王はいつ眠るのだろうと疑問に思うほどだ。


今日もレオンは執務室で山と積まれた書類に目を通し、朝からずっと仕事をしていたが、いつものように集中できない。


あのとき、ダンスを中断して俺のハンカチで涙を拭ってやるべきだったか?

いや、それよりも抱きしめて慰めるべきだったか?

いやいや、抱きしめるのはやりすぎだろう・・・。

なら、別の部屋でもっとゆっくりと話をして理由を聞くべきだったか?


二日たった今でも、ぐるぐると同じ思いが頭の中を旋回する。


は~とため息が出てくる。


「陛下、仕事に集中してくださいよ。ため息、朝からもう十五回ですよ。見ているこっちの方が、ため息つきたくなりますよ。」


そう言ったのは護衛騎士のディックだ。


赤ん坊の頃から一緒にいるディックは、十五歳で国王直属の近衛騎士団に入団したが、主な仕事はレオンの傍から離れずに護衛をすることだ。


幼馴染であることから、二人でいるときはぞんざいな口調を許されている。


「十五回? そんなにしているか・・・。は~・・・。」


「はい、十六回目!」


いつもなら笑うか怒るかしているところだが、今のレオンはそんな気分にもなれなかった。


頭の中はサラのことばかり・・・。


「なあ、ディック、頭からある人のことが離れない。気になって仕方がない。だけど、どうしたら良いかもわからない・・・。こんなときってどうしたらいいんだ?」


「はいはいはい。人はね。そういうのを恋って言うんですよ。」


「こ、恋?」


「まーったく、いつもモテモテ王子で、寄ってくる令嬢をさらりとかわし続けていた陛下がね。とうとう恋を知りましたか。」


「こ、これは恋なのか?」


「だいたいね。自分の目と同じ色のサファイアを贈ったときからね。こうなるんじゃないかと思ってたんですよね~。」


「いや、あれは、ファンの一人としてだな・・・」


レオンはサラを神殿で見たときから気に入ってたし、大勢のファンの中の一人だと思っていた。


ただ、他のファンと大きく違うことは、五百年前の先祖リキエル公のように、聖女の知恵を借りて国を今よりも発展させたいと思ったことだろうか。


サラが舞踏会用のドレスを持っていないと知ったときは、ファン心理がいたずら心を起こし、自分の瞳と同じ色のサファイアを贈りたいと思ったことは事実だ。


だから、ディックに頼んでマダムベリーにサファイアのネックレスとイヤリングを届けてもらい、サラに似合うドレスの中から、この宝石に似合うドレスを選んで欲しいと、手紙まで添えたのだった。


しかしサラの涙を見てからというもの、サラのことが片時も頭から離れなくなってしまった。


何度も、サラを抱きしめて慰める自分を想像しては首を振った。


何度も何度も・・・。


やはりこれは恋なのか・・・。

だから、否定しても抱きしめたいと思ってしまうのか・・・。


「なあ、これが本当に恋だとして、俺はいったいどうしたらいいんだ?」


「まったくもう、めんどくさいったらありゃしない。自分の心に正直になったらいいだけでしょ。あっ、でも、振られたって俺は責任持ちませんよ。自己責任でお願いします。」


「自分の心に正直に・・・。」


レオンはサラを強く抱きしめ、慰め、キスをする自分を想像した。


途端にボッと火がついたように顔が真っ赤になった。


「まったく、何を考えているのやら・・・。先が思いやられますね。」


想像冷めやらぬ間に、ドアをノックする音とセブの名乗る声が聞こえたので、レオンは中に入るように命じた。


「ディック、交代だ。次はお前が鍛錬だ。」


「えっ、。もうそんな時間? じゃあ、陛下、これで失礼します。鍛錬行ってきまーす。」


セブもディックもレオンの護衛騎士として傍にいることが仕事であるが、二人ともレオン直属の近衛騎士団に所属しているので、騎士団の仲間との訓練や鍛錬は欠かせない。


今日のように、レオンが執務室で仕事をしている場合、二人は交代でレオンの傍と騎士団演習場を行き来しているのだ。


鍛錬が終わった後、汗臭いまま執務室に来るのは失礼にあたると思い、セブはシャワーで汗を流してから、用意した服に着替えてくることにしていた。


だから、セブの体からは微かに石鹸の香りがしている。


「ところで陛下、顔が赤いようですが、もしかして熱でも?」


「い、いや、何でもない。ところでセブ、お前の母上は元気か?」


セブの言葉にドキっとしたレオンは、慌てて話題をそらせた。


「?・・・私の母は元気ですが・・・。それが何か?」


「いや、ちょうど救護院の書類に目を通していたところでね。セブの母上のことを思い出したのさ。救護院があればもっと早くに治療ができただろうって。」


「あの時は、本当にお世話になりました。母が今も元気でいられるのは、陛下のおかげでございます。」


セブにとってレオンとの出会いは一生忘れられないものであり、自分の人生を変えてくれた出会いでもあった。



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