17話 チャリティーオークション
セブとディックは、こちらを睨むようにしてまっすぐ歩いてくる男に警戒感を持ったが、サラの隣に座っていたアイリスが、アッと声を上げた。
「あの男性は私の父でございます。父と約束していたのをうっかり失念しておりました。今日のオークションに父の好きな画家の絵が出品されるので、絶対に高値で買って欲しいとお願いしたところ、父が紹介する男性とダンスをすることを条件にされたのです。ダンスが始まる前に、私から父のもとに行く約束だったのですわ。」
アイリスの父は、娘が自分に気が付いたことが分かったようで、立ち止まった。
「では、皆様行ってまいります。ついでに、お相手の男性に何か高値で買っていただけるよう、セールスしてまいります。ふふふっ」
アイリスは十三歳とは思えない悪女っぽい笑みを浮かべ、父の元へと行くと、そのまま二人は雑踏の中に消えて行った。
レオンが三十人のダンス当選者と踊り終ると舞踏会はお開きになった。
そして皆は、次なるオークション会場の広間に移動した。
場の雰囲気を盛り上げる演奏をするために楽団も移動だ。
広間には人数分の椅子が用意されており、正面にはオークションの出品物を載せる台が置かれ、司会者として雇われたオークション専門家が、その横で待機していた。
レオン、サラ、アイリス、カイゼルの椅子は正面横の壁際に置かれていて、出品物も参加者の顔も両方見ることができる位置にあった。
全員が椅子に座ると、レオンが正面に立ち、チャリティーオークション開会宣言を行った。
「ただいまからチャリティーオークションを始める。皆の慈悲の心を見せて欲しい。このオークションが成功に終わることを切に祈っている。」
司会者の巧みな話術と誘導により、オークションは流れるように進んで行った。
皆、国王に良く見られたいという思いから、どんどん高値で売れていき、百個の品はあっという間に完売になった。
アイリスの父ハストルップ公爵は、目当ての絵画を買うために、司会者が提示した開始価格よりも高値の指値を付けたが、他にも欲しがる貴族がいたので、競り合った結果、かなりの高額で落札することになった。
この時、アイリスは悪女の笑みを浮かべていたのだが、それに気が付いたのは腹黒レオンだけだった。
オークションが終了するとレオンが閉会宣言をして、今回のチャリティー行事は幕を閉じた。
皆が注目する中、レオンとサラは退室し、その後に会場にいる人々は解散となった。
レオンたち一行は初めに会った応接室に戻り、お茶を飲みながら一息ついていた。
ディックは今日の収益のことが気になるようで、盛んに口にする。
「すっげぇ金が入ったんじゃないっすか? 参加者の寄付に、陛下と踊ろうカード抽選費、オークションの収益もすごかったし。予想より遥かに上回ったんじゃないかな。」
「そうだね。救護院を作れるぐらいは収益があったと思うよ。ところでサラ、ずっと座ってて、かえって疲れたんじゃないかい?」
「いえ、私は大丈夫です。陛下が約束をお守りくださいましたので、困ることもなく過ごせました。それにしても、私は本当にただあの場に座っているだけで、よろしかったのでしょうか。」
「困ることがなくて良かった。それから、サラ、他のことは何も気にしなくてもいいよ。貴族たちは皆、サラに会えたことを喜んでいたし、座っているサラを見て、まるでこの世に一枚しかない最高に美しい絵画を見てるようだと、得した気分になっている者もいたよ。」
その言葉を聞いて、カイゼルが思い出したように話し始めた。
「僕、何人かのご令嬢とダンスを踊ったんですけど、皆、聖女様を見たら御利益があるって言ってましたよ。願い事が叶うとか、良いことがあるとか噂が流れてたって。あっ噂を流したの、僕じゃないですよ。」
「ほう、そんな噂が流れていたとは・・・」
白々しく返事をするレオンに、ディックは噂を流した張本人がよく言うわ・・・と思ったが、口には出さずに飲み込んだ。
「あっそれから、ご令嬢が僕をダンスに誘ったのは聞きたいことがあったからで、陛下と聖女様の関係を聞かれました。」
ブッ とレオンが飲んでいた紅茶を噴き出してしまった。
慌ててハンカチで口元を拭う。
「そ、それで、カイゼルは何と答えたんだい?」
「聖女様は、チャリティーに協力しているだけだと答えました。」
「そうだね。正しい答えだと思うよ。」
と言いながらも、何故かチクッと心に痛みを感じた。
話題を変えようと、レオンはアイリスに話しかけた。
「ああ、ところでアイリス。ちらっと見ただけだったけど、君はダンスが上手だったね。さすが公爵家の令嬢といったところかな。」
「お褒めに預かりありがとうございます。幼少の頃より当家のダンスの達人に習っておりました。今日は父が用意した男性以外にも、数人と踊りましたのよ。オークションでは私のセールスが功を奏したようでしたわ。ふふふ」
アイリスの意味深な微笑みを理解したのは、レオンだけだった。
皆で談笑をしているところへ執事長がやってきた。執事長はレオンに耳打ちすると、一礼して去って行った。
「客は皆帰ったそうだ。サラ、舞踏会からオークションまで、君には何もしなくて良いと話していたが、二つの行事が終わったのだから、一つ私の願いを聞いてもらえないだろうか。」
「願いとは?」
「一緒に来てくれたらわかるよ。大したことじゃないから、そんなに緊張しないで。」
「・・・わかりました。」
「じゃあ、行こう!」
レオンはサラの手をとり、エスコートのときのように腕に手をかけさせ歩き始めた。
二人が歩くその後ろを、皆はどこに行くのかわからぬままついて行った。




