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憂鬱聖女の結婚事情 ー憂鬱聖女は今日も最愛の恋人を探して旅に出ますー  作者: 矢間カオル


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16話 チャリティー舞踏会

「はて、その心配とは何だろう。よかったら私に話してくれないか。」


サラは少し躊躇ったが、レオンは本当に自分のことを心配してくれていると思い、次の言葉を紡いだ。


「舞踏会に聖女の服を着て行って良いものなのかと・・・。しかしながら、舞踏会に相応しいドレスがございません。」


サラのクローゼットに用意されていたドレスは聖女用の衣装と、普段着のドレスばかりで、とても貴族の舞踏会に着て行けるようなドレスなどなかった。


場違いな服装で行けば、主催者のレオンに恥をかかせることになる。


それがサラの心配ごとであった。


「ああ、すまない。サラのドレスのことをすっかり失念していた。こちらから、ドレスの仕立て屋を遣わそう。それに合わせたアクセサリーや靴も全て揃えよう。だから心配しないで、すべて私に任せてくれ。」


レオンの言葉はいつも優しい。


レオンとサラ、二人のやり取りを、無言で見守り続けたアイリスとカイゼルであったが、間近でみる国王レオンの優しさと行動力に、感動しっぱなしであった。


アイリスは今日のことも、聖女日記に書かなくっちゃ!と思った。



二日後、サラのもとに、王都の有名服飾店マダムベリーのデザイナーが、弟子二人を連れてやってきた。


デザイナーはマダムベリー本人で、今流行のドレスのデザインをサラに見せながら、てきぱきと話を進めた。


「聖女様なので、胸元の露出は控えめにした上品なデザインにしましょう。美しい瞳の色に合わせたイメージがよろしいですね。胸元を飾るネックレスはサファイア色がお似合いですわ。」


最終的に、サラの瞳の色に合わせた水色のサテンに、花の刺しゅうが施されたドレスになった。


それに合わせて靴も水色、ネックレスとイヤリングはサファイアで作られているものが選ばれた。


それでは十日後にお届けいたしますと挨拶して帰っていった。




後宮を見学した日から1ヶ月後に、王宮でチャリティー舞踏会とオークションが開催された。


この日はアイリスも舞踏会用の薄黄緑色のドレスを着て神殿にやってきたが、自分の屋敷からサラのために化粧の達人を連れてきた。


普段化粧をしないサラは素顔でも十分に美しかったが、化粧をすることで美しさに輝きが増し、アイリスはただただ見とれるばかりだった。


ドレスの着付けと化粧が終わった後、カイゼルが部屋に入ってきたが、サラのあまりの美しさに、しばらくは声も出なかったほどだ。


王宮から迎えに来た馬車に、サラ、アイリス、カイゼルの三人が乗り、護衛騎士ディックとセブが馬で並走しながら王宮へと向かった。


王宮に着くと、初めにレオンが待つ応接室へと案内された。


応接室に入って来たサラを見たレオンもまた、サラのあまりの美しさに、しばし言葉を失った。


「・・・・・・・・サラ・・・・」


「陛下?」


「ああ、すまない。あまりの美しさに言葉を失ったよ。本当にきれいだ。まるで美の女神のようだよ。」


レオンからの讃辞は嬉しかったが、私は美の女神ではなく、愛の女神なんだけど・・・と思うサラであった。


レオンに案内され、王宮の舞踏会会場の入り口に二人で立つと、ネームコールマンが二人の紹介をした。


会場にいる全ての人々が、一斉に二人に注目をした。


そして零れ落ちるため息。


若く美しい国王陛下、その隣には美しすぎる聖女様。

キラキラ輝くお二人はなんて眩しい・・・。

聖女様に初めてお会いしたが、噂に違わぬ美しさだ。いや、それ以上だ・・・。


あちらこちらで感嘆の声が囁かれた。


人々が注目する中、レオンにエスコートされて会場の奥まで進むと、二人は振り返り皆の方に向き直った。


「皆のもの、今日はよく来てくれた。チャリティー舞踏会とオークションを存分に楽しんでほしい。だが、まず初めに、せっかく聖女殿が来てくれたのだ。今日の良き日を祝って、今から皆で祈ろうではないか。」


サラは一歩前に出て、いつものように言う。


「皆様、今から一緒に祈りを捧げましょう。私が終わりを告げるまで、ずっと祈り続けてください。それでは祈りを始めます。」


しばらくして、サラがそっと顔を上げ、祈る皆を見たが、ここにもヒューイのオーラは感じられなかった。


少しの落胆を伴って、祈りの終わりを告げた。


「それでは、皆のもの、今から舞踏会を開催する。」


レオンが片手で合図を送ると、楽団が音楽を奏で始めた。


レオンとサラが入場した後、一緒に入口まで来ていたアイリスたち四人は、そっと目立たぬように入場し、二人のそばに立っていた。


「サラ、君はこの椅子に座っているといい。セブとディック、サラを頼むよ。アイリスとカイゼルはダンスを楽しんでおくれ。」


そう言うと、レオンは会場の中央まで歩み出た。


すると、レオンの周りに美しく着飾った令嬢たちが群がったが、何やらみんな数字が書かれた桃色のカードを持っている。


一番のカードを持つ令嬢が、ポッと頬を染めて恥ずかしそうにレオンにカードを差し出した。


「一番のあなたは、エスカペイド伯爵家の令嬢、カトリーヌ嬢ですね。」


レオンはにっこりと微笑み、カトリーヌの目を見つめた。


カトリーヌはますます赤くなり、心臓の動悸に耐え切れず、ふらりと体が倒れそうになった。


するとレオンはさっと腰に手を回し、カトリーヌの態勢を立て直すと、ダンスの姿勢で手を握った。


「さあ、楽しくダンスを踊りましょう。他のご令嬢たちは順番に踊りますから、それまでは他の皆さんと踊っていてくださいね。」


楽団がワルツの演奏を始めた。


レオンとカトリーヌが会場の中心で踊り、その周りで男女それぞれがパートナーを決めて踊り始めた。


「カトリーヌ嬢、そんなに緊張しないで。そして私を見て。」


カトリーヌは緊張しながら顔を上げ、レオンを見上げた。


ああ、なんて美しい国王陛下・・・


心臓はバクバクだ。


「ああ、美しいカトリーヌ嬢、あなたの心もきっと美しいに違いない。慈悲の心で次のオークションにも参加してくださいね。オークションの成功は、あなたに優しさにかかっているのです。」


「はい。国王陛下・・・」


ワルツは二分ほどで終わった。


本来ならもっと長いワルツを奏でるところだが、次々とダンスをこなしていくために、あらかじめ楽団と示し合わせていたのだ。


「カトリーヌ嬢、楽しかったですよ。」


レオンはカトリーヌの手の甲に、軽く別れのキスをした。


「ああああ、ありがとうございます。」


それだけ言うのが精いっぱいで、カトリーヌはレオンから離れると、ふらつく足取りで会場内の椅子までたどり着き、崩れるように座った。


そして手の甲を見つめながら、一生手を洗わないわ!と誓った。


カトリーヌが離れると、次は二番のカードを持った令嬢が、レオンに近づき差し出した。


そしてレオンは同じようにダンスを繰り返す。繰り返す。繰り返す。



会場の奥に置かれた椅子に座っているサラは、次々にダンスの相手を替えて休みなく踊り続けるレオンを、ただただ感心して見ていた。


サラのいる場所は、いたって平和で、見知らぬ他人は誰も話しかけては来ない。


ポッと頬を赤く染めながら、ちらちらとサラを見る男性は絶えることはなかったが、事前に連絡(おどし?)が行き届いていたようで、近づいて来るものはいなかった。


まあ、セブとディックがにらみを利かせているからでもあろうが。


カイゼルは、護衛騎士が二人もいるのだから自分はいなくても良いだろうと、レオンの言葉に甘えてこの場と軽食コーナーを行ったり来たり。


育ち盛りのカイゼルにとって、専ら興味があるのはダンスより食い物だ。


しかし、たまに、令嬢に誘われてダンスをすることもあった。


この日が決まってから一ヶ月間、アイリスにダンスを習った甲斐があったというものだ。


ちなみに、着ている燕尾服は先輩神官から借りたものである。


「陛下はいったい何人の令嬢と踊るのですか?」


「三十人の予定です。チャリティーの一つだそうで、あのカードを手に入れるための抽選参加費もかなりの高額だったとか。令嬢、ご婦人合わせて二百人が抽選に参加したそうですよ。」


とセブが言うと、続けてディックがあきれた口調で続ける。


「陛下のあの爽やかイケメンスマイルでみんなは騙されてるけど、本当は腹黒策士なんですよ。俺たち部下だって、策のためなら平気でこき使うし・・・。神殿の一番前に座りたいからって、朝早くから俺たち騎士を並ばせて、時間ギリギリにやってきて交代するんですよ。まあ、陛下はとても忙しくて、仕方がないっちゃあ仕方がないですけどね。」


「こら、ディック、そんなことまで言わなくてもいいだろ。」


「はいはい、すみませんでしたー。」


セブとディックが話をしている間に、高位貴族らしい立派な身なりの男が近づいてきた。


まっすぐに、迷うことなき歩みで近づいて来るので、護衛騎士の二人は本来の仕事の顔つきに戻り、その男ににらみを利かせた。


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