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憂鬱聖女の結婚事情 ー憂鬱聖女は今日も最愛の恋人を探して旅に出ますー  作者: 矢間カオル


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15話 レオンの相談

サラが受け取った招待状には、王宮に招待するので、明日の祈りが終わった後に王宮に来るように。馬車で迎えに行かせるので、それに乗ってくるようにと書かれていた。


もちろん差出人はレオンだ。


翌日、王家の紋章が施された美しい馬車が、サラを迎えに来た。


馬で並走する護衛騎士はディックとセブが担っていた。


サラはアイリスとカイゼルを連れて馬車に乗り、王宮へと向かった。



王宮に着くと、通されたのは謁見用の広間ではなく、レオンの私室として使われている応接室で、ディックとセブが案内してくれた。


ディックがドアをノックすると、レオン自身がドアを開けてくれた。


前回会ったときの平民姿と違って、今は凛々しい国王の姿だったので美しい顔がより美しく見えた。


「ようこそ聖女殿、それにお茶の上手なアイリス・・だったかな。それからええーと君は・・・」


「カイゼルです。神官見習い兼聖女様の付き人をしているカイゼル・カルセドニーです。」


「そうか、カイゼルだね。覚えておこう。それじゃあ、椅子に座ってくつろいでくれ。」


レオンが手でソファーに誘導した。


「アイリスとカイゼルも一緒に座ってよろしいですか?」


「もちろん。」


サラはソファーの真ん中に座り、左右にアイリス、カイゼルが座った。


向かいにはレオン。


ディックとセブは護衛中なので、全てが見渡せる場所に立った。


「聖女殿、来てくれてありがとう。まず初めにお願いがあるのだが。聖女殿は呼びにくいので、名前で呼ぶことを許してもらえないだろうか。」


レオンは国王だ。

いちいち許しを請わなくても好きな呼び方で呼べばいい。

だけど、これが彼の優しさなのだろう・・・とサラは思った。


「陛下のお好きなままに・・・」


「ああ、ありがとう。ではサラと呼ばせてもらうよ。・・・サラ」


レオンはにこやかな笑みを浮かべて立ち上がり、サラの前に手を差し出した。


ああ、これを断ると王に恥をかかせてしまうことになる・・・


と思ったサラはレオンの手に自分の手を乗せる。


レオンはその手を軽く掴み、手の甲に感謝のキスをした。


相変わらずとても優雅な所作に、アイリスとカイゼルからホーっとため息が出た。


「さて、今日君を呼んだのは、前回の話の続きをしたかったからなんだ。君の言う通り、町には医療を必要としている人や、生活に困っている人がいる。そこでだ。まず初めに、王都の町に救護院を作ろうと思う。君にも協力してもらいたいのだが、どうだい?」


「協力とはどのような・・・」


「簡単に言えば金集めの協力。救護院を作ろうにも、今年度の国家予算はもう決められた後でね。新しく予算を組むことができない。それで、王宮でチャリティーオークションを開こうと思ってるんだ。その席に君も出席して欲しい。」


「出席するだけでよろしいのですか?」


「そうだよ、サラ。君が出席するだけでも宣伝効果は抜群だ。聖女の人気は貴族の間でもとても評判になっているんだ。しかし、プライドが高い貴族は聖女に会いたくても、平民と一緒に神殿に入ることを躊躇うものが多くてね。王宮で聖女に会えると思ったら、きっと喜んで参加するだろう。それから、オークションの出品物が女性用の物が多いのでね、オークションの前に、ちょっとした舞踏会を開こうと思ってるんだ。そうすれば、普段オークションに興味のない令嬢や婦人たちも来たくなるだろう。」


どうやら、レオンの頭の中では、既に計画が出来上がっているようで、サラたちに、どのようなものをオークションに出品するのか説明し始めた。


レオンが目を付けたのは、後宮に置きっぱなしにされた高級品の数々だった。


アシュラムとイレーヌの間に子ができなかったので、五人の側室を置くことになったのだが、誰からも子は生まれなかった。


後宮に入って十年後にはイレーヌに子ができたから、側室たちは、はっきり言って用済みになってしまった。


アシュラムはこのまま後宮に閉じ込めておくのは気の毒に思い、十分な給金を渡すから後宮から出ないかと尋ねたが、適齢期を十年も過ぎてしまった側室など、良い縁談が来るはずもなく、来たとしても、年老いた貴族の後妻ぐらいだろう。


それを理由に五人とも後宮に残ることを望んだ。


ならば、手厚くもてなそうと側室には使いきれないほどの給金を与えた。


これはイレーヌの配慮だった。


イレーヌが手掛けている王家直轄領の収益が、非常に良かったからできたことなのだが、彼女にしてみれば、自分が側室を五人にしてほしいと言った張本人なのだ。


その罪滅ぼしの意味もあったのだろう。


側室たちが後宮に入って三十年後、国王が崩御したので彼女たちは後宮を出ることになった。


レオンは物心ついた頃から、後宮の側室たちを、まるで鳥かごの鳥のようだと気の毒に思っていた。


だから出るにあたって、一生困らずに暮らせる給金を渡して皆を送り出した。


側室たちは三十年間の間に買い求めた宝石、ドレス、調度品などを馬車に詰めて出て行ったが、その馬車の数は数えきれないほどであった。


しかし、膨大な量をすべて運ぶことはせず、趣味が合わなくなったドレス、運びにくい調度品、見飽きてしまった絵画、必要でなくなった品の数々を残して出て行ったのだった。


「そういうわけで、後宮には値打ちのあるものが、まだたくさん残っているんだ。オークションに出す前に、一度見てみるかい? サラが必要なものがあれば、持って帰ればいい。」


サラは、欲しいものなどなかったが、三十年間という響きに惹かれた。


もしかしたら、ヒューイに関するヒントが何か見つかるかもしれない。


レオンの提案を受け入れ、後宮の品を見ることにした。



後宮に入って側室たちが残した品々を見て回ったが、どれも贅を尽くした高級品ばかりであった。


これだけのものを残していくのだから、いったいどれだけの贅沢品を買い集めていたのだろう。


そう思いながら見回っていると、一人の側室の部屋で側室らしからぬ庶民的なものを見つけた。


それは庶民が好む流行りの小説の数々だった。


ロマンスもの、冒険もの、エロティックなものなど、題名を見ただけで、多種多様なジャンルの本があることがわかった。


しかも膨大な本の数で、三十年間買い続け、読み続けた証がそこにあった。


王が来ない寂しさを、小説を読むことで紛らわせていたのかもしれない。


そう思うと、サラはなんだか切なくなった。


せっかく買い集めた本だが、実家に持って帰るには、低俗な内容や庶民すぎる内容だったので、きっと持って帰れなかったのだろう。


しかし、この本をオークションに出品するのもどうかと思われた。


貴族のオークションに出すにはお粗末であったし、何より他のものに比べて値段が安すぎた。


「うーん、これはすごい量だ。だが、オークション向きではないし、捨てるには勿体ないな。」


「陛下、貴族にとっては安い値段であるかもしれませんが、一般庶民にとっては、本は決して安いものではありません。これだけの本があれば、庶民にとって良い娯楽になるでしょう。もしよろしければ、王都に一般庶民でも利用することができる図書館を作ってはどうでしょうか。これだけの量があれば、後は子供向けの絵本や図鑑などを買いそろえるだけで、十分楽しめる内容になると思います。」


「すごい!さすがサラだ。よく思いついたね。そうだよ。庶民にも無料で楽しめる憩いの場が必要だ。救護院に図書館、両方作れるように計画を立てることにするよ。」



この後、皆はもとの応接室にもどり、今後の予定を話し合った。


「昼に二時間程度の舞踏会を開催し、その後にチャリティーオークションをする。サラには舞踏会からオークションまで会場にいて欲しいんだ。」


「わかりました。・・・それから・・・あの・・・一つご提案があるのですが。」


「提案とは?」


「よろしければ、舞踏会が始まる前に皆様と祈りの場を設けたいのです。」


「ああ、それは良い。貴族の中にもサラと一緒に祈りたい人はきっとたくさんいるだろうから。」


サラは、その言葉にほっとしたが、すぐに何か思い出したように不安な顔になった。


「何か心配なことでも?」


「・・・ただ・・・その・・、私は多くの人と話すことが苦手なんです。ずっと会場にいると、それが心配で・・・」


聖女と話したいと思っている貴族が多いのなら、その場にいるだけで、大勢の貴族たちに囲まれて、物珍しさと好奇心で根ほり葉ほり聞かれ続けるかもしれない。


それはサラにとって苦痛であり大きな不安のもとだった。


「う~ん、それなら、あらかじめ招待客にサラに話しかけないように伝えておこう。それから、ディックとセブに、君のそばにいてもらうことにするよ。」


「私の我がままを聞いてくださりありがとうございます。ですが、実はもう一つ・・・心配なことがあるのです。」


サラは深いため息をついた。






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