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憂鬱聖女の結婚事情 ー憂鬱聖女は今日も最愛の恋人を探して旅に出ますー  作者: 矢間カオル


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14話 サラの願い

「もしよろしければ、国王陛下に聞いていただきたいことがございます。」


サラは、この優しき国王なら、自分の憂いを一つ取り除いてくれるかもしれないと思った。


「聖女殿、遠慮せずに何でも話して欲しい。」


「私が憂いを感じているのは、国民のことでございます。今は休戦中ですが、私と一緒に祈りを捧げている者の中には、戦争で受けた怪我がまだ完全に治っていない者、家の働き手を失い生活に困っている者、病気で苦しんでいる者や、家族の中に病人がいる者など、本当に辛く悲しい思いをしている人が少なからずおります。ですが、私にできることは、その者たちと一緒に祈ることだけ。自分の無力さを感じて悲しくなるのでございます。」


「なるほど・・・。あなたの悲しみの原因はそういうことだったのですね。」


「はい。私は聖女と呼ばれておりますが、医者のように彼らの病を直接治すことはできません。ですが、陛下ならもっと現実的な救済ができるのではないでしょうか・・・。

あぁ、出過ぎたことを申しました。お許しくださいませ。」


「いや、何でも話せと言ったのは私の方だ。率直な意見に感謝する。この件については、私もゆっくりと考えてみたい。今日は時間がないのでこれで失礼するが、後であなたを城に招いてもいいだろうか。あなたの意見をもっと聞きたい。」


「はい。私でよろしければ。」


レオンは立ち上がりサラの手をとった。


「今日はお会いできて嬉しかった。これで失礼する。」


サラの手の甲に軽く別れのキスをして、レオンと護衛騎士の二人は部屋から去っていた。



ずっと黙って話を聞いていた大神官ジェネロが口を開いた。


「いやはや、聖女様に会いたいと国王陛下に言われた時は驚きましたが、良い結果になりましたな。陛下はきっと善処してくれるだろうて。それでは、私も自分の仕事に戻りますかな。」


そう言って、ジェネロも部屋から出て行った。


サラは、もう一杯お茶をアイリスに入れてもらって喉を潤した。



神殿から王宮に続く道を、飾りも紋章もない地味な馬車が王宮へ向かって移動していた。


レオンが乗っている馬車である。


護衛騎士の一人は馬に乗り馬車と並行して走り、もう一人は馬車の中でレオンの向かいに座り護衛を務めていた。


「なぁ、ディック、聖女のこと、どう思った?」


ディックと呼ばれた男は黒髪に茶色い瞳で、レオンには劣るがなかなかの美男子だ。


レオンとは、ディックの母親が生後四ヶ月のディックと、三歳の兄ロドを連れて皇太子宮に乳母として勤めだしてからの付き合いである。


簡単に言えば、気心が知れた幼馴染兼護衛騎士だ。


「まあ・・・、美しい女性でしたね。」


「うん、とても美しい女性だった。顔だけじゃない、心もだ。」


レオンは、サラの顔を思い出し、またすぐに会うことになるだろう・・・と思うと何故か胸が熱くなった。


「直接王宮に帰りますか?」


「いや、その前に父上と母上に報告に行こう。」


「わかりました。」


ディックは窓を開け、並走している護衛騎士セブに声をかけた。


「王宮墓地へ向かってくれ。」


長身で薄い水色がかった銀髪と茶色い目のセブは御者に行き先を伝え、無言で並走を続けた。



大きな王宮の門を通り抜けると、正面に王宮が見えるのだが、広大な敷地の中には王宮以外にも皇太子宮、後宮、使用人用の宿舎など、数々の建物があり、庭師に手入れをされた美しい庭が宮ごとに造園されている。


その中の一画に緑の芝と四季の花々に囲まれた王家専用の墓地があった。


代々の国王と王妃が隣り合って墓石の下に眠っている。


レオンたちを乗せた馬車は墓地の入り口で停まり、レオン、ディック、セブの三人は歩いてアシュラムとイレーヌの墓石の前まで行った。



アシュラムが国王の時代、隣国ワーレンブルグとの争いが絶えなかった。


この争いはアシュラムの時代だけではなく、先祖代々続いているもので、ワーレンブルグ国は、温暖で実り豊かな大地を持つグランテリア国を欲し、グランテリア国は、豊かな地下資源を持つ北方のワーレンブルグ国を欲した。


両国の戦力はほぼ互角で勝敗が決まることがなく、争いだけが代々受け継がれてきた。


多数の死人がでる激しい争いの時もあったが、どちらかというと、国境で兵士によるにらみ合いが続くことの方が多かった。


ところが三年前、間者によるトラブルから均衡が破れ、激しい戦闘に突入、決着が付かぬまま両国とも甚大な死傷者と被害が出て、国境付近の町や村は荒れ果ててしまった。


この状況の中、昨年グランテリア国王アシュラムが病で崩御した。


即位したレオンは、直ちにワーレンブルグ国に休戦を打診した。


一年間、喪に服すことがその理由であった。ワーレンブルグ国王も国の疲弊を危ぶみ、休戦を受け入れ両国の間に調印が行われた。


一年間という期限付きであったが、王妃イレーヌが半年後に、夫の後を追うように病死。


そこで休戦はさらに半年間延長された。


すると今度は五年前から病に伏せっていたワーレンブルグ国王が今年になって崩御し、ワーレンブルグ国は二年間の休戦を望んだのでレオンはそれを受け入れたのだった。


それ故、今は休戦中で、疲弊していた国が少しずつ落ち着き回復しつつあった。


レオンは即位してからまだ一年と少ししか経っておらず、仕事の引継ぎや戦後処理などで、非常に慌ただしい毎日を送っていた。


神殿に行くために徹夜で仕事を詰め込み、なんとか時間を捻出していたことなど、護衛騎士の二人以外は誰も知らないことだった。


「父上、母上、今日、聖女に会ってきました。五百年前に我が先祖リキエル公が、聖女とともにこの国の礎を築いたように、私にも何かできそうな予感がしています。国民あっての国王、この言葉を胸に刻み、国王の名に恥じぬように努めてまいります。どうか天国で見守っていてください。」


レオンは、アシュラムとイレーヌの墓石に語りかけ、最後に手を胸の前で組み一礼した。


護衛騎士のディックとセブもそれに倣い礼をした。



この日の三日後、サラの元に王宮から招待状が届いた。


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