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憂鬱聖女の結婚事情 ー憂鬱聖女は今日も最愛の恋人を探して旅に出ますー  作者: 矢間カオル


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11話 サラの祈り

サラは祈りの終わりを告げる前に皆のオーラを確認したが、今回も誰からも感じなかった。


残念な面持ちで祈りの終わりを告げると、一礼して祭壇から去った。


この後、参拝者は神殿を退場するのだが、千人が一度に出ては危険なので、神官たちが誘導して順番に安全に皆を退場させた。


完全入れ替え制にしているので、全員が退場した後に、並んで待っていた次の参拝者たちを入場させ、座る席へと誘導していく。


なかなかたいへんな仕事なのだが、神官たちの顔はホクホクしていた。


これだけたくさんの参拝者が来ると、献金額がぐっと増えるからである。


献金箱は、神殿敷地内に入る門横にある管理小屋と、神殿入口、それから、今回限定で聖女の泉にも設置されている。


献金の金額は決められてはいないが、神殿に来ると必ずいくらかは献金することが当たり前とされており、金持ちなどは見栄を張って、高額を直接神官に手渡すことも多いのだ。


聖女効果は素晴らしく、たぶんこれからしばらくは、今までにないほど神殿を潤わせることになるだろう。


参拝者たちの反応もすこぶる良い。


聖女様を見ることができた、一緒に祈ったと、まだ見ていない人に自慢したり、願いが叶ったと喜ぶ者もいた。


道端で中年男二人の会話が、側を通る人々の耳に入った。


「俺はね。お金が欲しいって祈ったんだよ。そしたら、神殿からの帰りに、財布を拾ったのさ。」


「へ~、そいつをネコババしたのかい?」


「いや、いつもなら黙って自分のもんにしただろうけど、聖女様と祈った後だろ?どうも気が引けてね。古い財布で、中には小銭が数枚入っているだけだったんだが、役所に届けに行ったのさ。」


「へ~、それは良いことをしたね。」


「そうなんだよ。そしたら、財布を落とした爺さんがちょうど相談に来ていてね。俺が持っていた財布を見て大喜びしたんだよ。なんでも死んだ奥さんから結婚前にもらったプレゼントだったんだと。」


「ほ~、その爺さん、嬉しかっただろうねぇ。」


「俺も良いことしたなと嬉しくなってね。そのまま帰ろうとしたら、なんと爺さん、お礼にって金貨を1枚くれたんだ。こんなに運がいいなんて、さすが聖女様だ!」



幼い少女が家に帰ると、椅子に座っている祖母のもとに走った。


「おばあちゃん、今日ね、聖女様と一緒に祈ったのよ。おばあちゃんの足の痛みが治りますようにって。」


そう言いながら、祖母の膝を優しくなでた。


「そうかい。ありがとうね。早く治るといいんだけどねぇ・・・。おや? なんだか痛みが治まってきたよ。おやおやおや、あれまあ、痛くなくなったよ。聖女様のおかげかねぇ。」


祖母は嬉しそうに元気に歩き出し、それを目撃していた少女の母も近所の住人も驚いた。



街中では、聖女と一緒に祈ると願いが叶うという噂が、実例を挙げて語られるようになったので、聖女人気はますます高まっていった。。


当然のように参拝者の数は増えていき、午前二回、午後二回の聖女の祈りは、毎回満員御礼状態になった。


三日目には、超人気アイドルと化した聖女に、熱狂的ファンが良からぬことをしては大変だと、衛兵に頼んで参拝者の前に二人組で立ってもらうことになった。


四日目の朝、一回目の祈りのときのこと。


サラが神殿内に入り、祭壇に向かって歩いている途中、一番前の席に座っていた五歳の男の子が


「せーじょさま、だいすき~!」


と、サラの聖女用ドレスのスカートに抱き付いた。


慌てて衛兵が駆け寄って来たが、サラは片手を上げて衛兵を止めた。


そして、男の子の目線までしゃがみ、頭をなでながら言った。


「ありがとう。」


すると男の子はポッと頬を染めて、肩に斜めがけにしていたカバンからリンゴを一つ取り出し、サラに手渡した。


「ぼくのお家は八百屋なの。リンゴをせーじょさまにあげたくて、母ちゃんからもらってきたよ。」


サラは優しく微笑んでリンゴを受け取った。


「さあ、。お席に座りましょうね。そして一緒に祈りましょう。」


サラは祭壇にいつものように神書を置き、その横にリンゴを置いて皆と一緒に祈った。


この後、献金だけでなく、祈りに来た人々が、パンや果物、野菜など色とりどりの供え物を持って来るようになったので、神殿はますます潤うようになった。


育ち盛りのカイゼルは嬉しくてたまらない。


三日で町に出て噂を広める役目を終えた後、四日目からは神殿内で供え物を受け取り、台車に載せて運ぶ役を請け負った。


大神殿の入り口に大きな籠を載せた台車を五台用意し、籠が供え物でいっぱいになったら祭壇の横に運び、それを繰り返した。


実は喜んだのはカイゼルだけでなく、天界の神々も喜んだ。


供え物は祈ると霊気となって天界に上っていき、神々はそれを食することができるのだから。


今までにないほどの膨大な供え物は、サラの提案で、祈りを捧げた後に、貧しい人々に分け与えることになった。


これもまた、サラの人気を高めた。


アイリスは、「さすが聖女様!」と、喜んで聖女日記に書き加えた。


五日目、カイゼルがサラに水色のガラス玉でできたブレスレットを渡し、祈りのときには腕につけて欲しいと頼んだ。


神の光を表す菱形の水晶のネックレスは必ず付けているが、ブレスレットは、どちらでも良く、神官たちの間でも、つけている者もいればいない者もいて、それぞれの趣味趣向にゆだねられていた。


サラにしてみると、どちらでも良かったのだが、カイゼルがあまりに期待に満ちた目でブレスレットを渡すものだから、素直に付けることにした。


六日目、侍女のアイリスが感心したように教えてくれた。


「聖女様の人気は本当にすごいです。神殿敷地内にある土産物売り場で、神の光ネックレスが売られているんですけど、一番人気は聖女様の瞳の色をしたガラスでできたネックレスなんですよ。」


土産物売り場では、参拝した記念にと、いろいろなグッズが売られているが、神の光ネックレスは、本水晶だと値段が高いので、リーズナブルな値段で買えるガラス製品も売られている。


ガラスだから、色も豊富に作られており、その中でも今一番売れているのは水色のネックレスなのだ。


「水色の神の光ネックレスは、聖女ネックレスって呼ばれているんですって。

しかも恋愛成就アイテムだそうで、聖女ネックレスを身に着けると恋愛運アップだそうですよ。最近、町ではカップル急増だとか・・。

それから昨日から、ブレスレットも大流行りだそうですよ。皆聖女様と同じブレスレットが欲しいって言いだして、水色のブレスレットがバカ売れ・・あら失礼しました。大変売れているそうですよ。」


水色のブレスレット・・・

なるほど、そういう訳か・・・と納得したサラであった。


神官たちもカイゼルも、毎日ホクホク顔で仕事をしていたが、サラだけは時折り憂鬱な顔をしていた。


一週間たっても、まったくオーラを感じることがなかった。


その度に、まだまだこれからよと、自分に言い聞かせた。


実は、サラの憂いの原因は、ヒューイのオーラを感じなかったことだけではない。


一週間、皆と一緒に祈っている間に、人々の苦しみや悲しみの声も聞こえてきたからだった。


サラが神殿に現れると、喜ぶ声に混じって、辛い現状を訴える声も聞こえてくる。


「聖女様、お金がなくて困っています。」


「戦争の傷が今でも疼いて辛いです。」


「私の息子は帰ってこないのです。一人で生きていくのは寂しいです。」


「母の病気が治りません。」


今は休戦中であるが、二年前までは隣国のワーレンブルグ王国と長い間戦争をしていた。


平民の中には兵士として戦場に赴いた者も数多くいて、そのときの怪我がまだ癒えておらず、痛みに苦しんでいる者がいた。


家族を失い辛い思いをしている者の嘆きも心を痛めた。


貧困に喘ぐ者、貧困ゆえまともな食事ができずに病気で苦しんでいる者もいた。


彼らを救ってあげられたら・・・と思うものの、神の力を失った今の自分には、祈る事しかできなかった。



祈り始めて十日が過ぎた頃、一人の若者が、いつも一番前の同じ席に座っていることに気がついた。


初めてその存在に気が付いたのは、八百屋の坊やがリンゴをくれた日だった。


そのとき、隣に座っていたから、てっきり親族かと思ったが、どうやら違ったようだった。


赤茶色のまとまりのない長い髪が顔を半分隠しているし、丸い黒縁の眼鏡をかけているのでなんとなく気になったのだが、その若者は二日ごとに一番前の同じ席に座っているのだ。


しかも、サラはどこかで見たような気がするのだが、どうしても思い出せない。



祈り始めて十一日目、その若者と思いがけなく対面することになった。


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