10 これが戦い
最後の頼みの綱であったニトロストーンが不発に終わった。
俺の魔力も尽きた。
また追いかけっこを再開しつつ雑魚魔物を倒してレベルアップを狙うという手もあるが、唯一の遠距離攻撃である《火炎放射》が使えない以上、現実的じゃないな。
バラモンデスワームの体力の残りは750。
あの巨体を相手に《爆裂パンチ》と《爪貫き》で削り切れる気がしない。
バカでかい雄たけびを上げたバラモンデスワームは、俺に逃げる気がないのを察してか、ゆっくりとこちらに迫ってくる。
じわじわと煽るようなその動きに、恐怖を覚える。
親父がタイラントドラゴンに食われたとき以来だな・・・ここまでの恐怖を感じるのは。
いやまあ、あれは恐怖半分うらやましさ半分って感じだったけど。
だがこのまま黙って食われる気は毛頭ない。
わずかでも可能性がある限りあがいてやる!
「おおおおおおお!!」
俺は気合の雄たけびを上げてバラモンデスワームに駆ける。
ビシャビシャ!!
バラモンデスワームは《強酸胃液》を吐き出してくるが、スイスイとよけていく。
胃液のスピードは大したことない、問題なのはあの巨体での突進やのしかかりだな。
胃液をかいくぐり、バラモンデスワームの懐に潜り込む。
近くで見るとマジででかいな、頭だけでも3mはありそうだ。
「らあ!!」
俺は《爆裂パンチ》でバラモンデスワームの頭をかち上げる。
手の鱗から爆破分泌液を出し、衝突の衝撃で爆破する技だ。
「ブオ!!」
ただのパンチであれば、肉に拳がめり込むだけだったろうが、爆破の効果もあってバラモンデスワームの顔が見事にのけぞった。
ニトロストーンとまではいかないけど中々の威力だ。これは確かに《爆破耐性》がなければ自分の腕もダメージを受けるだろう。
すぐさま俺はジャンプし、バラモンデスワームの赤い目玉に狙いをつける。
「《爪貫き》!!」
リザードマンの硬い鱗をも貫通する鋭い貫き手が、バラモンデスワームの赤い目玉を容赦なく穿ち、緑の血を噴出させる。
ブシュウウウウウ!!
「ブオオオオオオオオオオオオオ!!」
痛みでバラモンデスワームが頭を大きく振るう。
やばいっ!空中じゃよけらんねえ!!
鞭のようにしなったバラモンデスワームの上半身がこちらに叩きつけられる。
メキメキメキ!!
ハングリーベアの突進などとは比べ物にならない衝撃が襲い掛かり、そのまま地面に吹き飛ばされる。
「がはっっ!!」
くそっ!骨が何本か逝ったな。
なんてパワーだ!身をよじらせるだけでも、こっちからしたら脅威的な武器だ。
ふー、まだ大丈夫、足が少し震えているけどまだ動く!
俺はよろよろと立ち上がる。
バラモンデスワームは目を1つ失ってすこぶる不機嫌の様子だ。
まったく、8つもあるんだから1つくらいでそんなに怒るなよな。
「ブオオオオ!!」
怒りからか、顔を紫に変色させたバラモンデスワームがすごい勢いで突進を始める。
はやい!突進というよりは飛びかかりだ!瞬発力に全部の力を注ぎやがった!
何とか躱すことに成功するが、余波で頬が震える。
「おらおらおら!!」
俺を通り過ぎてむき出しになった腹部分に《爪貫き》を連打する。
ブシュブシュ!と音をたてて緑の血が噴き出す。
《衝撃吸収》があったから、おそらく《爆裂パンチ》では、怯ませることはできても、そこまでのダメージにならないはずだ。
使っていくべき技は《爪貫き》!サポートで《爆裂パンチ》だ。
バラモンデスワームも負けじと尾を振るう。
それを上半身だけのけぞって躱す。
鼻先数センチを“死”が通過し、ゴオ!と空を切る。
こっちのアドバンテージは小回りが利くことだ。
とにかく動いて動いて動きながら攻撃するしかない。
「ブオオオオオオオ!!」
尾や頭や触手、時には胃液を紙一重でかわしながら、《爪貫き》で確実に体力を削っていく。
どの攻撃もまともにくらったら間違いなく死ぬな。
攻撃をかわすたびに、俺の鱗が粟立っている。
「はは・・・ははは」
明確な死のビジョンが頭に浮かんでいるというのに、俺の口元はなぜか笑みを隠せなかった。
この緊張感・・・面白い!
これが命のやり取りか!!
俺は今まで苦戦なんてしたことがなかった。
今考えれば、親父ともども王国を追われた時から俺は異常に強かったのだ。
天才と言うやつだろうか。
Aランク冒険者が数パーティがかりで倒すようなレッドドラゴンやワイバーンも素手でねじ伏せていたし、その辺の雑魚魔物なんて俺の姿を見た一秒後には脱兎のごとく逃げだしていた。
俺にとって“戦い”は単なる作業だった。
古竜やタイラントドラゴンには、一目でかなわないと解ったから、友好関係を結んだり逃げだしたりしたが、それもほんの一部だけだ。
大多数は俺に適う者なんていなかった。
それが今じゃどうだ。
熊に殺されかけ、リザードマンや狼やバッタごときに苦戦し、挙句の果てにはちょっとデカいだけのイモムシと死闘を繰り広げている。
凡人はこんな苦しい思いをしていたのか!
凡人はこんなに楽しい思いをしていたのか!
「ははははは!面白い!面白い!!俺を殺してみろ!バラモンデスワーム!!」
高ぶる気持ちを抑えられずに俺は挑発する。
挑発されたバラモンデスワームは、怒りでさらに顔を紫に染め上げ、暴れまわる。
バラモンデスワームの攻撃を躱しては突き、時には爆破させて攻撃を流す。
これまでの持久力が勝負の追いかけっことは違い、この接近戦は瞬発力が勝負だ。
回避行動のすべてに全力を注がないと一瞬で肉塊になる。
吹けば飛んでしまう綿毛のような命を必死に保ちながらも、俺はいままで以上に攻め込み続けた。
「ブオオオオオ・・・」
――――バラモンワームの目玉を5つ貫いたところで、その時が来た。
ガクッ!!
なっ!膝が・・・・!
ついに限界が来たのだ。
踏み込んだ足はくの字に曲がり、思わず膝をついてしまう。
まずい!早く立ち上がんねえと・・!
「あ・・・」
茶色い塊が、視界を覆った。
ゴシャッ!!!
バラモンデスワームの突進をもろに食らい、俺は吹き飛んだ。




