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【7/1完結】とある札幌のバーの扉が色んな異世界に繋がってしまったようです。さて、今夜のお客様は?  作者: 萩原詩荻


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第27話 トランプは奥が深い

「マスター、それ何?」


 魔法使いさんが興味深そうに手元を覗き込んでくる。


「忘れ物です」


「危険物?」


「トランプです」


「とらんぷ」


 魔法使いさんが首を傾げる。


「うっわ!久しぶりに見ました!そっか、トランプくらいなら向こうでも作れるかも……」


 そう言って嬉しそうな顔をしたのはカルーアくん。


 たしかに。


 異世界でもトランプくらいならうまくすれば作れるのかもしれない。


 さらに、その隣にいたホームズさんが、グラスを置いて頷く。


「実に懐かしい。元の世界では何度か遊んだものだよ」


「ホームズさん、トランプわかるんですね」


「もちろん。元は現代日本人だからね」


「ああ、ですよね」


 カルーアくんとホームズさん。


 この二人だけ、最初からルールがわかる側である。


 不思議な組み合わせだ。


 なお、聖女様はにこにこしている。


 侍さんは、カードの箱を見て「札勝負でござるか」と言っている。


 吸血鬼さんは「赤と黒の札か」と雰囲気を楽しんでいる。


 魔法使いさんは、すでにやる気である。


 嫌な予感がする。


「紙の札にしか見えないわよ」


「拙者も同感でござる」


 侍さんが、魔法使いさんに同意する。


 聖女様が、にこやかにカードを覗き込む。


「ふむ……この赤と黒には何か神秘的な意味が?」


「いや、そこまで大層なものでは」


 カルーアくんが苦笑した。


「普通に遊ぶ道具です」


「遊ぶ?」


 吸血鬼さんが静かに言う。


「この薄い紙片で?」


「はい」


「人間は時折、驚くほど平たいもので遊ぶのだな」


「そういう言い方されると不思議になりますね」


「面白そうじゃない」


 魔法使いさんが、トランプの箱を手に取った。


「どう遊ぶの?」


「では、まずは簡単なものからにしましょうか」


 カルーアくんが、完全に説明役の顔になった。


 異世界転生者は大変である。


 世界を救うだけでなく、異世界勢にトランプのルールを教える必要まであるらしい。


「最初はババ抜きでどうですか?」


「ばばぬき」


 吸血鬼さんが復唱した。


「名前が物騒ではないか?」


「いえ、物騒ではないです」


「婆を抜くのでござるか」


「違います」


「では、老婆の暗殺ではないのだな」


「ありません」


 侍さん。


 発想が少し怖い。


「ただのゲームです。手札から同じ数字のカードを揃えて捨てていって、最後にジョーカーを持っていた人が負けです」


「ジョーカー」


 吸血鬼さんがカードを一枚持ち上げた。


 道化師の絵が描かれている。


「この者を最後まで抱えた者が敗北するのか」


「はい」


「呪いの札のようだな」


「急に重くしないでください」


 カルーアくんが困った顔をした。


 でも。


 異世界の魔法使い。


 吸血鬼。


 転生した名探偵。


 うわばみの聖女。


 異世界転生者。


 流浪の侍。


 ……呪いの札と言ってもいいのかもしれない。


「では、配りますね」


 私はカウンターの内側から見守る。


 巻き込まれたくないとも言う。


「同じ数字を捨てるんですね?」


「はい」


「これは、同じ数字なら絵柄が違ってもよいのですか?」


 聖女様がトランプの柄を眺めながらカルーアくんに確認している。


「そうです」


「では、この王様と王様は一緒ですね」


「はい」


「この女王様と女王様も」


「はい」


「この道化師は?」


「それがジョーカーです」


「この方を持っていると負けるのですね」


「そうです」


 聖女様は、ジョーカーをじっと見つめる。


「少し気の毒ですね」


「気の毒」


「皆様から避けられる役目を持たされているようで」


「聖女様、ジョーカーに感情移入しないでください」


 カルーアくんが困った顔をした。


「ジョーカーにも祝福が必要では?」


「必要ないと思います」



 まあ、予想していたが、このメンツのゲームが平和なわけがなかった。


「君はジョーカーを右から二番目に置いているね」


「ちょっと!?」


 そりゃ、名探偵とババ抜きしたらそうなる。


「ホームズさん、そういう読みありなんですか?」


 カルーアくんが叫ぶ。


「表情と手の動きを読むのは合法だろう」


「合法ですけど!」


「それとも、君の世界では推理禁止のババ抜きが存在するのか?」


「存在しませんけど!」


 ババ抜きに名探偵を入れてはいけない。


 これは新しい知見である。


「なるほど」


 魔法使いさんが目を細める。


「表情を読まれなければいいのね」


「それはそうですが」


 魔法使いさんがホームズさんの札を引く。


 ――その瞬間。


 魔法使いさんの手札が一枚減った。


「魔法使いさん」


「何?」


「今、札減りませんでした?」


「減ってないわよ」


「減りましたよね?」


「気のせいよ」


 カルーアくんの追及に対しても魔法使いさんは楽しそうだった。


 だが後ろから見ていた私には見えた。


 彼女は今、明らかに空間の裂け目的な何かにカードを入れた。


「面白いわね。この遊び。相手にバレないようにすることも大切ね」


「普通はそういうゲームじゃないです!」


 ババ抜きに魔法使いも入れてはいけない。


 ……うん。


 ――その後、ババ抜きをやっても、神経衰弱をやっても、ポーカーをやっても似たようなものであった。


 心理戦、推理、祝福、影、魔力、剣技が飛び交っていた。


「魔法使いさん、今、一瞬カードを消しましたよね」


「消してないわ。存在する世界座標を少しずらしただけ」


「それを消したって言うんです!」


「吸血鬼さん、影からカード出すのやめてください」


「影は場の一部だ」


「違います!」


「侍さん、カードを切る時に何枚か消えてます!」


「ふむ。もっと早くせねば見切られるか」


「そういう問題じゃありません!」


「ホームズさん、なんで俺の手札わかるんですか!」


「君の左眉が、ジョーカーを持っている時だけわずかに動く」


「怖い!」


「あ、ロイヤルストレートフラッシュです」


「聖女様ぁぁぁ!!」


「揃っていました」


「神様ぁぁぁ!!」


 カルーアくんが叫ぶ間にも、魔法使いさんがカードを複製し、吸血鬼さんが影にカードを沈め、侍さんが音もなくすり替え、ホームズさんが何かを観察し、聖女様がなぜか最強の手札を引いていた。


「だめだこれ」


 カルーアくんが、すべてを諦めた顔になった。


 ――常識は敵か。


 いや、異世界転生者も常識の範囲外だと思うが。

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