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【7/1完結】とある札幌のバーの扉が色んな異世界に繋がってしまったようです。さて、今夜のお客様は?  作者: 萩原詩荻


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第22話 恋占いは世界を越える

「どなたから占われますか?」


 テーブル席に座っているのは、紫色の薄布をまとった女性だった。


 銀色の長髪。


 額に下がった青い石の飾り。


 手元には、カードと小さな水晶玉。


 本人いわく、星の導きで訪れた占い師さんらしい。


 非常にそれっぽい。


 むしろ、それっぽすぎて少し疑ってしまうくらいだ。


「はいはいはいはい!!恋占いできますか!?」


「できますよ」


「わー!」


 大学生女子さんが両手を上げる。


「恋占い!異世界の恋占い!」


「そういうの好きなの?」


 魔法使いさんが笑いながら言う。


「好きです!占いって、結果が良くても悪くても盛り上がれるじゃないですか!」


 大学生女子さんが力強く主張する。


「まあ、楽しそうですね」


 聖女様も、にこにこと微笑む。


 神様的には占いはアリなんだろうか……?


「恋愛占いかぁ……」


 勇者さん。


 その反応は、占われる側の反応としてはすでに負けている。


 まあでも。


 今日は、女性率100%なんだから占いが流行っても不思議ではないのかもしれない。


 今のところ透明になる男性がいないため、100%が嘘にならない。


 ――私はマスターなのでカウント外だ。


「では、こちらにお座りください」


「はーい!!」


 大学生女子さんが座ると、占い師さんは静かにカードを広げた。


 カードには、見たことのない図柄が描かれている。


「ふむ」


「ふむ!?」


「あなたは……」


「はい!」


「恋に対して、非常に前向きですね」


「はい!」


 即答だった。


「ですが……好意を寄せる男性が、別の方とお付き合いされているのですね」


 大学生女子さんが、ぴたりと止まった。


 魔法使いさんが、にやりと笑った。


 勇者さんが、少しだけ前のめりになる。


 聖女様が、少しだけ心配そうな顔をする。


「当たってますねぇ」


 大学生女子さんは、あっさり頷いた。


 占い師さんは、静かに続けた。


「ですが、卒業までチャンスはあると出ています」


「んー……もう狙うつもりないので大丈夫です!!」


 即答だった。


 占い師さんが固まった。


「……え?」


「好きだったのは本当ですけど、今は推しカプとして見守ってます!」


 大学生女子さんは、すごくいい笑顔だった。


「推し、かぷ」


「幸せになれ、という気持ちです!」


「しかし、星はまだ可能性を示していますが」


「星には申し訳ないですけど、私はもう観客席にいます!」


「観客席」


「はい!」


 占い師さんが、明らかに知らない概念にぶつかった顔をしている。


 星も大変だ。


 人間が勝手に観客席へ移動する。


 魔法使いさんが、肩を震わせている。


「いいわね。恋を卒業して信仰に入ってる」


「信仰ではないです!」


「推しカプって、だいたい信仰じゃない?」


「否定しきれない!」


 大学生女子さんが笑う。


 占い師さんは、少しだけカードを見直した。


「……恋占いとは、時に本人の解釈が勝つものなのですね」


 占い師さんが、しみじみと言った。


「そういうものです!」


 大学生女子さんは満足げだった。


 占い結果をねじ伏せた。


 強い。


「次、勇者さんどうですか!?」


「私!?」


 勇者さんが露骨に身を引いた。


「いや、私はいいよ。占うようなことないし」


 聖女様が、穏やかに言った。


「ありますね」


 魔法使いさんも頷く。


「あるわね」


 大学生女子さんも頷く。


「絶対あります!」


「なんで全員そっち側なんだよ!」


 勇者さんが叫んだ。


 しかし、多数決である。


 勇者さんは不本意そうに占い師さんの前へ座ったが、腕を組んでそっぽを向いている。


「先に言っておくけど、私は恋とかそういうのじゃないから」


「そうなのですね」


 占い師さんは動じず、カードを三枚並べる。


 一枚目、剣。


 二枚目、黒い城。


 三枚目、白い花。


 店内が静かになった。


「勇者さんは……素直になった方が良いと出ています」


「なんのこと!?」


 反応が早い。


「勇者ちゃん」


 魔法使いさんが、グラスを揺らしながら言う。


「当たってるじゃない」


「うるさい!」


「お城で働いているのですか?」


 占い師さんが確認する。


「働いてるけど!」


「そこに、あなたを助けてくれた男性が?」


「男性っていうか魔王!」


「魔王も男性では?」


「そうだけど!」


「優しい?」


「優しいけど!」


「顔は?」


「顔は……いいけど!」


 言った。


 今、言った。


「顔はいい」


 魔法使いさんが復唱した。


「顔はいい、いただきました」


 大学生女子さんが手を叩く。


「良きことです」


 聖女様が微笑む。


「ちょっと待て!顔はいいだろ!事実として!客観的に!」


「はいはい、客観的ね」


 魔法使いさんがにやにやしている。


「違うんだって!魔王城のメイドたちもみんな言ってるし、子どもたちも『まおうさま、きらきらしてる』って言うし!」


「子どもを証人に出してきたわ」


「必死ですね」


 大学生女子さんが、机を叩いて笑っている。


「勇者さん、魔王さんのこと意識してるんですか!?」


「してない!」


「反応が速すぎます!」


「速いとダメなの!?」


「ダメではないですけど、わかりやすいです!」


「やめろぉ!!」


 勇者さんの顔が赤い。


 かなり赤い。


「勇者さん」


 聖女様が、優しく言う。


「はい」


「素直になることは、悪いことではありませんよ」


「聖女様までそっち側!?」


「私はいつでも、良き縁に祝福を」


「祝福しないで!」


 占い師さんは、満足そうに頷いた。


 勇者さんは、逃げ場を探してグラスを持った。


 ――空だった。


「マスター!」


「はい」


「何かください!」


「かしこまりました」


 私は、甘くて軽いカクテルを作った。


「どうぞ」


「ありがとう!」


 勇者さんは、一口飲んで、少しだけ落ち着いた表情になる。


「……別に、嫌いじゃないけどさ」


 そのまま、ぽつりと言った。


 魔法使いさんが、にやにやしている。


 大学生女子さんは、両手を口元に当てている。


 聖女様は、目を細めて微笑んでいる。


 占い師さんは、ゆっくりとカードを一枚引いた。


「照れ隠しの星が出ています」


「その星、今すぐ落とせ!!」


 勇者さんが叫んだ。


 星に罪はない。


「では、次は聖女様ですね!」


 大学生女子さんが、楽しそうに言った。


「私には、特に恋占いの必要はないと思いますが」


「そんな人ほど何か出るやつです!」


 聖女様は少しだけ考えた後、にこりと微笑んだ。


「では、お願いします」


 占い師さんが、新しくカードを並べる。


 一枚。


 二枚。


 三枚目、ひっくり返った酒瓶。


 ……酒瓶?


「聖女様は……」


 占い師さんが、少しだけ目を細める。


「自分よりお酒が強い人がよい、と出ています」


「あらまあ」


 聖女様は、口元に手を当てて微笑んだ。


 店内が静かになる。


 全員が、数秒だけ考えた。


 そして。


「詰んでるじゃない」


 魔法使いさんが言った。


「詰んでません」


 聖女様が穏やかに返す。


「いや、だって、あなたより酒が強い人っている?」


「世界は広いですから」


「世界を広く使っても難しいわよ」


 聖女様より酒が強い存在。


 私はまだ見たことがない。


「お酒が強い人がよい、というのは、どういう意味でしょう」


 聖女様が真面目に聞く。


 占い師さんは、少しだけ考えた。


「おそらく、あなたのすべてを受け止められる方、という意味かと」


「難しい条件ですね」


 魔法使いさんが、笑いを堪えきれずにテーブルに突っ伏した。


「聖女様は好きな人いないんですか!?」


 大学生女子さんが聞く。


「今のところは」


「おお」


「ですが、皆様とお話しする時間は好きですよ」


「聖女様、そういうところが聖女様」


「褒められました」


「褒めてます!」


 聖女様は、上品に微笑んだ。


「では、いつか私よりお酒が強い方と出会えたら、考えてみます」


「それがよろしいかと」


「神も、その時はきっと祝福してくださるでしょう」


 きっと祝福するのはお酒の神だと思う。


「次は魔法使いさんですね!」


 大学生女子さんが、わくわくした顔で言った。


「私?」


 魔法使いさんが、椅子にもたれたまま笑う。


「やるの?」


「もちろんです!」


「ふーん」


 魔法使いさんは、楽しそうに占い師さんを見る。


「いいわよ。見てみなさい」


 その言い方が、すでに挑発だった。


 占い師さんは、さっきまでより少しだけ真剣な顔になっていた。


「……?」


 占い師さんが、カードをめくろうとする。


 めくれない。


「……おかしいですね」


 魔法使いさんが、にやりと笑う。


「何が?」


「何も見えません」


「へぇ」


「過去も、未来も、縁も、星も、まったく」


「そう」


「このようなことは、普通ありません」


「でしょうね」


「あなたはいったい」


 占い師さんが、真剣な顔で問う。


 魔法使いさんは、さらりと言った。


「……見えないようにしてるから」


 店内が静かになった。


 占い師さんの顔が、明らかに「それはズルでは?」と言っている。


「見えないように?」


「ええ」


「運命を?」


「嫌じゃない?勝手に見られるの」


「……」


 魔法使いさんは悪びれない。


 占い師さんは、深呼吸した。


「では、せめて縁の傾向だけでも」


「どうぞ」


 占い師さんがすごい真剣な表情になり、数秒黙った後に一枚だけカードをめくった。


「……この店で笑っているあなたは、悪くないと出ています」


 魔法使いさんは、数秒だけ黙った。


 それから、ふっと笑った。


「それ、恋愛占いじゃなくない?」


「縁占いです」


「便利な言葉ね」


「はい」


 魔法使いさんは、グラスを傾けた。


「まあ、悪くないわ」


 その声は、いつもより少しだけ柔らかかった。


 大学生女子さんが、小さく拍手した。


「なんかいい話っぽいです!」


「っぽいだけよ」


 魔法使いさんが即座に言う。


「魔法使いさん、照れてます?」


「照れてないわ」


「絶対照れてます!」


「凍らせるわよ」


「ごめんなさい!」


 店内に笑いが戻る。



 その後も、占いはしばらく続いた。


 途中から、占い師さんと魔法使いさんは占術談義を始めた。


 内容はほとんどわからなかったが、みんな楽しそうだったので良しとする。


 私はそんな女性陣を眺めながら、静かに思った。


 この店の未来は、占い師さんでなくても少しわかる。


 たぶん、退屈はしない。

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