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とある札幌のバーの扉が色んな異世界に繋がってしまったようです。さて、今夜のお客様は?  作者: 萩原詩荻


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第12話 異世界のお客様は窓に張り付く

「……世界、終わるの?」


 ドラコさんが窓に張り付いている。


 世界は多分終わらないが、今日の札幌は――大雪だった。


「おお……」


「白い……」


「視界が死んでる……」


「ホワイトドラゴンのブレスみたいだな」


「いや、ドラゴンのブレスより範囲が広い」


 窓際に、異世界のお客様たちが集まっている。


 ドラコさん。

 海賊船長さん。

 侍さん。

 獣人さん。

 魔王さん。

 カルーアくん。

 森妖精さん。


 全員が、店の窓の外を見ている。


 子どものような目で。


 というか、カルーアくん。あなたは現実世界出身では?


「マスター」


「はい」


 魔王さんが、窓の外を見たまま言った。


「これは、攻撃か?」


「天気です」


「天気」


「はい」


「この街は、天から攻撃されているのか?」


「似たようなものです」


 まあ、だいたいそんな感じだと思う。


 特に今日みたいな猛吹雪の時は、攻撃な気がする。


「我が魔界の極北でも、ここまで視界は悪くならぬ」


「そうなんですね」


「なんでこんなところに住んでいる?」


「札幌はいい街です」


「でも、外が白い」


「札幌はいい街です」


「歩いている者がいるぞ」


「いるでしょうね」


「死ぬのでは?」


「たぶん帰宅中です」


「帰宅とは命懸けなのか?」


 違うと思う。


 たぶん。


「すげぇな!」


 海賊船長さんが笑う。


「大嵐の海より視界悪いぞ!」


「札幌市民は慣れてます」


「慣れるな!」


 海賊船長さんの叫びは正しい気もする。


 外では、除雪車がゆっくり道路を進んでいる。


 ガガガガ、と雪を押していく音がする。


「なっ、なんだあの鉄の魔獣は!?」


 獣人さんが尻尾を逆立てた。


「除雪車です」


「じょせつしゃ」


「雪をどかす車です」


「雪をどかすためだけの魔獣がいるのか!?」


「車です」


「この世界、雪に対抗するための魔導兵器持ってやがる!」


「魔導兵器ではありません」


「マスター殿」


 侍さんが、目線を窓から離さず聞いてくる。


「雪国の者は、皆、剣豪でござるか?」


「なぜですか」


「外を歩く者たちの足運びが尋常ではない」


「それは滑らないように歩いているだけです」


「なるほど。雪上歩法」


「違います」


「足裏の接地を小さく、重心を低く、無駄な踏み込みを避ける。見事でござる」


「雪道に慣れているだけです」


「拙者も学びたい」


「滑りますよ」


「雪、恐るべし」


 侍さんが真剣に頷いた。


 たぶん、説明は伝わってない。


 その時、外を歩いていたコート姿の男性が、見事に滑った。


 派手に転んだ。


 店内の異世界勢が、悲鳴を上げた。


「死んだ!?」


「大丈夫です」


 男性はすぐに起き上がり、何事もなかったように歩き出した。


「起きた!」


「強い!」


「この街の民、強いぞ!」


「雪原で転倒して即座に復帰。戦士の動きにござる」


「会社員です」


 侍さんが真剣に頷く。


「会社員とは、戦士でござるか」


「ある意味では」


「マスター」


 魔王さんが言った。


「はい」


「この街を攻めるのは難しいな」


「攻めないでください」


「いや、攻めぬ。補給が死ぬ」


「理由が現実的ですね」


「雪道で兵站が止まる。視界が悪い。民は慣れている。さらに熱い酒がある」


「熱い酒は関係ありますか」


「士気が高い」


「なるほど」


 魔王さんの札幌評価が軍事目線で固まっていく。


 森妖精さんが、静かに頷く。


「この世界の民は、白い災厄と共に生きる術を持っているのね」


「白い災厄」


「違う?」


「日によります」


 日によっては、そうとも言えるかもしれない。


「なんで森に住まないで、雪が降る街に住むの?」


「札幌はいい街ですから」


 真正面から聞かれると困る。


「というか」


 カルーアくんが真顔で言う。


「東京だと、ちょっと雪降っただけでニュースになるじゃないですか」


「はい」


「でも札幌だと、このレベルでも“まあ冬だしな”みたいな顔してる人いるの何なんですか」


「慣れですかね」


 私はしみじみと言った。


 住んでいたら慣れる。


 これは本当。


「ねえ、マスター」


 一人だけ窓には近寄らず、優雅に飲んでいる魔法使いさんが面白そうに笑いながら話しかけてくる。


「はい」


「札幌の冬って、毎年これなの?」


「はい」


「毎年?」


「まあ、だいたい」


「人間って、たまに本当に意味わからないわね」


「おかしいですか」


「おかしいわよ」


 魔法使いさんは断言した。


「この店に来る異世界人、だいたい何かしらおかしいけど、札幌も大概おかしいわ」


「札幌はいい街です」


「それで押し切るの好きよ」


 魔法使いさんが笑った。


「魔法使いさんの世界にも雪はありますか?」


「あったわよ。でも、ここまで街の中で堂々と降るのは珍しいわね」


「堂々と」


「山奥とか、魔力の濃い谷とか、封印された氷竜の巣とか、そういう場所だったわねぇ」


「札幌は封印された氷竜の巣ですか?」


「違うの?」


「違うと思います」


 自信はない。


 もしかすると、地下に何かいるのかもしれない。


 異世界のお客様たちは、結局また窓際に集まって、雪を見ながら酒を飲んでいる。


「ホワイトドラゴンのブレス……」


「違うわ。これは、空が白い布を落としているのよ」


「いや、巨大な神が粉砂糖を振っている可能性もある」


「何のために?」


「酒を美味くするためだ!」


「それなら納得でござる」


 納得するのか。


 まあ、でも。


 こんな吹雪の日でもお客様がたくさん来てくれて。


 雪見酒を楽しめるのなら。


 たまには、雪も悪くないのかもしれない。


 ――明日の雪かきの事は考えないことにする。

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