表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鮮紅令嬢は人生を謳歌したい~波乱万丈な人生に異国の皇帝を添えて~  作者: ほっとけぇき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/41

第22話 星降る夜の逢瀬

「それではお休みなさいませ、ルイーズ様」

「ルナシーこそ、お休み。明日もよろしくね」


「えぇ、こちらこそ」と彼女は短く返事をした後、部屋の灯りを消す。

 私が眠るための合図のように、部屋全体が夜に沈む。


 空が宵闇に染まり、人々が騒ぐ時から眠るときに変わるような時間。

 明日の英気を養うためにも、早く眠るべきだ。


「……眠れない。今日はいろいろあったはずなのに」


 おかしいな? 全然眠気がやってこないぞ。

 灯りが消えたら寝落ちするぐらいには、疲労感があるはずなのに。


 それどころか、意識が明瞭で思考も冴えているときた。

 

 どうしよう。

 いつもはベッドに行ったらすぐ寝るから、こんなことは滅多にない。


 目をつぶっても眠くならないし、布団に潜り込んでも温かいと思うだけ。


「はぁ、こういうのはあまりよくないけど仕方がないか」


 外に誰かがいる気配はない。

 窓辺に寄るぐらいなら怒られることはない……はずだ。


 あまり夜更かしは推奨されないものだけど、眠れないなら致し方なし。


 今着ているネグリジェはそれなりに厚い生地だけど、これだけでは不安だ。なので、寒さに耐えられる気がしないからショールを羽織る。


「うっ、少し肌寒いわね」


 窓越しとはいえ、しっかりと冷気を感じる。

 ――きっと外はこんな薄着では耐えられないぐらい寒いのだろう。


 窓辺に近づくだけにしてよかったわ。


 ちょうどおあつらえ向きともいえる椅子があるわ。ありがたく使わせてもらおう。


「綺麗……。雲一つない夜空の下で見られるなんて、何て尊いのかしら」


 部屋の内側からははっきりと見えなかったけど、こうしてみると壮観よね。


 昔、母から聞いたことがある。


 寒い地域は雪が降るけど、その分空気が澄んでいるから晴れの時には雲一つない。

 だから、星が綺麗に見えるのよと。


 実際に見上げると、そこには視界に入る限り満天の星空だった。

 宝石を砕いてちりばめたような無数の輝きがそこにはある。


「夜更かしをするのはあまりよくないぞ。ここにいては体を冷やす。もう少し中に入ったらどうだ」

「イヴァン様、どうしてこちらに?!」


 声がする方を向くと、そこには厚着を着たイヴァン様が立っていた。

 少し目を丸くした彼が私のことを見つめる。


 夜空に見惚れていて気付かなかった。

 彼は窓越しの目の前に立っているのに、全然気配を察知できなかった。


 本当に心臓に悪い。二つの意味で。

 それよりも、イヴァン様は今外にいるのよね?窓辺に来ただけでもこんなに寒いのに?!


「ははっ、そんなにも慌てるほどのことか?」

「慌てますよ! それよりも、そんなところにいたら風邪を引いてしまいます」


 ワタワタしている私を見ながら、彼はけらけらと笑う。


 笑う彼の笑顔は『皇帝』としての堅いものではなく、年相応な『青年』のもの。


「大丈夫だ。今ここに来たのは君の様子を見に来ただけだからな」


 苦笑いしながら言う言葉に合点がいく。


 だから、私に声をかけた時、目を丸くしていたのか。

 私はすでに寝静まっているだろうと思っていたのに、来てみたら起きているのだから驚いても仕方がない。


 でも、このまま外で待たせるのはあんまりよくないな。

 そうだ、あれを渡そう。


「そうなのですか?せめて、これを持っていってください。体が冷え切ってしまいます」


 窓を少し開いて彼に手渡したのは、魔法石のブレスレッド。

 炎のように紅く輝くそれは、彼の体を温めてくれるだろう。

 

 本来なら彼だって眠っていてもおかしくない時間だ。

 少しウトウトと体を揺らしている時点でそうに違いない。


 さっき、私に『体を冷やす』って言っていたけど、彼の方がより冷やしているに決まっている。

 ほんの少し窓を開いただけでも、鳥肌が立つぐらい寒かったもの。


「いいのか? それならありがたくいただこう」


 少し嬉しそうに上擦る声で彼は答えた。

 子供が親から欲しいものをもらった時のように、目を輝かせる。


 そして、彼は私に見せるようにブレスレッドにキスを一つ。

 愛おしい人に口づけるように、優しくおとす。


「君が元気そうな姿でいてくれてよかった。また、会いに来る」


 彼は満足した様子で、瞬きの間に私の部屋のテラスから去っていく。


 あぁ、もう本当に心臓に悪いわ。

 だって、あんなにも熱烈な視線を私に浴びせてきたもの。


 ブレスレッドに口づけする時も、私の前から去っていくときも。

 その一見冷たいように見える瞳が『あなたのことを愛しています』と、熱烈に訴えかけていた。


 あんなに真摯な視線を向けられたら、誰だってそう思ってしまう。


 未だに心臓が激しく音を立てている。彼の視線に焚きつけられたようにどくっ、どくっ、と。


 眠ろうと思って外の景色を見ていたはずなのに、これじゃあ眠れもしない。

 でも、それは決して不快なことではない。


 ベッドにもぐりこんで体を丸め込んでも、気持ちは昂るばかり。


 そんな悶々とする私の様子を、星空が微笑みながら見ていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ