第21話 ルイーズと【幻のお姫様の部屋】
「話がまとまったようで何よりです。それではルナシー、これからエキャルラット嬢の侍女として精進してください。契約書は後で届けさせますから」
「はい、分かりました。精一杯務めさせていただきます」
よかった~、これで一件落着って感じかな。
……と胸を弾ませたいところだけど、私にとってこの件は完全に解決していない。
二人とも笑っているから良いじゃんと、私の一部が囁く。
いや、私もそう思いたいんだけどね。
今日実際にあってみたからこそなあなあにしてはならないと、硬い意志を持つ。
「人に届けさせてはだめよ。魔法で届けてもらうことは可能かしら?」
可能よね? 可能じゃないと非常に困る。
これから、私とルナシーがこの宮殿で生きていくための最初の一手とも言えるものだから。
「不用意に他の者に部屋の場所がばれたくないからですか」
フィリップ様が苦々しい表情で、私の求めていた答えを言う。
さっき、思いっきり彼女たちの怒りを刺激した。
今頃どうやって私に対して仕返しをするかでも相談しているに違いない。
でも、それは私の居場所を正しく把握していなければ不可能なこと。
「確かに、その部分の対策も十全に行うべきですね。改めて接してみて、彼女たちが過剰な手段に出ないとはいえませんし」
さっきの部屋に乱入する前の一茶番は彼も見ていたものね。
異国の姫君たちの中では、恐らくアリーチャ様はまだましな部類だ。
私の言葉に言い返せなかっただけだと考えると、そうでもないか。
全てをひっくるめても、人に暴力を振るって悦に浸る者たちだ。
こちらが予想だにしない手段とかにも出そう。
「とりあえず、部屋に行きましょうか。これからについて考えるのはそれからです」
*
「まぁ、これはまた広い部屋ですね。剣を振るう練習とかもできそう」
フィリップ様に連れられ、着いた部屋は広さはあれど質素な部屋だった。
彼女たちの部屋、ありとあらゆる香水が混ざってて頭痛くなっちゃったんだよね。
だから、他の部屋がどうなのか不安だった。
だけど、この部屋は甘い匂いどころか香水のきつい匂い一つない。
まるで誰も使っていないようにまっさらだ。
「貴女のお気に召されたようで何よりです。ここはこの宮殿で唯一誰も使ったことのない部屋なんです」
使ったことがないのなら、何も匂いがしないのは当然だ。
あれ、ここに案内する時『お手付きにした女性を受け入れるための施設』と、彼は言っていた。
剣とかが置けるような壁掛け、上質な鍛錬器具。
明らかに誰かを受け入れようとしていたのがよく分かる。
それなのに、この部屋は使われなかったのか。
「……まさかここってあの【幻のお姫様】の部屋なんですか?!」
「【幻のお姫様】?」
そんなに目をキラッキラッさせるほどの逸話を持っているの、この部屋?!
年頃の女の子が好きそうなおとぎ話の名前みたいだ。
ルナシーも侍女とはいえ、女の子だ。こういう話には胸を高鳴らせるのだろう。
【幻のお姫様】か。調べても一切出てこなかったから、帝室内で語られている話なのだろう。
どんな国に行ったってそういう話は山のようにあるし。
「先帝陛下が唯一迎えられなかった姫君のことですよ! 彼が何度口説いても、振り向かなかったそうなんです」
「市井ではそのように伝わっていたんですね」
それって、一方的な片思いってやつじゃ……。
口説いても振り向かなかったって、そもそもお手付きにさえできていない件。
確か、先帝様もそれなりに武術に優れていたような。体格もそこまで悪くなさそうだったし。
手籠めにされたら抵抗できなさそうなものだけど。
そう考えると、そのお姫様すごいな。かなりの技術を持っているに違いない。
「ほとんど内容に相違はありません。ただ、私たち血縁者はその女性が誰か知っているだけ」
「実在する人なんですか?! あの頃の帝国は情勢が不安定とはいえ、強大な勢力でしたよね?」
『死にたくなければ、フリーギドゥムに女を捧げよ』みたいな格言が合ったみたいだし、ルナシーが言うことは間違っていない。
血縁者だけが知っているってことは、さては先帝にとってかなりの黒歴史だな。
それとも、対外的に広められないような人をお手付きにしようとしたのか。
うーん、ますますわからん。そんな身分の女性、誰がいたっけ。
フィリップ様がくすくすと笑いながら私の方を見ているけど、もしかして私の関係者?
「ルイーズ嬢、あなたのお母君ですよ。……彼女は、彼女だけが自分の愛する人と結ばれることを選んだのです」
「あ、あ~。確かにお母さまなら絶対になびきませんね」
お母さまはいつだってお父さま一筋だもの。
いつまでたってもいちゃついているからね。本当にほれ込んでいるのだろう。
薔薇のような華やかさを持った美しさを持つが、その武術の腕は達人級。
かつて、一人で竜を討伐するぐらいには破天荒だったらしい。
お父さまと結婚する時相当反対されたらしいが、すべて反論し返して絶縁宣言を叩きつけたという。
そんな彼女がそう簡単に揺らぐなどありえないことなのだ。
「あなたの姿を見てこの部屋のことを思いだしたんです。考えてみると、当てつけのようになってしまいましたね」
考えてみると、それもそうか。
でも、別にそんなちゃちなことは気にしない。
せっかく作られた部屋なのだ。使わなければもったいない。
「縁も巡るということです。ありがたく使わせていただきますね」




