2章19非常事態
異世界小説では、ダンジョンでモンスター討伐をしていても、時間をおいて現れるという表記がありますね。何でモンスターが再登場するのか理屈がわからないです。
次々と集まってくる仲間たち。そしてパリンの情報も。
パリン、必ず討伐成功をするからね。
環境整備など人の手が入らなくなった森は樹木の茂みが広がり、うっそうとした暗がりを作っている。これまで多くの旅人が通っていた往来は雑草に隠れたり、路面に土砂が入り込んだりしていた。これというのも上級モンスターが現れだしてから旅人はこの往来を避けて時間のかかる回り道をするようになったからだ。それ以来、チート武器に頼らない腕利き冒険者たちがたまに森へ入るぐらいである。
人が通らなくなるということはそれだけ道路が荒れるということだ。そのことが住み着くモンスターたちを選んでいるのではないかとも思う。
そもそも何処から湧いてくるのか。狩っても、討伐してもモンスターたちは全くゼロとならないことに人々は疲弊している。普通は討伐したらしばらく現れないとか平和になるとからしいのにそうならないのはなぜか。もしかしたら心霊スポットみたいな発生やすい何かあるのではと勘ぐってしまう。そうでないとしても、上級モンスターまで現れるようになった今では討伐される個体もほぼいない。例の問題で冒険者たちが避けているからだ。
人々が回り道をしなければならなくなったおかげで物流も滞りがちとなり、たびたび商品の品切れがおきていた。それだけではない。郵送物の配達も日数を要していた。結果的に近隣の町へ行くにも以前の倍は時間と日数を要するようになってしまった。まるで新幹線から汽車へ戻った感じである。
このように森の問題は決して小さくなかった。それに加えて『失われたチート問題』である。こればかりは私たち人間の手に負えるものではない。チートを与えたのは女神パイディアだ。その女神は地上へ降りて遊び惚けているうちに今や行方不明だ。神様が行方不明だなんて信じられないが、パイディアの捜索をパイディアの代行としてその役についているプリムスが私たちに依頼したぐらいだから、信者含めて相当悩ましいことだろう。プリムスやアマビエの話では、今ままでパイディアの神気があることで地上のどこぞにいることがわかっていたようだが、いつからかその神気が感じられなくなったらしい。何かパイディアの身に起きたのでは、とプリムスが心配しているらしい。
知るか!
内心、そんな気持ちがあったから今日までこの問題をほっておいたのかもしれない。わざと問題を忘れるかのように避けていた。
でもそんなことを言っていられない。『失われたチート問題』は冒険者たちの命を奪うことだ。これ以上私情に流されるわけにはいかないもの。
女神パイディアが遊び惚けている間、神がいなくなった町内の教会には妖怪アマビエが住み着き、人々に崇め奉られる嬉しさで自分ができる範囲の証を出しまくっている。なので私もアマビエの正体が妖怪であることを明かしていない。余程のことがなければアマビエは皆に姿をあらわすことをしていないしアマビエと話せるのは私だけ。なぜそうなのかはわからない。ただ、アマビエはプリムスの言葉を伝える役目があるようだ。
とにかく討伐できるか否かは別として状況を把握しなけらばならない。今まで安定路線を走ってきた私たちは、冒険者を専業でやっている彼らに言葉を言える立場になかった。
あれからギルドへ行き『失われたチート問題』について尋ねると、チート武器を持っていた冒険者が知らずに討伐へ向かったものの討伐出来ずに命を落とすことが報告されていた。逃げ延びた冒険者が報告して明らかになっており、しかも他のギルドの冒険者たちや、旅をしていいる冒険者たちも同様にこの情報を流していた。『失われたチート問題』は女神パイディアの恩恵を受けた全てのものに影響しているのだ。
大問題である。
ギルドの仲間たちとこのことを話し合っていると、マリスが駆け込んできた。
「また……まただ……。今朝、討伐に向かったパーティーが全滅した。サラマンドラで上空から様子を見に行ったが……皆、無残な殺され方をしていた。モンスターの後ろ姿を見たが、あれはモンスターどころの話じゃないぞ……巨大な魔物だ。あんなものが森に出現するなんて、いったいどうなってるんだ」
余程恐ろしいものを見たのだろう。マリスは体を小刻みに震わせている。
「今朝、向かったのは上級モンスターの噂を聞きつけて討伐に向かったパーティです。記録を見る限り、国内外において数多の討伐経験をしており上級パーティーとして名をあげていたパーティーです。もちろん、『失われたチート問題』の話もしておりますが、自分たちは神のご加護があるからと聞かず……」
ギルドのお姉さんがそのように言うと、その場にいた冒険者たちは肩を落とした。
『失われたチート問題』の現実を突きつけられた上に化け物モンスターの話に誰もが言葉を発しない。
何をどういったらいいのか、どうしなければならないのか。自分じゃない、誰か考えてくれ……そんな無責任ともいえる空気だ。
「あの巨大な魔物は今までギルドの案内にもなかった。森の樹木の高さをはるかに超えていて、その体は樹木に隠されるような大きさじゃないんだ。……で、その魔物は……いきなり消えたんだ……」
マリスの声が震えている。それほどの恐怖なのだ。そしてマリスの言葉を聞いて息をのむ人々。
「どう……したらいいんです……か……」
こんなケースは初めてだろう。ギルドのお姉さんも顔が真っ青だ。そう、まさに非常事態だ。こうなっては国家レベルの非常事態ともいえるだろう。
「まずは役人を呼んで。もちろん市長も。このギルドだけで太刀打ちできるものじゃないわ。国王にお触れを出してもらうのよ。チート武器でなくても実力があるでしょう?レア素材武器や攻撃魔法も使うことができるでしょう……国軍も……。十分な準備が必要ね。ここに対策本部を置き、誰かに司令塔になってもらうの。……みんなで、みんなで向かえば魔物の討伐ができる……かもしれない」
私はごく当たり前のことを言った。いままで見た特撮映画やアニメでは国難に総出で向かっていたではないか。ああ、だからといって特撮映画を楽しんでいるわけじゃないのよ。非常事態というより国難だもの。
はたして私の言葉を受けてすぐさま市長や役人が呼ばれ、その日のうちに王都へ役人たちが向かった。こう言ったときに貴族ももちろん動くらしいが、それは国王の命令を受けての話だ。私たちが今できることは、先ずチート能力を失った武器の対策だ。転生者に限らず女神パイディアから恩恵を受けた冒険者は、皆チート能力を失っている。その代用が必要なのだ。そんなわけでレア素材がでる例のダンジョンへ何人もの冒険者が入っていった。死ぬ気で森へ向かおうとしていたあのパーティーもそのまま宿へ残っている。無償で働きながらとりあえずの寝場所と食事が得られ、少しは安心した様だった。もちろんチート武器は無くても皆が向かうことでダンジョンを制覇し、レア素材を得たのは言うまでもない。
それにしても、よくもまあこんな状況でも諦めずに向かうものだ。専業冒険者はやはり違うなと感じる。
役人の報告を受けて国王の御触れが国の隅々の町や村へ周知される。それだけじゃなく国を出入りする近隣諸国の冒険者たちにも情報が伝わった。お触れを知って国内に多くの冒険者たちがやってくる。女神パイディアの加護がなくても、チート武器がなくてもレベルを上げてきた上級冒険者たち。そして共に死神タナトスと戦ったやさぐれ冒険者たち。彼らはどうもセリカの受難だと思ってきてくれた模様。
だから私はセリカじゃないって。
「俺たちは若いころ素行が悪すぎて人々から疎まれてきた。でも今は立派なやさぐれ連だ。育ちやお行儀は良くねえが、暴れることじゃ誰にも負けねえよ」
やさぐれ連のリーダーであるジムニーが言った。なんとも純粋な気持ちだ。やさぐれ達は確かにやさぐれているが、やるべきことはやる人々だ。今までの活躍でどれだけ富と名誉が与えられたのか全く見当がつかないが、彼らが相変らず服装に気を使っていないことを見ると、そんなに金儲けできたわけではないことがわかる。でも、そんなことは関係ない。来てくれて有難うなのだ。
やさぐれたちに遅れてやってきたのは……。
「シルビア!」
そう、私の酒友達シルビアのいる、シーマをリーダーとするパーティーだ。
「お前たちがどれだけ精進したかを見せてもらうぜ。で、サユリがやけにきれいになった気がするが……」
リーダーのシーマがじろじろと私を見る。そりゃね、あの時の私とは確かに違うわよ。だってダイエットに成功したんだし。
「私と張り合うつもりかい?フフフ……またスクリュードライバー対決をやりたいねえ」
シルビアは何とも上機嫌だ。そして私のそばへやってくると耳打ちをしてきた。
「あんたのかわいいパリンは何とか卒業にこぎつけたよ。全く……要領が悪いうえにトラウマからなかなか抜け出せないし、いじめにもあってたからね。途中で学校をやめるんじゃないかとも思ったけど、それでも諦めずに補習や予習をやり続けたんだよ。だから先生方も喜んでパリンが卒業できるように補習に付き合ってきたってグロリアからの話だ。ということで、学校への紹介料としてパリンをうちのパーティーメンバーとしていただくよ」
「ちょ……ちょっと待ってよ。パリンは宿屋パーティーのメンバーよ。あんたになんかパリンをあげないからね!」
多分シルビアは冗談を言っていたと思う。でもその冗談は気に障るくらいひどい。そんな私の反応をみてシルビアはフッと笑った。
だが、ここへもうひとり参戦してくる。
「相変らず相手をイラつかせてばかりだのう……。そんなことじゃ男が逃げてしまうぞ」
私の背後からサニーが杖をつきながら声をかけてきた。
「あっ!サニー先生……」
そう言ってシルビアは固まってしまった。え?サニーはシルビアの先生?
「元気そうで何よりじゃ。サユリ、シルビアは私の弟子だったんじゃ。孤児のシルビアを引き取って弟子にしたんじゃが、上級魔法学校を卒業したとたん、男を作って出て行ってしまってのう。育ててもらった礼も言わずに恩知らずとはこのことじゃ」
何と!サニーとシルビアは繋がっていた。世の中都合よく出来すぎている。世間は狭いということか。
「も、申し訳ございません!」
平謝りのシルビア。ふふん、ざまあ……ってことは思わないようにしておこう。おばさんは足の引っ張り合いなんかしちゃしわがふえるだけ。
それだけではない。なんと、あの異世界召喚人ばかりのパーティーも来てくれたのだ。
そう、クトニオスの魔剣を持つケントのパーティーだ。
魔剣は大丈夫なのかと聞いたら、どうも女神パイディアと違う世界の神の加護らしく影響を受けていないとのこと。
ただ、やはり異世界をまたぐと別の制約もあるようだ。
私を蘇生してくれた女の子とそばにいた男の子だが、この世界で使うことのできない(発動しない)スキルがあるらしい。いきなり別の異世界へ召喚されながらも何とか助け合ってきたというから、まるで昭和の冒険小説みたいな感じだ。
異世界転生と異世界召喚が混在しているこの世界。おばさんには、わからんちーん。
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