2章18失われたチート問題
何やら雲行きが怪しくなってきました。パリンが帰ってくるというのに大問題発生。
チートってゲームの世界の言葉なんでしょうか。昭和のおばさんにはよくわからん。
この前、女子高校生に「月光仮面」や「怪傑ハリマオ」の画像を見せたらダサいけどかわいい!とのこと。私は両方を見たことはないけど、ネタとしてなら知っています。私がリアルで見たものは「ガメラ」や「仮面ライダー」、特に「海のトリトン」は何度見ても感動するね。
パリンからの手紙でとてもいい気分になった私は事務仕事の為館内へ戻った。アルフォードとマリスはパリンの部屋の整備だ。掃除を定期的にしているものの、日常使わない部屋はどこか湿った感じがある。ドアだってきしんでいるし、窓はガタついている。それらを直すということだ。
パリンが帰ると言っても今日明日に帰るわけではない。魔法学校は馬車で何日もかかる遠い城下町にあるのだ。国王がこの国の発展のために設立した王立の学校である。もちろんシルビアとグロリアが見込んだと言ってもタダで入学をしたわけではない。親として(もはや勝手に自分が親だと思っている私)かかる経費や学費をちゃんと納めている。シルビアは宿屋経営をみて私に支払い能力があるとわかったんだね。残念ながら国王が制度として設けている奨学金制度を利用することはできなかった。パーティーの仲間を蘇生できなかったことや経歴詐称について魔法使いや冒険者関係に知れ渡っており、学校ももちろん把握していたからだ。高校や中学でいえば進学でものを言う調査書とか内申書というものだろう。
蘇生できず死なせてしまったこと、経歴を詐称したことは学校の生徒たちも知っていた。陰口をたたかれたり、いじめにあったりしたこともあったそうだ。これらのことはグロリアがよこした手紙の中にも書かれていた。もし私がその場にいたらパリンをいじめた生徒をぶん殴っていただろう。
辛かっただろうに泣き言ひとつ言わず、歯を食いしばって勉学に励んだということだ。見捨てずに励まし、力になってくれたグロリアに、そして魔法学校という縁を結んでくれたシルビアにも感謝である。パリンにしても、もうここで諦めたら後がないと覚悟をしていたから例えクラスでひとりになっても自分がすべきことをやったのだ。
だからパリンは人一倍努力をした。いや、しなければならなかった。今までの自分を乗り越えるために……。
事務仕事をしていると冒険者っぽい複数のグループが宿泊をしたとランランが報告をしてきた。なぜわざわざ報告だろうと聞いたら様子がおかしいとのこと。
これまでにも居酒屋の無銭飲食や無銭宿泊の被害にあっている。そのひとりクラフティスはサニーと私のもとで更生を果たし、今や宿屋だけでなく地方の踊り手として活躍をしているし、ディスコを広めてくれていた。だが、世の中そんな人間ばかりではない。無銭飲食や無銭宿泊のリスクが常にあり、そうした負の金額も経理上、帳簿に書く必要があった。討伐に失敗して帰ってこない(全滅)パーティーの問題とは別問題だ。
フロントへでて宿泊名簿をみると職業欄が未記入だ。確かに職業欄の記入は必須でないので書く必要はないが、それなりの武器を所持しており明らかに冒険者だという。それだけはない。
「サユリ、彼らが現れました」
カンカンが耳打ちをしてくる。私たちをみてか、彼らの代表らしき人物がフロントまでやってきた。
「お前たちが何を心配しているかわかっている。宿泊代を前金で払っておくよ。ギルドで案件を探したところ、狩場は森しかないと言われたので俺たちはこのまま森へ討伐に行く。……もうそれしかできないんだ」
そう言う男やパーティーメンバー皆がどっぷりと闇の沼にはまっているかのように雰囲気が暗い。暗いってもんじゃない、まるで生気がないのだ。
「ちょっとまって。そんな態度で森へ行っても失敗するわよ。森の異変を教えてもらってないの?森はもはや弱小モンスターの狩場でなくなっているのよ。何か事情があるようだから話を聞かせて」
そう言って私は彼らを引き留め、看板娘たちにはアルフォードとマリスを呼んでくるように指示した。その後彼らを食堂へ案内すると、食べたはずの客がまた入ってきたものだから、その場の従業員たちが驚いていたものの私を見て納得した様だ。
「私はサユリ、この宿屋の経営者よ。ここには宿屋パーティーがあって森の弱小モンスターを専門に討伐してきたの」
「えっ?サユリ?……セリカの武器を持つサユリってあんたのことか」
イスにもたれていたパーティーの面々は名を聞いて立ち上がる。どこから来た冒険者かは知らないけど、セリカの名が知れ渡っているのだ。何だか気恥ずかしい……。
「セリカの武器を持っているけど私は私よ。セリカじゃないわ」
セリカの一件以来、私には女傑セリカの名を背負う羽目になった。あの場にいた冒険者たちが尾ひれをつけて噂を流すものだから正直迷惑をしている感はある。
「……あんたは何ともないのか。セリカの薙刀はちゃんと力を発揮しているのか。そしてあんたも何か問題はないのか」
「どう……ともないわよ。というか、セリカの薙刀の力はいつでも発動できるものじゃないから、普段はただの薙刀よ。神の恩恵を受けたチート武器とは違うみたいだし。それが何か関係あるの」
私がそう言うと彼らは大きくため息をついて自分たちの武器を差し出した。
「これって……」
アルフォードとマリスが目を見張る。私と違って冒険者生活の長い彼らはこれまでに様々な冒険者と出会っている。私も彼らの武器をみたが掘り物があったり飾りがあったりで高そうな武器だと感じた。
「パイディア神の恩恵を賜った武器だ。いわゆるチート武器……だった」
そう言った彼らは益々暗い表情となる。
「だった?ということは……」
私の質問にアルフォードとマリスが顔を合わせる。意味を理解したらしい。
「いつのころからかチート能力がなくなって只の武器になってしまったんだ。隣の魔法使いが攻撃力の低下を魔法で補おうとしてくれるが、もう限界だ。数々の討伐をこなして名をあげてきた俺たちだが、チートを失った今は剣技でしか戦えないパーティーとなってしまった。所持金も僅かだし、少しは稼ごうと思って森へ行くつもりだったんだ……」
なんと!チート武器のチート能力が消えてしまった?そんなことってあるのか。
宿屋パーティーの武器は素材がレア素材というだけで神から賜ったものではない。ブースト効果があるだけである。だからチート武器の性能なんて以前パーティーに加わっていたケントのクトニオスの魔剣ぐらいしか知らないし、そんな問題も知らなかった。
ダンジョン制覇や討伐案件の為宿に宿泊をしていたパーティーが、荷を置いたまま討伐から帰ってこないことに関係があるのか。
「それって大問題だわよね。チート武器を持つ他のパーティーはどうなのかしら」
「……ギルドに聞いてみたらいい。冒険者から情報の集まるギルドはそうした負の情報も持っているはずだぜ」
男に言われてふと私はタナトスとの戦いを思い出した。
もしかして神と神のいさかいが原因ではないか。だとすれば非常に迷惑な話だ。
聞いてるか、女神パイディア。怒るぞ、こらっ!
これは女神パイディアの消息不明の影響かも知れない。
あのとき私はアマビエをとおして神プリムスから女神パイディアを探すように言われている。パイディア捜索を頼まれたものの、後回しになっていたことを今更に後悔をする。
多くの冒険者にチート能力やチート武器を与えた女神パイディアは、下界へ降りたまま遊びほうけているらしく全く音沙汰がない。それ以来、神プリムスはブラック企業並みに多忙らしい。
いよいよ、これは本腰を入れて取り組まねばならない問題だ。でも宿屋パーティーだけではキャパオーバーだ。
「この問題、預からせてもらってもいいかしら。チート武器のチートが消えるなんて非常に大問題だわ。恩恵を与えた神様になにか異変が起きたと考えた方がいいと思う」
そう言って、先ずは彼らだけを森へ行かせることをやめさせて私たちも同行することにした。何度も言うが、森のモンスターは進化をしている。弱小モンスターに出会う方がレアなのだ。中級レベルのモンスターが頻発しており、ときに上級レベルモンスターも現れているのだから警戒をしなければならない。
正直、おじさんおばさんとパパになったマリスの立場は『命が惜しい』。だから安定路線を走っていた。そんなことでは帰ってくるパリンに申し訳ないかもしれない。ただ、言い訳を許してもらえるのなら、人生経験豊富なおじさんおばさんは夢を見ない。いつも現実を見つめている。夢見る少年だったアルフォードやお姫様の夢を見ていた私も目の前で起きていることを受け入れる日々だ。夢を見ないというより、現実が多忙すぎて夢を見る暇がないと言った方がいいかも知れない。だから『命が惜しい』。この安定路線主義がいつしか冒険者という肩書を外していた。
今の私たちは……何だろう……もの好きでやっているだけか……。そんなの、冒険者たちに失礼だろう。
だから少年の心に灯をともさねばならない。現実しか見ない、見ようとしない大人であってはだめだ。私も少女の心を失うことは老化を意味する。
おばさんだって異世界転生、心だけでも若返ってみせるわよ。
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