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2章17手紙

 進学したパリンから初めての手紙。携帯電話のない世界は手紙がコミュニケーションの手段のひとつ。そういえば、昭和の時代、文通というものがありました。手紙のやり取りで友達と親交を深めるものです。文通友達をペンパルとも言っていました。私も海外含めて文通相手がいましたがいつしか途絶えていきました。文通よりも楽しみや生きがいを見つけたり、実際に目の前の相手とやり取りをすることを知ったからかもしれません。

 パリンが進学してから月日は流れていた。里心を出さないようにするためパリンは何ら手紙をよこさない。最初は寂しくて時折涙が出た私だが、時間経過とともに気持ちが落ち着いていた。ただ、たまに上級魔法学校の教師であるグロリアがパリンの成績報告を兼ねて近況を送ってくるのが情報といえば情報だった。

 

 待ち焦がれているパリンの情報を宿屋の皆で共有するが、パリンが出ていった時と違うのは私のそばにアルフォードがいるということだ。マリスとリンリンの結婚や出産は派手に皆で祝ったが、私たちは特にそれをしなかった。式をしなくてもそばにいられるのならそれでいいと互いに思っていたからだよ。だから結婚してすぐに宿屋の敷地内に新居を構えた。私がいた旧館の一室は従業員用とした。

 

 パリンがいたころモンスター討伐であるパーティーと共闘したことがある。シーマ率いるパーティーだ。シーマは友人クオーレを討伐で失っていた。原因は当時パーティーへ加わっていたパリンの力量不足だ。生活の為に学歴や資格を詐称してまでパーティーへ加わっていたパリンは、討伐で命を失ったクオーレを蘇生できなかった。そのことで追放され、この町へ流れついていたのだ。この町で再び彼らに会い、なんだかんだで共闘した際にパリンはシルビアという魔法使いに見込まれて進学を提案されていた。迷いながらも進学を決めたのは、後の討伐案件で私が死んだ際に蘇生できなかったことがきっかけだった。そのときは別のパーティーの魔法使いが蘇生してくれた。

 いつまでもトラウマを抱えていては上達しない、そうシルビアはパリンの説得の為わざわざ上級魔法学校の教師を引き連れてこの町へ舞い戻った。その教師がグロリアである。何でもシルビアとグロリアは恩師と弟子の間柄だそうだ。


 グロリアからの手紙によると、パリンは高い学費を有効に使おうと、寸暇を惜しんで勉強しているとのことだ。高くて買えなかった数々の専門書が揃っている図書室へ通ったり先輩や先生方の魔法の実演を食い入るように見たりして、自分なりにノートをとって検証しているらしい。しかも授業では一番前の席に座り、教師のいうことを聞き洩らさないようにノートをとっているとのこと。

 嬉しい、なんて頼もしい。元居た世界の息子はこんなに勉強しなかった。ゲームや漫画に部活動、アルバイト……。学校以外の時間の使い方だ。だから熱心に勉強をするパリンが愛おしくてたまらない。ひとめでも会いたい。そんな気持ちが波のように私の心を揺さぶっていた。

 私の部屋の小箱にはグロリアから手紙が届くたび大切に保管されている。少しでもパリンを感じられるようにだ。


 念願のダイエットに成功をしたし宿屋経営も順調だ。思いがけない事でクラフティスと仲間たちを迎え、ライブ・ホール機能を備えた居酒屋は有り余ったエネルギー発散の場と知れ渡り、これまでにも多くの客を迎えていた。

 

 弱小モンスター専門の宿屋パーティーは、結成以来モンスター討伐だけでなく害獣駆除や探索をこなし、ジャッカロープという角ウサギの秘密まで明かした。未だにあの角が何の病気に効果があるのかはまだわからない。まあ、専門の大学が解明を請け負っているからそのうち発表があるだろう。それだけならまだよかった。討伐案件は益々高度なものに変わり、ラミアなんて蛇のお化けみたいなモンスターも相手にしてきた。あれはセリカの力が発動しなかったら相当ヤバかった。そして死神タナトス!宿屋パーティーよりも経験豊富でレベルも上位にあるやさぐれ連中とともに対峙したが、結局は私に諭されてタナトスは改心しただけでなく自らの行いで神格向上したのだ。

 その後、私たちは国へ帰ってからも森の弱小モンスターを相手にしてきた……つもりだった。だが、弱小モンスターだって進化するのだ。レベル上げと言いながら弱小モンスターを狙い撃ちしていたことに甘えがあったのは確かだ。パリンと競うべく私たちも積極的にレベル上げを目指した。


「森の弱小モンスターの出現率がほとんどない。今日も相手にしたのは中級レベルのモンスターだ。往来だってモンスターを警戒して人や馬車の通行量が減り、かなり荒れている。そのうち国が新たな道路をつくることを考えないだろうか。陳情をしたものの、国の動きが悪い。確かに俺たちは上級魔法学校を卒業して帰ってくるパリンに恥じないように自分たちもレベル上げをすることを目指しており、確実にレベルは上がってきたと思う。だがな、それよりもモンスターの進化が早いんだ。中級レベルモンスターだなんていってられない。相手にはしていないが上級モンスターが現れたこともある。さすがに逃げるしかなかったが、また進化した奴が現れやしないかと不安だ。……正直、体がついていけないよ……」

 いつになく弱気になっているアルフォード。疲れもあるんだろう。

「サニーも力になってくれるが、いくらサニーが魔法を使っても根本的な問題は解決しない」

 マリスも表情が硬かった。疲れていてもモンスターたちは現れてくる。以前は本当に弱小ばかりだったし、一度討伐をしたらしばらく現れなかった。それがどういうわけか中級レベルのモンスターがよく現れるということだ。確かにこれじゃ疲れてしまう。もちろん、討伐をするのは宿屋パーティーだけではない。中級レベルのモンスターが現れると聞きつけてやってくる冒険者パーティーだっている。今や森の往来は交通の要ではなく狩場となっており、根本的な問題は解決していない。おまけにサニーは高齢の魔法使いだ。最近は足腰がかなり弱っており、介助者が必要だということで私も討伐に加わることが多くなっている。


 私たちが話し合っていると宿屋の看板娘たちリンリン、ランラン、カンカンがやってきた。笑顔がないことから何か起きたものと推察される。

「一昨日チェックインしたパーティーですが、昨日討伐へ向かったまま、いまだに帰ってこないんです。荷を預かりますか」

 ああ、またか。なんだろう、そう言ったケースが多くなった。もちろん討伐をして無事に帰ってくるパーティーもあるのだが、上級者パーティーでも帰ってこないことが散発していた。これはアマビエの言っていた「女神の気配がなくなった」ことと関係しているのだろうか。

 タロウが生きていた頃、仕事を教えてもらいながら私は業務をこなしていた。そのときにも討伐へ向かったまま帰ってこないパーティーがあった。部屋に残された旅の荷物の処理をどうするか聞いたら、とりあえず荷を倉庫へ入れておき、何カ月も帰ってこなかったら討伐に失敗をしてやられたものとみなし、宿代として荷を売りさばくように言われた。この場合所有権よりも未払い金の清算が優先されるからだ。そんな案件が最近になっていくつか起きていた。

「彼らは森へ討伐に行ったのよね。もしかしたら強いモンスターが現れて討伐を失敗したのかもしれない。これまで通り、荷を倉庫へ入れておいて。パーティーリーダーの名前と日付を書いておくのよ」

 私はこれまで通りの指示をだした。本当はこんな指示をだしたくないのだ。彼女たちだってこのような報告をしたくないだろう。

 看板娘たちは予想された私の指示を聞いて戻っていく。


「あのパーティーが討伐を失敗するなんて信じられないな。彼らは神の恩恵を賜ったチート武器を持っていた。使いこなしていたら上級モンスターだって敵ではない。レア素材というだけの俺たちの武器とは違い、武器の力は桁外れなんだが……いったい何が起きているんだ」

 アルフォードは納得いかないようだ。確かに以前いたケントのクトニオスの魔剣のことを考えればチート武器はルール違反と思えるぐらいの力を発揮する。

 帰ってこないパーティーは上級者ばかりの経験豊富なパーティーだ。彼らにしてみれば森のモンスター討伐なんて簡単すぎるはずだ。だからこそ、荷を置いて宿屋へ帰ってくるつもり(要は連泊をする)で討伐へ向かった。それなのに宿屋へ帰ってこない……こうしたことがすでに何件も起きている。荷を預けて討伐へ向かうと言われたらその後を予測してしまってビビってしまうほどなのだ。


 モンスターたちの確実な進化、そしてチート武器や能力を持つパーティーの失踪。ということは冒険者たちのレベルを凌駕するレベルのモンスターが現れたということだろうか。この時点で宿屋パーティーは圏外だ。常に安全圏で戦っていたおじさんおばさんおばあさんパーティーの心は折れそうだった(若手のマリス、巻き込んでるね、ごめん)。

 この状況を何とかしないと人的物的交流がなくなり、生活に支障をきたすから町のみんなで話し合って陳情をし、ようやく新たな道路を作る動きとなった。

 パーティ失踪の件はお金より人の政治に関わるものだから、看板娘も厳しい現実に感情的にならざるを得なかった。ましてリンリンは幼子を連れて働いているので不安もあるだろう。(リンリンはめでたくマリスと結婚をした後も働いてくれているありがたい存在だ。人材は宝と考える私は子連れ出勤を認めている。この世界における女性の社会進出の先駆けを目指してるのだ)いつの世もどこの世界にも辛いことや厳しい現実はある。それとどう向き合っていくかが問われるのだろう。


 おいっ!聞いているか、プリムス。何か大きな問題が起きているみたいだよ……。


 そう呟くが、あのくそったれ神のことだ、きっと聞こえていないだろう。

 気を取り直して庭の草抜きをアルフォードたちと行う。雑草と戦うなんてどこの世界も同じだと思う。そんな私たちのもとへこの世界の郵便配達がやってくる。元居た世界と違い、この世界の郵便は馬車輸送なので時間がかかる。もちろん重要な仕事であり、馬車輸送には警備がついているほどだ。

「パリン……!」

 配達人から渡された手紙には懐かしい文字が。今まで里心がつくからと手紙を一切よこさず、帰省もしなかったパリンからの手紙だ。思わず私は手が震えて身体も舞い上がってしまう。

 どうしたことだろう。成績不振?でもグロリアから送られてくる成績証明書には不振なんてかかれていなかった。じゃあ何よ。慌てて開封するとこのように書かれていたのだ。

 

『宿屋パーティーの皆さん、宿屋の従業員の皆さんお元気ですか。ようやく皆さんへ手紙を書くことができるようになりました。僕は要領がいい方ではありませんので、卒業するまではどんなに寂しくても帰省せず、手紙を書かない覚悟でいました。そのためご心配をおかけしたことと思います。特にサユリは母のように接してくれ、その思い出が僕の心を常には励まし、後押しをしてくれました。成績についてはグロリア先生が成績証明書を送ってくださったのでよくご存じだと思います。僕がトラウマとなって習得しなかった……いえ、習得できなかった回復魔法や蘇生の習得は簡単でありませんでした。物を作る系は割と簡単にやれるのですが、回復魔法すら満足にできないのに蘇生魔法ともなると落第の言葉が頭から離れませんでした。そんな僕に対してグロリア先生は決して見捨てず、時間を割いて補修に付き合ってくださいました。サユリ……みんな、僕は友達に遅れること半年でようやく卒業試験にこぎつけました。結果は……この手紙を書いているということで分かりますね。僕の部屋を開けておいてください。それが答えです』


 パリン……大人びた文字は彼の成長を感じさせる。少年から青年へ代わりつつあるパリンはどんなにかわいいのだろう。


 会いたい、会いたい、会いたいよ。こっちはなんだか問題がおきているのだけど、そんなこと考えられないほど頭の中はパリンのことでいっぱい。

 私が手紙を読み終えるとアルフォードたちから拍手が起きた。待ち望んでいたパリンの近況だからね。


「噂のパリンが魔法学校を卒業して帰ってくるのかい……ヒヒ……楽しみだのう……」

 サニーはパリンのことをよく知っていた。もちろんパリンについて回っていたあの噂もよく知っていた。だからといって彼女はパリンに悪意を持っていない。

 同じ魔法使いであり、孫のような世代のパリンを見守っていた立場だ。


 パリン、安心して帰ってきなさいね。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

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