2章15可愛さ余って憎さ百倍
中二病的な言い回しって本当に難しい。なんであんな回りくどい詠唱をするんでしょう。異世界ものの小説を読んでいると皆さん格好よい文章を書かれていますね。
この世界発のディスコは居酒屋を通して徐々に広がりを見せ、踊らずともギャラリーとして楽しむ人々も増えた。私は元居た世界のリズムや振り付けを押し付けることはしなかった。なぜなら、この世界にはこの世界の人々の間で生まれた文化があるし音楽やそれを形成するリズムも元居た世界のもの全く同じではないからだ。結果的にクラフティスとその楽団は見事に私が教えたディスコをこの世界の文化と融合させた。おかげであっという間に人々の間にディスコが浸透していった。
ノリのいい曲は何処の世界でも広まりやすいということだろう。
宿屋パーティーはいつか帰ってくるパリンの為にもレベルを上げておく必要があった。だからモンスター討伐に限らず、人に危害をもたらす猛獣も相手にしていた。以前のように猛獣はハンターの仕事だなんて文句を言わない。とにかく討伐経験が増えるほど自分たちが強くなっている気がして精進努力を惜しまなかった。
ギルドへ赴くと案の定、害獣駆除案件を紹介された。これまでにも害獣駆除をしてきているため、どうも『害獣駆除なら宿屋パーティー』という認識がひろまって優先的に?猛獣害獣駆除案件がまわされるようになったようだ。そして有り難くないことだが変な尾ひれもついていた。
——宿屋パーティーでは駆除した害獣を自分たちで解体処理して食べさせている。そうすることで手間賃や食材費がかからないからだろう——。
困った……いつの間にかジビエ料理の宿とされている。誰だよ、スマホやパソコンのないこの世界でSNSの如くデマを流すのは!駆除した害獣は全て解体業者へもっていっているよ。専門業者だから衛生的、安全に処理しているから買い手も安心なんだよ。もちろん宿屋として仕入れることはあるけど毎日じゃないし、客に提供している料理もジビエばかりじゃないからね。
とまあ、さほど大きな問題ではないがデマは迷惑だ。
「この害獣はかわいく見えますが、騙されてはいけません。かわいさ余って憎さ百倍、駆除あるのみです。肉は揚げ物にすると非常に美味しいので近年人気が高まっております。被害にあっている農家やグルメ客に感謝されるいい仕事ですよ」
ギルドのお姉さんは相変わらずかわいい顔をして紹介をしてくる。……きっと害獣と言えど何かいわくのあるようなものだろう。普通の害獣ならとっくにハンターが駆除している。あえて私たちに紹介してくるということは、ハンターじゃ手に負えない害獣ということだろう。
「まあ、嬉しいことね。いい仕事を紹介してくださってありがとう。おほほ……」
私だってまけていない。お姉さんとの心理的な戦いだ。こんなとき、アルフォードとマリスは『またか……』というような表情を見せる。
「じゃあ、さっそく駆除準備に入るぞ。どんな害獣であっても駆除あるのみだ」
アルフォードの声掛けに早速準備をする。足腰の弱ったサニーの為に移動中は拡大したサラマンドラに乗っていく。これだけで宿屋パーティーは楽チンしているとも言われるが、少しの支援で皆を同じようにできるならその支援を有効に使ったらいいと私は考えていた。
「サユリ、私はもう体が限界じゃ。いくら頑張っても体は正直で、思うように体を動かせなくなった。……そろそろ本気で引退を考えねばならんかものう……」
サラマンドラの背でしんみりとした顔をするサニー。ええっ……何を急に言い出すのよ。
「まだ迎えは来ないぜ、サニー。もし来たら俺が追い返してやるから安心しなよ」
アルフォードがそう言って元気づけようとするが、サニーの表情は変わらなかった。
人間誰だって老いを迎える。命と身体は永遠でないからいつか終わりの時を迎える。でもサニーは移動中の支援は必要だが、まだまだ魔法の力は衰えていないのだ。私たちはサニーの弱気を受け入れられないでいる。
「まあ、でもわしはまだ花を咲かせておらんからのう」
花とは彼女の輝く瞬間だ。そう、もっと輝きたいというその向上心が大事だよ。向上心を失ったら人間が老化までまっしぐらだ。
「一緒に花を咲かせましょう。女は添え物じゃないものね」
私のこの言葉でようやくサニーの表情がよくなった。でも、彼女がそのような発言をするということは、きっと心の中で苦しんでいるものがあるのだろう。サニーに負担をかけてはならないと思うが、私たちはサニーを必要としているので、その決め引きを考えねばならない。
そうこうしているうちに私たちは目的地へ到着した。サラマンドラが着地した場所からは細い荒れた道を歩く。道というけれどこれはどう見てもけもの道だろう。アルフォードとマリスを先頭にして私はサニーの手を引いて歩いていく。
サラマンドラは飛びながら周りを警戒している。闇雲に突っ込んでいくのではないからそれだけでも助かるのだ。
ケーン!
雉のような鳴き声でサラマンドラが声をあげた。そこに、確かにそこに奴はいる。
武器を手に構える私たち。
ガサガサ……。音とともに現れたそいつは……。
「なにこれ、かわいいじゃないの」
モフモフの毛の覆われた小動物だ。しかも甘えた声でにゃーんと鳴く。この世界のネコなのか。
「何だい、ネコかよ。期待させやがって……」
マリスが剣をしまいかけたその瞬間だ。
「そいつは魔獣じゃ!距離をとりなされ」
サニーが叫ぶ。
え?こんな小動物が魔獣?ギルドで見た絵はこんなんじゃなかったわよ。そう思いつつサニーの手を引き後方へ下がる。アルフォードとマリスは剣を持って再び構えた。
にゃーん、にゃーん……。
鳴きながらそいつはアルフォードとマリスの足におでこをスリスリするではないか。
「早く離れて!あんたたちを自分の所有物としてマーキングしているのよ」
猫と同じと考えるなら頭スリスリは愛情表現でもあるが、面識のない私たちにするのはマーキングだ。こいつ勝手に私たちを所有物にしようとしている。全く失礼な魔獣だ。
「こんな小動物を相手に剣を振らないといけないのか。片手でもいけるぜ」
そう言ってアルフォードは魔獣の首根っこを掴むと万能ナイフで刺そうとした。だが、やはり猫もどきのそいつは間違いなく魔獣だった。
フギャッ!
猫もどき魔獣は脚でナイフを蹴り上げたかと思うと体をひねってアルフォードの腕にかみついたのである。それは決して猫が甘えるときの甘噛みではない。
「ぐわっ!」
アルフォードの右手から大量の血が滴る。慌てて引き離そうとするが魔獣は離れようとしない。
マリスも向かおうとするものの、先ほどの頭スリスリの影響からか、体が思うように動かせないようだ。あれはただのマーキングじゃないのだ。
恐怖はそれだけではなかった。
猫もどきが変容して正体を現したのである。見る間に猫のモフモフの毛が立ったかと思うと、まるでハリセンボンのように鋭い棘だらけとなった。猫もどきのかわいい顔は恐竜のような目と大きく裂けた口へと変わり、長い牙を見せてアルフォードの腕を食いちぎろうとしてる。それだけでなく、ハリセンボンのような棘がアルフォードの体にも突き刺さっていくではないか。その激痛に耐えかねてアルフォードは剣を落としてしまう。
「アルフォード!」
苦悶の形相のアルフォードに見かねて向かっていくが、魔獣の咆哮は私の行動を許さない。やはり魔獣は魔獣だ。単なる猛獣とは違う。当り前のことを今更に思う。
ウィーン、ウィーン……。
薙刀が輝きだした。好機を狙わなければ薙刀の効力がなくなってしまう。
「サユリ、わしが奴の動きを止めて時間を稼ぐ。アルフォードを助けるんじゃ!」
サニーが杖を振り上げるのをみて私は薙刀を手に構えた。
「吹き荒ぶ風の理よ、人の腕に絡みつき、今肉を食らわんとする魔獣の世界を切り取れ。息吹を拒む無風の檻にて、その四肢を束縛せよ。ヴォイド・ケージ!」
サニーの言葉が響く。私には感じられない風が檻となって魔獣を束縛した。何が起きたのかわからない魔獣は必死に動こうとするも動かせないでいる。
「薙ぎ払え!」
薙刀を手にした私の身は軽く、そして素早く魔獣の首を切りはらった。緑の魔獣の血があたりに飛び散り、魔獣が離れた反動でアルフォードは地にたたきつけられる。
「油断はならん!まだ魔獣は終わりでないぞ」
サニーの声がするなか、私は必死にアルフォードを引きずってサニーのもとへ連れていく。回復魔法をかけてもらうためだ。
「アルフォードをお願い!マリスの方もなんとかできそう?」
頭スリスリで魔獣の所有物としてマーキングされたマリス。死なせるわけにいかない。
巻き添えを食らわせないために、魔獣と対峙しながら少しずつアルフォードたちから離れる。身体を縛り付けられたかのように動けないでいるマリスが次の標的となるのかもしれない。或いは弱っているアルフォードか、もしくは素早い動きができないサニーか。
ウィーン、ウィーン。
3人の武器の輝きが増す。使い手がどうであってもお構いなしのブースト発動だ。だが闇雲に突っ込むわけにいかない。ハリセンボンのような太い棘から身を守らねばならない。……非常に厄介だ。そんな私の行動を馬鹿にするかのように、猫もどきからの変容ハリセンボンもどきは棘をゆらゆら動かしながら私の出方を見ているようだ。なんて腹立たしい!
間合いを取りつつ魔獣へ矛先を向ける。すると魔獣が動きを見せた。
ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ……!
棘が次々に飛んでくる。私はブースト効果を発揮した薙刀を振り回して棘を跳ね飛ばした。
カンカンカンカンカンカン……。
跳ね飛ばされた棘の幾つかが魔獣に突き刺さった。
ウギャー!
魔獣の叫びにも似た咆哮が響きわたる。このままいけるか……そう思った。だが、奴はやはり魔獣だった。
傷を負いながらも瞬時に私の目の前へ移動してきたではないか。
まずい、この距離だと薙刀の長さが邪魔になってしまう。慌てて距離をとろうと後ずさりをするが……。
「ああっ!」
草に脚をとられて後方へ倒れてしまった。急いで立ち上がろうとするも魔獣は今にも私に覆いかぶさろうとしている。いくつもの棘の先が私の体を刺していく。次は頭か……。
「この野郎!」
アルフォードの声とともに魔獣の背後で閃光がおきた。
ギャアー!
切り裂かれる魔獣の体の向こうからアルフォードとマリスが見える。
「間に合った……サユリ、大丈夫か」
サニーの回復魔法とマリスに対する束縛のキャンセルがぎりぎり間に合ったようだ。
「ありがとう……本気で死ぬかと思ったわ……」
アルフォードに手を引かれて立ち上がる。
周りには切り裂かれた魔獣の体が。しかし、まだ息があるのか、意志があるかのように棘が動いている。
「サラマンドラ、行け!」
マリスの肩からサラマンドラが飛び立つ。
ボボボボボボ……。
サラマンドラの激しい火焔が魔獣のかけらを焼き尽くす。こうなれば再生は不可能だろう。
「気を付けなされよ、こやつは魔獣と言えど、そんなに強いものではない。上には上がいる。おごらぬことじゃ」
そういうサニーも疲れたとみえ、草むらに座り込んでいる。
こうして魔獣討伐案件は無事に達成された。
可愛さ余って憎さ百倍。ほんっとにモフモフで油断させるなんて魔獣の風上にもおけないやつだったわ。
魔獣、嫌い!
最後までお読みいただきありがとうございました。ご意見ご感想突っ込みお待ちしております。




