2章13泥棒の憂き目にあう
サニーと聞いてある名前だとピンときた方、昭和世代ですか?トヨタの大衆車カローラと並んで
日産がだしていた大衆車モデルです。大衆車といっても若手向けのスポーツモデルがあり、カローラのスポーツモデルはレビン(AE86 カローラレビン有名ですね)、サニーのスポーツモデルはルプリ(日産初のターボ車 レビンと違い、こちらはFF)があります。私はルプリに乗っていましたが、初期ターボ車とあって結構なターボラグがありました。いわゆるどっかーんターボ車です。
宿屋経営と宿屋パーティーの活動は順調で、これまでムリゲー的な魔物に対峙していたことなどがまるで別世界のことだと思えるほどだ。国境封鎖がとかれ、再び人の往来が戻ってきた。いや、今まで以上だ。おかげさまで宿屋は毎日満室御礼。多忙な毎日であるが、客対応の激務が楽しく思えるほどの充実感なのだ。アルフォードとマリスが洗濯干し場に暖炉の温もりが入るように部屋の細工をしてくれたので、洗濯物の乾きが早くなった。事務手続きや経理は私の仕事で、客対応は宿屋のアイドル達に任せている。そりゃね、誰だって若い子がフロントにいた方がいいでしょう?だから私は裏方に徹している。掃除や洗濯など体をしっかり動かしており、実は結構ダイエットに成功しているのだ。ふふっ……ウエストのくびれが戻ったのよ!だからきつい労働だけど裏方はやめられない。
高齢ながらパーティーの手伝いで入ってくれたサニーもなかなか役立つ魔法使いであり、若いころよりは衰えているものの、攻撃魔法は十分にそこいらのモンスターを一撃するらしい。おかげさまで私はパーティーへ加わらず宿屋業務に専念している。……でもね、やはり……寂しく思えるわ……。
なんていうのかな……ワクワクドキドキする気持ちって大事だと思うんだね。それがあることで生活に張りが出てくるから。このまま宿屋のおかみで生きるのもいいかもしれないけど、サニーの働きは薙刀持ちサユリの動員を奪っている。嬉しいような、悲しいような……。
それだけでなく、森の往来モンスターは確実に進化しており、弱小というほど弱くなくなった。中にはあのラフレシアみたいなモンスターのように、見たこともないモンスターがあらわれることもある。宿屋パーティーは力の高みを目指すとして精進していくのだから、それはそれでいいと思う。パリンが卒業して帰ったとき恥ずかしくないようにだ。そんなパーティーで年齢関係なく活躍できるサニーはまるで母方の祖母と同じだな。
おばさんだって異世界転生、若いもんには負けないわよ。おばさんはしたたかなのだ。この世界で生き延びて人生を謳歌してやるわ。
雪がちらちらしてきた。転生したとき、私は視界に入った自然を観察した。植生を見てわかることは、ここは広葉樹だけでなく針葉樹があることから四季があり、当然冬もあるということだ。人々の家を見ると降雪を意識したつくりではないので積雪は精々10センチくらいと勝手に思っている。
「うえーっ寒い、寒い。使い捨てカイロほしーい」
私は寒さに震えながらもチェックアウトした客のシーツを洗うと、洗濯干し場へ向かう。暖炉の暖気があがってくるように改装した洗濯干し場は春の温もりだ。それが終わると事務処理だ。どんぶり勘定にならないように経理をしっかりしている。経理っていっても日商簿記みたいな本格的なものじゃないが(この世界に税理士とか、税務署とかあるわけじゃないから)税金を納める以上、仕分けは必要だと感じたからだ。
数字で見る限り国境封鎖の影響はなくなっており、むしろ封鎖前よりも売り上げが上がっている。客が戻ってきただけでなくアイドル3人娘のおかげもある。リンリン・ランラン・カンカンの3人はシフトを組んで居酒屋業務にも加わっている。有難いことだ。
私だけだったらこれだけの売り上げをだせたのかな。
台帳を見ながらあれこれ考えているとカンカンがやってきた。先ほどまでフロントでチェックアウトの対応をしていた。
「サユリ、先ほどチェックアウトしていった客ですが、なんだか様子が変でして……お土産にしては荷物がかなり多かったんです」
カンカンは客の異変に気付き、相談に来たのだ。
「様子が変?」
なんだろう。これって事件の胸騒ぎがする。私はカンカンに促されるままに客が泊まっていた部屋へ入った。
「やられたーっ!」
部屋にあった調度品一式なくなっている。カーテンやらコップなどの食器、ランプ、加えて枕。その直後に今度はランランの声。
「食材が消えている!サユリ、ドロボーよ、ドロボー!」
ランランが声とともに部屋へ入ってきた。そして部屋の様子を見て深く頷く。
「なんてことでしょう……。これって役人に報告するの?そんな事よりも犯人を捕まえてほしいわ」
ランランの言葉は皆の言葉。元居た世界じゃ泥棒は警察の管轄だ。だが、この世界では泥棒は役人の仕事だ。というより警察という概念がない。それだけ社会の仕組みがまだ遅れているということだろう。
まさか宿屋の調度品や食材を盗むとは……。性善説でそんな人はいないと客を信じていた私たちは馬鹿なのか。
騒動の最中、早朝からモンスター狩りへいっていたアルフォードたちが帰ってきた。いつもなら食事を提供するのだが、そんな場合ではないことに気付いてくれたようで、ランランとカンカンがいきさつを話す。
「悪い人はいないって考えを捨てることだね。世の中、自分の欲望のために悪魔を利用する輩だっているからの」
そう言ったのはサニーだ。確かにあのシビック市長は欲望のために死神タナトスを利用しようとして結果的に惨殺されている。
「泣き寝入りしかないの?役人だって報告は受けるものの捕える気なんてないのでしょう」
そうなのだ。逃亡した犯人をどうやって捜して捕えるのか私は聞きたい。警察の捜査力がここにはないのだから。
しかし私たちの困りごとはすぐに解決されることとなる。
「まあ、見てみなされ」
サニーはそう言って杖を振り上げるとことのように唱えた。
「逃亡者を追跡し捕えよ。リプシ・コマティォ」
どうやら犯人を追跡できる魔法があるらしい。何ともありがたい魔法だ。それにしてもこんな魔法もあるんだねえ。
サニーの話では魔法をかけられた犯人は自分の足で帰ってくるという。心配しないでもいいからご飯を食べさせてくれ、と言ってきたが、残念ながら食材を盗まれており、あるものでしか対応できない。全く迷惑な泥棒だよ。
残りもののパンやスープを食べてもらい、あとは庭にある果実を提供するしかない。
私たちは業務へ戻りながら犯人が帰ってくるその時を待った。サニーはかなりの余裕で、ありあわせの食事をいただくと、討伐の疲れからか船をこぎだしている。
「きましたよ……例の客」
ランランが窓の外をみてつぶやく。
バタン!
自動ドアでもないのに玄関ドアが勝手に開く。それとともになだれ込んだ男ひとり。そのまま床へ体が押さえつけられているようだ。ヤバいとかマズいとか言った顔つきで私たちを一瞬見たが、すぐに目をそらした。
「お帰りなさい。私はこの宿屋の経営者サユリ。帰ってこられたことを見ると、もしかして自分の行ったことを詫びに来たのかしら」
私は完璧に相手のことを見通しているという目つきでそいつを見つめ、一笑した。
「あわわ……。かっ勝手に足がこっちへ向かって……。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……ひぃ~」
魔法によって事件現場へ強制的にもどってきた男の名はクラフティス。宿泊台帳にあった名前だ。って本名を書いていたの?泥棒らしからぬ泥棒だね。
そうこうしているうちに役人がやってきた。
「いまなら牢獄という宿屋が一部屋空いているぞ」
ホントかどうか知らないが空き部屋があるそうだ。結構な脅し文句だと思う。
「で、調度品や食材はどうしたの」
手ぶらで帰ってきたクラフティスに尋ねると、苦笑いしながら彼が答える。
「……売った……。特に食材は冒険者パーティーに喜ばれましたんで……はい……」
はああ!売りさばいたんですって?この野郎八つ裂きにしてくれるわ。物価高騰のあおりで食材も値上げしてんのよ。ひどい損害だわ。
思わず彼の服の襟首を引っ張り上げる。ダイエットに成功したけど、洗濯業務で鍛えた腕力は健在だ。
グエエ……。
私につるし上げられたクレフティスは両足を宙に浮かしてバタバタしている。
「働きなさい。お金が欲しくば働きなさい。盗んで楽をしようなんて考えるとこの場で蘇生不可能にしてしまうわよ……」
言ったものの、実はそんなことできるわけない。私は魔法使いではないのだ。
「ひえーっ!もうしません。ごめんなさーい」
怖さもあって泣きじゃくるクラティス。私は気が失せて襟首をもっていた手を離した。
ドサッ!
彼の体が床にたたきつけられる。
「どんなイケメンでもね、経済力と金銭感覚のない男は捨てられるわよ。愛があれば幸せに暮らせるなんて嘘。盗みなんて犯罪で捕まることをやって、怯えながら暮らして楽しいの?気が楽?私たち宿屋パーティーは死神タナトスに会ったけど、あんたみたいな罪人の味は特にうまいって言ってたわよ」
背後でアルフォードとマリスもうんうんと頷いている。でも、最後の一文は嘘。死神タナトスは魂を冥界へ連れていくのが仕事で人を喰わないから。
「タ、タナトス……!死神に会っただと……ひえー」
慌てた様子で後ずさりをするクラティス。あら、いじめすぎたかな(笑)。
「役人さん、このまま彼を預かります。私たちのもとで更生をさせます。働いてお金をもらい、生活できるようにして二度と犯罪を犯せないようにするつもりですがいいですか」
私の言葉に従業員たちが驚いている。だが、賛同者はちゃんといたよ。
「わしもサユリの意見に賛成じゃ。ふふっ……若い男はわしの好みじゃ……」
サニーが目を細めて笑う。何だか不気味だ……まさに魔女の笑みだ。
「ということで、宿屋パーティー兼宿屋一同でクラティスの面倒を見ます。何か問題を起こせば即刻タナトス神を呼びますから」
私がそう言ってクラフティスを見つめると、彼は返す言葉もなく、震える一方だった。
「こやつは、わしが指導してやるわさ」
なんだかサニーが若返った感じだ。
そんなわけで宿屋に新たな使命が与えられることになった。いいじゃない、ボケ防止よ。
最後までお読みいただきありがとうございました。ご意見ご感想突っ込みお待ちしております。
久々の昭和ネタでした。




