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2章8まだ何かいる

妙にやさぐれたちに気に入られてしまったサユリ達。用が済んだからさっさと帰る気でいましたが

、なかなか一筋縄ではいかない様子。

 ダンジョンが怪しいって言っていたアマビエの言葉はあながち間違いではなかった。確かにラミアなる魔物が住み着いており、そしてそのラミアはアマビエよりも高位の魔物だった。それでも互いに相手国が侵略してくると信じて兵士を国境へ派遣しているってどうなのよ。上空から見た限り確かに相当数の兵士たちと駆り出された冒険者たち……とにかく多数の人間が国境付近にいた。互いの国が嗾け(けしか)られている状況をみると、これを利用する存在があるのではないかと討伐に加わった人々と話をした。どうやら両国を争わせて利益を得ようとするものがいるようだ。そいつは誰だろう……。全くもって遊び惚けている女神パイディアに文句言ってやりたい。(信者を守らずして何が神だよ!)


 ダンジョンを出た私たちは思いっ切り外の空気を吸った。うまい……何か知らんけど空気がうまい。暗い洞窟ダンジョンって嫌いだ。アルフォードとマリスは私が魔法のようなものを発動させたことで、私と線引きしてしまっている。それでも嫌ってるとかじゃない。でもね、一番混乱しているのは私だから。

 ミラが言っていた通り、あの力は魔法ではない。魔力があって魔法を使えるなら詠唱を唱えると魔法が発動するが(例外として詠唱を唱えなくても魔法を発動させる人もいるらしい)、私はあれ以降全くだ。そもそも詠唱なんて知らないし魔法の理屈もわからない。だからミラのいう通り、あれは魔法ではなかったのだろう。ただ、なぜミラが加勢できたのかというと、井戸から水を出すか、水道の蛇口から水を出すかの違いだったようだ。つまり手段と力のもとが違うということ。何だかわけわからんちん。セリカは魔法ではないが魔法に似た力をもっていた。それを継承したのだ。ただ、これはいつでも発動できるものでないのであてにできない。

 でもね、おばあちゃんが側にいるようで私の心は温かい。パリンが遠くへ行ってしまってからの穴をふさいでくれる感じだ。

「心配しないで。私はこれからもサユリだから。それよりも目的をサッサと果たしちゃいましょ」

 私がこういったことでアルフォードとマリスも安心したようだ。恐れられてもあてにされてもあの力はセリカの力なので私の力ではないものね。


「さあ、何が起きているか探ろうぜ!っといっても国境付近に兵士を集結させている中へ俺たちが近寄っても釣られてしまうだろう。どこからどう探ればいいのだろう」

 いつしかジムニーとアルフォードは仲間関係を構築したようで肩を並べてやさぐれ冒険者たちをまとめている。そうなのだ。むやみやたらに突っ込んでもミイラ取りがミイラになるだけだ。今わかっているのは女神パイディアの信者である両国の国王とその配下が意識操作されており、それによって多くの兵士と冒険者たちが駆り出されて国境付近に何万もいるということだ。これだけの人々のマインドコントロールをするのは魔物と考えていいだろう。女神パイディアが永らく不在となったところをラミアのように入り込んだ魔物がいるのだ。ラミアもどうやらその仲間だったようだが、セリカの力が発動したことで改心していまは子どもの守護神として生まれ変わっている。

 はっきり言うよ。こんなのは私たち宿屋パーティーが受けるような案件じゃないわ。上級魔法使いや名だたる冒険者たちの仕事だと思う。いくら私たちがレア素材で武器を作ったとはいえ、安全圏で討伐経験を積み上げ来た私たちには無理難題であることに等しい。

 ともあれ、いったん私たちはギルドへ戻り、人々の意見を聞きながら情報をまとめることにした。


 やさぐれ冒険者たちは女神パイディアへの信仰による恩恵よりもお金や名声を欲しがっている。まあ、女神不在で恩恵を受けられるかどうか怪しいのだからしかたがない。こうなっているのも遊び惚けている女神、自業自得だよ。

「この状況で利益を得る者って誰だ?実際に戦争になったら武具屋と鍛冶屋、馬主などが儲かるとは思うが、そんなケチな考えであれだけの人数を動かしているとは思えない。双方の国王も噂を信じて兵を配置しているだけだ。本当は戦争になったら経済損失が少なくないことをわかっていると思うぜ。となるとこの騒動を図ったのは人間じゃないってことだ」

 アルフォードが意見を言うと、そばで聞いていたジムニーがそうだそうだと合いの手を入れる。

「私もそれを思っていたのよ。ラミアはあの胸で男たちを魅了して無力化しようとしていたけど、人々をけしかけている何かは、まるでボードゲームの如く静かにゲームの展開を静観しているのよ。全くもって卑怯としか言えないわ」

 いや、ボードゲームに限らずそいつは将棋をやっている気分だろう。

 私たちが見えない者について話し合っていたとき、黙って話を聞いていたサラマンドラが鳴き声を上げ、首をうねらせた。マリスも突然のことだから驚いていたが、サラマンドラが何か察知したのだろうと静観をした。

「まあまあ、先ずは元気付けでもしませんか。今回はダンジョンを安全なダンジョンへ変えていただいたお礼ということで私がおごりますよ」

 とまあ、凱旋を聞きつけてやってきたシビック市長の太っ腹なお誘い。も、もちろん有難くいくわよ。だってラミア討伐でかなりのエネルギーを消失したもの。

 シビック市長は、兵士だけでなく冒険者まで国境へ駆り出されている状況下で、ギルドの案件がたまりにたまっていたことから日々クレーム対応に困っていた模様。確かに市民の支持率が下がるのは致命的だろう。王政という中で市長は民主的に決められているようだ。


 ギルドへ帰った私たちはたまった案件に目もくれず、もはや居酒屋と化した状態で飲み食いをしている。宿屋の居酒屋と違い、ギルドと居酒屋が一緒になった形態だ。どんな形態であろうと自分の金で食べないってのは遠慮をしつつも美味しくいただく。だが、酒飲みはそんな遠慮すらなく、何杯もお酒のお替りをするのだ。シビック市長、お財布大丈夫?

「皆さん、たまっていた案件のひとつである放置されたダンジョンの探索を行っていただきありがとうございました。あのダンジョンはモンスターが狩りつくされた後そのままであり、素材もドロップしないというただの洞窟迷路にすぎませんでしたが、なにか気配があるとして恐れられていました。探索して原因を突き止める必要がありましたが、主だった冒険者は皆国境へ駆り出されてしまい、どうしたものかと思いあぐねておりました。皆様のおかげでラミアは改心してもはや人間の脅威でなくなりました。本当にありがとうございました」

 私の心配をよそにシビック市長は余裕のある声だ。まあ、人の財布の心配をしても関係ないということか。

 シビック市長のお礼の言葉のあと、冒険者たちは貪るように飲み食いをした。慰労会ってこのことね。

 談笑していたものの、ふと気配を感じた私はギルドの外へ出た。


 

「あんたが怪しいって言っていたダンジョンにはラミアって魔物がいたわ。でも討伐をされてから改心し、もう脅威ではなくなったの。もう怪しいものはないわよね」

 小声で言うとずしりとした重みが腕にかかった。いつしかアマビエは私の腕の中で抱かれていた。

「そうでしたか。私にとってラミアは到底近づけない魔物でした。私は魔物というより妖怪なのでまだ人間に近しい存在です。ラミアは改心したのですね……よかった。ただ、脅威はラミアだけではないんです。双方の国に影響している何か。女神様の留守中に乗っ取ろうとしている何か。これを何とかしないと解決しませんし、いずれは戦争になってしまうでしょう。人の姿をした魔物もいますから要注意です。残念ながら私にはそれが何かわかりません」

 アマビエはそう言いつつ、今度は私の背中へ飛び乗った。うっ……益々重い。絶対太っているわ。

「実はね、アマビエ。私、おばあちゃんにダンジョンで会ったの。おばあちゃんも転生してこの世界へきていた。しかも女傑セリカとしてね」

 私はアマビエにダンジョンで起きたことを話した。血のつながる祖母に会えたことや、ラミアの正体、魔法に似た力を使ったことなど話すとアマビエは身を乗り出して聞いていた。

「サユリがセリカを継承したということなら、それはそれで受け止めたらいいと思います。セリカと一緒いるということでしょう?」

 セリカと一緒にいるというよりおばあちゃんが一緒にいると考えたい。この国へ来る前から何度かおばあちゃんの姿を思い出すことがあったのは、セリカの導きと考えていいだろう。

 私はふと夜空を見上げた。残念ながら雲が広がっており、月と星も見えない。覆いかぶさるかのような雲をみて、なにか恐怖を感じないではいられなかった。

「いったい何が双方の国に噂を流しているのよ。それがわかれば手の打ちようもあるかもしれないのに……」

 わたしの問いにアマビエは答えなかった。アマビエにとって高位の魔物だか何だかは正体を見ることができないものだ。きっと悔しいのだろう。自分より高位のものは見えない、残念ながら神や魔物の階級世界は厳しい。


 ギルド内では相変らず宴会が続いている。それにしても戦争になって喜ぶものは誰だろう。


 ああ眠たくなってきた。どこかで野営をするとしよう。私はアルフォードへその旨を伝えると、マリスやミラも疲れていたようでそのまま宿屋パーティーは野営をすることになった。なぜ野営かって?この町の宿屋がやさぐれた冒険者たちで満室御礼だったからよ。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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