26勝負よ!
時代遅れの海賊の話だけでなく、ここでも酒勝負。なんか同じことをやってる気が……。
思わぬことで酒勝負をすることになったわたし。ところでスクリュードライバーって今でもあるのかなあ。
あのアイリス原石採掘現場のドラゴン討伐は、予定外の巨人が現れたことで私たちは壊滅的な被害を被った。頼みのサラマンドラも固まってしまい、最終的にはケントの魔剣が威力を発揮して巨人を討伐した。ドラゴンは私が命を顧みず、子どもドラゴンを守ろうとしたことで敵意の矛先を巨人に向けたらしい。おかげさまで遥かに力量の違うドラゴンを前にして固まっていたサラマンドラも戦闘に参加した。もっとも、これは私が死んでいた時の話なので私は全く状況を見たわけでない。そんなドラマチックな展開があったのに見ることができなかったのは残念だが、レベル以上の案件に挑んでいたのだから生き返ることができただけでも有難く思わねばならないだろう。俗称闇雲虫とやらにやられて無鉄砲な行動ばかり起こし、リーダーのナギサに迷惑をかけて条件付き追放とされていたケントは、アマビエが闇雲虫とやらを退治してくれ、まともになった。このことでケントの無鉄砲が魔剣に振り回されているのではないと知った。そんなこともあるんだね……。あのクトニオスの魔剣とやらの威力はすさまじいものだったそうな。ああ、まともなケントの活躍を見たかったな……。
そんなこんなで私は宿屋業務に専念し、アルフォードたちは弱小モンスター狩り生活へもどっていった。ギルドになぜレベルを落とすのか、とさんざん言われたが、アルフォードはもうすこし経験と技量を積んでいかないと、回復魔法を使う者がいないままでは潰れると正直に話した。まあ、これで分かってもらえたかどうかは知らないが、回復魔法はおろか蘇生魔法を使う者がいないのは確かなのだ。ただ、それを言ったときのギルドのお姉さんのパリンを見る目付きを忘れない。……あとでひっぱたいてやる。
アイリス原石採掘の王令が出たことで採掘が国の事業となり、町はかなり賑わいを見せている。人手が集まればそこに消費が生まれる。労働者たちを当て込んで寝るだけの宿泊所もできた。宿泊施設の内容が違うので競争相手とみるのはおかしいが、それでも互いに意識しあっている。
「いいじゃないの、こちらは朝食と洗濯・掃除を提供するだけでなく別棟に居酒屋があるし。サービスで差をつけるしかないわ」
そうはいったものの、やはり安い方がいいに決まっている。今のところ宿泊業の売り上げより居酒屋の売り上げがいいのは確かだ。ケントはいなくなったが、リンリン・ランラン・カンカンの働きは非常によく、大事なスタッフとなっている。
「あの……なんとか形だけでも簡易宿泊所を作った方がいいですか」
私とアルフォードが業務履歴をみながら話している側へパリンがやってこう言った。
「人手もいないんだし作らなくてもいいわよ。心配してくれてありがとうね」
あの討伐での出来事以来、パリンは自分の存在感を失うことを恐れているかのように自分の魔法の勉強よりも何か私たちの力になろうとしている。きっと焦りがあるのだろうと思うのだが、こんなときアドバイスをどうしたらいいのだろう。子どもの進学にあたって進路の先生と話をしたが、結局は子ども自身が進路を決めた。蘇生魔法はおろか回復魔法を使えないことでパリンが苦しんでいるのが見て取れる。私はそんなパリンを否定せず、迎えることしかできないのだ。
その日、宿屋業務の過酷な労働である洗濯業務に勤しんでいた私に来客の知らせが入る。客といっても私に用があるという客だ。あら、私この世界に親戚知人いないわよ。不思議に思いながら宿屋のフロントへいくと……あの女が立っている。以前一緒に凶暴化したスライムを倒したシーマパーティーの魔法使いシルビアだ。しかもその隣にはこれまたグラマラスな女性がいる。何ごとかとアルフォードたちもやってきた。
「パリンを出しなさい。私たちはパリンに用があるの」
挨拶もそこそこにいきなり本題を言ってきたシルビア。慌ててリンリンがパリンを呼びにいく。何だろう……いやな感じがする。
リンリンの様子にパリンも何かを感じ取ったのか、走ってやってきた。
「……久しぶりね、パリン。私はあなたを迎えに来たの。ギルドからアイリス原石採掘現場の活躍もきいたわ。……もうわかるわよね。……パリン、上級魔法学校へ入りなさい。書類一式用意したからね」
シルビアの言葉に私は思わず動揺してしまう。
「そんな、そんな勝手なことを言わないでよ。パリンのことはパリンに決めさせて。採掘現場で起きたことは事故よ。私は気にしていない。だから勝手にパリンを連れて行かないで!」
私は思わず本音を言った。
「まだ気が付かないの?あんたがパリンの壁になっているのよ。そうやっていつまでパリンを囲っている気?伸びしろがあるパリンを今学校へ入れなければ、精々中級程度の魔法しか使えないで終わってしまう。パリンのことを心配するならこのまま潰れることを心配なさい」
自分より年下のシルビアに激しい口調で言われて返す言葉もない私。だってもっともなことを言っているのだ。パリンのことを心配しているふりをして手元に置きたい自分もいた。だから強くパリンに将来のことを言わなかった。
「人生のキャリアを積んだあんたならわかると思う。私の隣にいるのはグロリア。私の先輩で上級魔法学校の教師のひとりよ。グロリアにパリンのことを話したらぜひとも学ばせるべきだって。どうでもいい子ならこんなことは言わないもの。私が認めたパリンだから言うんだよ」
そういうシルビアの横から進み出たグロリアはパリンの顔を見つめて語り掛ける。
「……パリン、回復魔法や蘇生魔法を使えないままでいいの?攻撃魔法を使えないままでいいの?魔法は学べば学ぶほど奥が深いし、まだ研究の余地もある。あんたはイモリをサラマンドラに変えた。これも才能の内だと気が付いていないの?宿屋パーティーもパリンが魔法を極めることをきっと望んでいる。宿屋パーティーの為にも学校へ来なさい。学費のことはサユリが出してくれるはずだし、成績が良ければ無償で学ぶこともできるから」
グロリアの言葉にパリンはボロボロ涙をこぼしている。痛いところを突かれたってことだろう。そう、私も同じ気持ちなのだ。
「……魔法学校へ入学しなさい。パリン、学費のことは気にしなくていい。これは母親の役目だから」
私はそういうのがやっとだ。私がこう答えたことでシルビアの口調も柔らかくなる。
「パリンはこれでもっと成長するわよ。サユリが母親で良かったと思うくらいにね」
そう言って勝気なシルビアは私の肩を叩く。
「明日、ダンジョンへパリンを連れていくわ。刺激を与えた方がやる気でるから。だから今日はここへ泊ることにする。あんたと勝負するためにね」
え?勝負だって?
「魔法を使えない私と勝負だなんてどういう気なのよ」
普通の人間と魔法使いが勝負だなんて馬鹿げている。だが、シルビアの考えは魔法での勝負ではなかった。
「スクリュードライバーで勝負しましょう」
だと。前回、シルビアは私が嫌がらせで作ったスクリュードライバーというアルコール濃度の高い酒を飲んで泥酔した。醜態をさらしたことを根に持っているのか。いやあ、女は怖い。
「……いいわよ。酒で勝負ってなら魔法関係ないからね。勝っても負けても文句なし」
半ば私はやけくそだった。スクリュードライバーはディスコで踊りまくっていた頃、泥酔しない程度に飲んだことがある。泥酔なんて後に夫となるアッシー君に見られたくなかったから。でもこの世界に夫はいない。それに……若いわけじゃないから醜態をさらそうがおばさんだし。
人生諦めているのかって?違う、そうじゃない。誰だって羽目を外したくなる時ってあるでしょう。それ、それよ。
昼過ぎにはシルビアのパーティーメンバーが揃って宿泊の手続きをし、翌日のダンジョン探索に備えることとなった。今回はシルビアに加えて上級魔法学校の教師グロリアもいる。この探索には同じくシーマたちから刺激を受けるべく私たち宿屋パーティーも加わることとなった。
なんだかんだで夜を迎え、シフトを交代した私は居酒屋でシルビアと席につく。周りの男たちが心配そうに見ている。そりゃあね、女同士、飲んで勝負なんて珍しいでしょうから。って見世物じゃないわよ。
「スクリュードライバーってあんたが作ったメニューなんだって?悔しいけど美味しいわ」
そう言って1杯目を飲み干すシルビア。
げっ!こんな速さで飲むの?
「私が転生前にいた世界で若い子が飲んでいた酒よ。私が作ったんじゃない。……あぶない酒よ」
私も1杯目を飲み干す。うん、口当たりがいい。これに騙されるのだ。それがわかっていてもつい次を注文するのが怖いところだ。
シルビアはリンリン、ランラン、カンカンに酒のお替りだけでなくつまみも注文する。それも一度に何杯ものスクリュードライバーを注文しテーブルに並べた。
「逃げようったって逃がさないからね」
この女、本気で勝負を挑んでいる。ならば私も本気だ。
「酒で勝負だなんて馬鹿げていると思うわ」
そう言いつつも売られた喧嘩は買うというじゃないか。スクリュードライバーがレディーキラーと呼ばれているほど女性には危険な酒だということを知っているからこそ慎重にやろうと思っていた。だが……。
シルビアは前回の比べ物にならないほどペースが速い。魔法じゃないよね。シルビアに負けじと私も同じ数の酒を飲む。
ぐいっぐいっ!
酒ってホントは勝負するものじゃなっくて楽しみながら酔っていくものだよ。時間をかけてね。
ぐいっぐびびび。
ああ、頭がくらくら。私何杯飲んだだろうか。
「……シルビアさーん……いまぁ……何杯飲んだのれすかぁ……」
目の前にいるシルビアへ必死で呼びかける。ああ、考えがまとまらない。
「ふっ……。あれからぁ……私は酒に強くなるよう……鍛えた……んだよ……。おとなしくパリンを渡せぇ……」
シルビアが何だかほざいている。
「なんれすってぇ……」
そう言って立ち上がろうとしたが、足に力が入らない。あれれ……。
ずっでーん!
そのまま倒れ込んでしまった私。もう気分は宇宙遊泳。いや……神か天使だ。
「アハハ……サユリの負けぇ。……わらひの勝ちぃ……」
どたんという音が聞こえた。シルビア倒れた?いやどうでもいい。
気持ちよく酔っていたがそこへ滝のような悪心が襲ってきた。
ダメ……吐く……。
周りがバタついている声が聞こえる。シルビアも同じなのか。
その後のことは全く記憶がない。いつの間にか私は朝を迎えていた。
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