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25アイリスの輝き③

ここであったが百年目!プリムス、覚悟しろ!って違うの?あれれ……。

ケントの素性も明らかに。ここでケントの名をどこかで見たというあなた、きっと私の別作品をご存じなのですね。

「サユリ!死んじゃいやだ。サユリ、どうしたら回復できるの……どうしたら……」

 パリンの泣き声だけが真っ暗な視界に響く。

 詳しく言ってやりたいが、もう言葉を発するのもしんどい。


「……流血……止め……傷口ふさ……いで……それか……ら……」

 考えるのもしんどい。意識が朦朧としているのがわかる。パリンが何やら呟いている声が聞こえる。きっと必死に魔法を使おうとしているのだろうけど、その声すら聞き取れなくなってきた。


 さようなら……私の異世界転生……。


 短い間の異世界生活だったが、こんなにあっけなく死ぬんだな。

 私は宇宙遊泳をしている気分。考えるのもめんどくさい。

 

 あれ……なんだか目の前に光が……誰かいるわ……。

 そんな私の目に光が見える。視覚が回復したのかな。


 

 今更何があるのだろうと凝視したら、なんと一番私が殴りたい相手だった。

「プリムス!」

 忘れもしない、あの花粉症神プリムスだ。

 ああっ!なんだか急に元気出たわ。こいつのおかげで私は、私は、私は……。悔しい気持ちが湧きあがる。

「お帰りと言ったらよろしいでしょうかな、サオリ。異世界生活を楽しまれましたか。なんだかえらく早いお帰りなので驚きました」

 などと相変らず、憎たらしいことを言う。

「私はサオリじゃないわ。サユリよ。その減らず口を言えないようにしてやるわ!」

 私は握りこぶしに力を籠め、思いっ切り手を引く。おばさんパンチをしてやる。気分は鳥山明先生の漫画にあったアレだ。そうでもしなければ死ぬに死ねない。

「この花粉症神……」

 そう私が叫んだ時だった。突然、私の体が急激に後方へ吸い込まれていくではないか。

 

「きゃーっ!」

 

「どうやら、あなたは死ぬことを拒まれたようですね。せっかく会えたのにいきなりの別れとは誠に残念です。では、またお会いしましょう」

 花粉症神は私の身に何が起きているか、さも気にしないかのように憎まれ口をたたく。

 

 わけがわからないまま、だんだんプリムスの姿が小さくなっていく。えーっ!いったい何が起きているのよ。


 掃除機に吸い込まれるゴミの如く、後方へ吸い込まれた私。体がほてってくる。何やら人の声がする。何かが体に触れている触感がある。


「……ユリ、……サユリ……サユリ!」

 あれ、パリンの声だ。他にもいろんな人の声がする。

 うっすら目を開けると私を見守るかのようにパーティーの面々が顔を覗き込んでいた。

「良かった、助かった……」

 パリンだけでなくアルフォードも泣いている。

「……アルフォード、ケガ大丈夫?」

 そうだ、アルフォードもケガをしていたはず。私は大ケガをして動けなくなった彼の体を必死に引きずって守ろうとしていた。そしてドラゴンの赤ちゃんを捕食しようとする巨人に思わず向かっていき返り討ちにあったのだ。……もしかして私、生き返ったの?

「おまえのおかげで助かったよ。ありがとうな、サユリ」

 アルフォードは屈強な体に似合わないような涙でいっぱいの表情だ。


「……まさかパリンが回復蘇生魔法を?」

 そうなのだ。パリンは回復魔法や蘇生魔法を習得していないはず。だが、その疑問はすぐに解決された。

 パリンの後方から現れた人たち。パリンと同世代ぐらいの男の子と女の子。そしてその脇では抱き合っている男女。……あれ、ケント?

「この人たちが助けてくれたんです。僕が魔法をうまく使えずに混乱しているときにここへ来てくれました。サユリ、アルフォード……今回も僕は仲間を救うことができなかった……許してください……」

 そう言って大粒の涙をぼろぼろこぼすパリン。ああ、でもね、こんなときだからこそ責めちゃだめよ。母親ってのは子どもをかばうものだから。

 私はおきあがると思いっ切りパリンを抱き締めた。愛しい……こんな感情は久しぶりだ。

「ばかね……あんたが一生懸命私を回復させようとしたのを知っているわよ。泣かないで、パリン」

 そう言って泣き虫パリンをなだめる。きっとこれまでの後悔が渦になって苦しめているのだろう。

「彼はあなたを回復させようと必死でした。私たちが来たときには、あなたの言葉が途中で終わってしまい、すでに回復魔法では無理な程のレベルになっていました。三途の川がこの世界にあるかどうか知りませんが、そこを渡ってしまうと蘇生もできません。パリンの思いがあなたを呼び止めたのではないでしょうか。本当に蘇生できてよかったです」

 そう言ったのはパリンと同年代の女の子だ。どうやらこの女の子が上級魔法を使って蘇生してくれたらしい。

 その後、ケントと熱い抱擁をしていた長い髪の女性が状況を話したのである。


 実は私たちを助けたこのパーティーはケントが所属しているパーティーだという。ケントの放蕩ぶりに困惑して条件付きの追放をしていたパーティーだ。ケントの活躍や居酒屋での働きを風の噂で聞きつけ、詳細を確かめるためこの町まで来たのだが、ケントを含む宿屋パーティーが討伐案件のため山へ入ったと聞いて慌てて追いかけてきたらしいのだ。


 いやはやなんとも……。


 ともあれ、私たちは見事に案件を達成した。今回もケントの力に頼ってしまい、しかも回復・蘇生魔法も他者に頼ってしまった。

 本当にレベル下げをしたい……。これ、マジな話だ。そもそもチートに無縁の私たちは上級者向けの案件なんて無理である。空飛ぶB29(知らない人は年寄りに聞いてみよう)めがけて竹槍投げるような時代じゃないので頼れるのは自分の力だけだ。サラマンドラだって今回はドラゴンを前に固まってしまった。それはアラビアンナイトでランプの精と指輪の精では力の差があるのと同じだ。サラマンドラに可哀そうなことをしてしまった。

 そう思っていた……。


 えーっ!?どうしてこうなるの?


 ふとサラマンドラに目をやると、何とドラゴンの子どもと遊んでいるではないか。というよりじゃれあっている。まるで猫のじゃれあいだ。

「ドラゴンはサラマンドラの容姿に警戒をしていましたが、ルーツが似ていることで逆に親近感を持ったようです。そのこともあって母親ドラゴンは僕たちへの攻撃をやめました。サラマンドラに友達ができて良かったと思いますよ」

 ようやく泣き止んだパリンもサラマンドラの元気そうな様子に嬉しそうだ。

 ともかく私は無事にこの世界へ戻ってきた。あの花粉症神をぶん殴りたかったが、まあ、それは死んだときの楽しみにとっておこう。


 まだだるさが残っているが、ゆっくりと立ち上がると抱擁したままのケントとリーダーにお礼を言った。

「助けてくださってありがとうございます。ケントは私たちの為にいろいろ力を貸してくれました。最初はこちらも対応に困ることがありましたが、今はもう立派な上級冒険者です。ケントをお返しします。ケント、今までおばさんとしてきつい言葉で言ったこともあるけど、ちゃんと受け入れてくれたわね。ありがとう」

 そう言うとケントはまんざらでもないという顔をした。褒められるのは誰だって嬉しいもの。

「こちらこそ、ケントの頭に入っていた虫を取り除いてくれてありがとう。私がどうやってもこの闇雲虫を追い出すことができなかったけど、いつの間にか追い出すことができたんですね。おかげで元のケントに戻ってくれて嬉しいです」

 ナギサというケントと恋仲のリーダーの話によると、ある日ケントの様子が急変し、以来、前後の見境なく行動を起こしてはパーティーに迷惑をかけたりしりぬぐいをさせたりしたらしい。そういえばいつの間にかケントは落ち着きを取り戻して自分の力を発揮している。それはこれまでの人とのかかわりで身につけたものと考えていたが……どうやらそれだけではないようだ。


 背後に気配を感じる。ああ……わかった。

「ケントの闇雲虫とやらを退治したのはあんたでしょ?」

 小声でつぶやくと例の声が脳に響いた。

「サユリが困っていたようなのでウイルスついでに退治しました」

 アマビエが善意か暇つぶしかは知らないけどケントを助けてくれたらしい。かわいいところあるじゃないの。

「今回の討伐では、ケントがクトニオスの魔剣で巨人を一撃で倒したらしいけど、そんなに威力のある剣だったなんて知らなかったわ。いつも子供みたいに剣を振り回せていたからね。私が死んでいた間だから今となっては後悔しても遅いと思うけど」

 そうなのだ。ケントの魔剣は本当に魔剣だったらしい。子どものチャンバラのおもちゃみたいに思っていた私は、その威力を見られなかったことを後悔するばかりだ。

「あの魔剣の威力は、傷を負った俺の目に力強く何かを伝えようとしていた。何たって剣を発動させた瞬間、剣が明るく輝き始め、爆音とともに巨人を一撃で倒したんだ。巨人の体は一撃でぼろぼろに崩れ去った。俺はこの光景を棺桶までもっていくぜ。それほどの威力だったんだ」

 アルフォードはケントの魔剣の様子を自慢げに話してくれた。……そう、よかったわね。私は生きるか、死ぬかだったのにね。まさにシェークスピアのハムレットのつぶやきよ。

 


 その後ケントは居酒屋で最後の勤務を終え、翌日多くの取り巻きに見送られて帰っていった。

 後から聞いた話だが、彼らは転生者ではなく全員異世界召喚者だということだった。転生者と召喚者が共存しているなんて不思議な異世界だ。ということは、いつかは元の世界へ帰っていくということだ。でも転生者には帰る場がない。ここが自分たちの生きる場所、死ぬ場所だからだ。これからもこの世界の住人として生きていく。転生した目的なんて人それぞれ。私の目標はしたたかに生き抜くことで他ならない。


 宿屋はあれからまた繁盛しだした。例のアイリス原石の脅威がなくなったことで採掘に本腰をあげることとなったのである。ドラゴンはというと子どもドラゴンが巣立ったことで巣がいらなくなり、ドラゴンという脅威はなくなった。巨人も討伐されてもういない。当然食われる心配もない。アイリス原石の採掘は国王陛下の命令だ。国を豊かにするための布石でもある。


 私たちは様々な輝きを見つけたが、それはアイリスと同等のものかも知れない。

最後までお読みいただきありがとうございました。ご意見ご感想突っ込みお待ちしております。

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