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27涙がとまらない

出会いがあれば別れがある。わかっちゃいるけどいざその時が来たら動揺してしまう。涙がとまらない。いっぱい泣いて泣いて自分を見つめなおす。

 私がやけくそで引き受けたスクリュードライバー勝負はシルビアに負けてしまった。日頃業務のこともあって酒を飲むことが少ない私はすっかり酒が弱くなっていた。しかも昨日気持ち悪くなってからの記憶がない。気が付くと私はベッドに寝かされていた。そうだ、あの時のシルビアのように。誰かがここまで私を運んでくれただろうが、なんだか知らんけど着替えもしていることから……来ていた服を脱がせた?……ああ、恥ずかしい。

「よう、目が覚めたか。フロントは若い子に任せてるから心配すんなよ」

 そう言って水をもって部屋へ入ってきたのはアルフォードだ。何だか知らんけどちょっと視線をそらしている。

 水をコップに入れては何杯か飲み干す私はアルフォードの視線が痛い。

「……ごめん……酒勝負、負けると思っていたけど受けちゃった……。アルフォードがここまで運んでくれたの?もしかして着替えも……?」

 そう言っただけで顔がほてってくる。ほんとに恥ずかしい。

「着替えさせたのはリンリンとランランだよ。心配すんな……。それよりも今日動くことはできそうか。シーマのパーティーの目的は新たに見つかったダンジョン制覇だ。シーマはいつまでも弱小モンスター相手の俺たちに刺激を受けろ、って。まあ、メインはパリンに魔法習得の向上心を芽生えさせたいシルビアとグロリアの意向だがな。俺とマリスは行くことにしたぜ。その……いつまでも今の状態じゃ男として情けねえからな」

 アルフォードはようやく私に視線を合わせた。何だろう……この視線、返答に困る。

「行くわよ……。っていっても私の戦闘服はあのときの討伐で血まみれになっていたから着ることはできないけど、代わりの服を着ていくわ」

 そう言ってなんとかベッドから立ち上がったが、そのままふらっとアルフォードに倒れ掛かってしまう。

「ご、ごめん。もう大丈夫。……パリンの姿を瞼に焼き付けておくから。何かあったら私を支えてくれる?」

 ああ、ほんとに情けないし恥ずかしい。これって同世代のアルフォードだから頼ってしまうんだろうな。

「ほかならぬサユリの為だ。いくらでも支えてやるよ」

 アルフォードはそう言って私を抱き締めてくれた。


 心臓がどきどきする。パリンのときとはまた違う思いだ。アルフォードだから言えることがあり、アルフォードだからわかってくれることもあった。


 アルフォードだから……。


 ふと夫の姿を思い出そうにもなんだか思い出せない。自分からプロポーズするほど素敵な夫だったのに……なんでだろう。いつのまにかアルフォードの顔に上書きされている。

 悲しいけどそんな気持ちよりも今のアルフォードへの思いが強い。私はアルフォードに恋しちゃったかも。

 乙女サユリは大人のプラトニックにおちた。恥ずかしいけどいいじゃないの……。


 

 ダンジョン制覇といってもシルビアたちのように全層巡るわけでなく、私とアルフォード、マリスは途中から抜けることにしている。森の弱小モンスター討伐とはレベルだけでなく目的も違う。だからこれまでソロ活動をしていたアルフォードとマリスはダンジョンへ行くことはなかった。パーティーでないと圧倒的に不利なダンジョン制覇は彼らの目的ではなかったのだ。

 パリンのことが心配だけど、ふたりの上級魔法使いがいるならどうこう言えるものではない。……寂しい。

 

 シーマたちに続きダンジョンへ向かう私たちを町の人々は不思議そうに見ていた。そりゃそうよ。あり得ないことだからね。魔剣持ちのケントが元のパーティーへ戻っていったことは既に知れ渡っており、攻撃力が激減している私たちがダンジョンへ向かうって何の用?って感じだもの。

 ダンジョンのモンスターは経験のない私たちにとって見たこともないようなものだった。牛だか人間だかわからないようなものもいる。まるで昔の特撮変身ドラマだ。

 シーマたちがそれぞれの階層のモンスターを倒す中で私たちは精々援護する程度。ごく普通の量産型の剣でアルフォードとマリスが援護をし、私は例の包丁を振り回してはブスブスやるくらい。とにかく仕留めるのに時間と労力がかかる。森のモンスターとはやはり違う。

「おい、お前たちこんなことじゃいつまでも森のモンスター狩りで終わってしまうぞ。宿屋のお遊びで終わりたいなら話は別だがな」

 そう言ってシーマは私たちを一瞥すると他のメンバーとともにモンスターの急所を切りつけた。叫び声をあげるモンスターに魔法攻撃が加わる。ふたりの上級魔法使いが行う魔法攻撃に比べるとパリンの魔法は本当にお遊びかと思えるほどだ。(よくそんな状況で嘘をついてクオーレとやらのパーティーにいたもんだ)


「万雷の光よ、咆哮をもちて闇を照らし悪を消滅せよ!フォルゴール・ボルト」

「業火よ集え、イグニス・アールデー!」


 ふたりの上級魔法使いの声がこだますると、たちまちまばゆい光と轟音があたりを包み、モンスターの最期の咆哮が響きわたった。ふたりの間でパリンは目を見開き、その技を目に焼き付けている。いい刺激だろう。


 グォーッツ!

 

 雷と火の魔法を受けてモンスターが消滅していく。うわーっ!は、初めて本気の魔法見せていただきました。何たってサラマンドラの火焔攻撃がろうそくに思えるほどなのだ。アルフォードとマリスも今までの自分たちの討伐は幼児の遊びだと思えるほどショックを受けている。いや、固まっている。

 わかっている。これがレベル差というものだ。

「お前たち、レベル上げに挑戦するんだ。パリンだってお前たちの為にも何とかしたいと思っているんだぞ」

 そう言ったシーマは既にモンスター弱体化に一役買っている。そもそも彼らの武器は魔剣ではないがレアな素材で作ったものなのだ。昭和のロボットアニメ感覚でいえば超合金ってやつか。

「魔法を使えない俺たちは良い素材で作られた武器を使う。いいか、これはチート武器じゃない。自分の足りない部分を補う武器なんだ。だから俺たちは惜しみなく投資する。自分を磨くために必要なんだ。アルフォード、お前もリーダーならそれがわかるだろう?」

 モンスターが消滅した後に残された鉱石を集めるとシーマはいくらかアルフォードに手渡した。

「今回のダンジョン目的はお前たちに刺激を与えることだ。この鉱石は武器素材に使うことができる。これでいい武器を作り、より高みを目指せよ。パリンがお前たちのパーティーに戻ってきたときの為にお前たちもレベル上げを目指せ」

 そうシーマに言われてアルフォードは思わず頭を天井に向けて宙を見つめた。


 わかる……アルフォードの気持ち。年季の入った私たちはシーマの言わんとすることを理解している。

「アルフォード、もしかしたら私があんたとマリスの足を引っ張っていたかも知れない。ごめん……」

 アルフォードの手を取り、今まで宿屋従業員として縛り付けていたのではと謝る。

 弱小モンスター討伐だけでは食べていけないので宿屋の従業員として働いてもらっていた。これでいいと思っていた。だけど、それではすぐにクリアできる案件ばかりとなり、レベル上げにつながらないのが実情だった。

「いや、そう思わないでくれ……。どこかで俺は楽な方に流されていたんだ。魔剣持ちはいないが、俺とマリスも精進してケントのように活躍できるよう頑張るよ」

 マリスも同じ思いだったんだろう。アルフォードの側へきては彼の肩を叩いた。


「俺たちは2度目のメタモルフォーゼをする。パリンが帰ったとき、恥ずかしくないようにな」


 アルフォードの言葉に頷くばかり。ケントがいなくなったことで必要に迫られての体制替えだ。

 そしてこの様子を見ていたパリンが側へきてこう言った。


「僕も自分の殻から抜け出せませんでしたが、ようやくふっきれました。みんなに負けないよう、学校でしっかり学んできます。サラマンドラをパーティーへ残します。サラマンドラはマリスが命を助けたイモリです。僕がいない間、マリスが面倒を見ますよね?」

 いつも自信のない表情をしていたパリンだったけど目の前のパリンはどこか違う。回復魔法を使えないことで仲間を失ったことがいつまでも彼の心を小さくし、また同じことをしたらという恐怖さえ生み出していた。きっかけとなったのは先日私が死にかけたということだろう。ケントの仲間が蘇生してくれなかったら私は本当に死んでいた。花粉症神をぶん殴ってやれなかったのは悔しいが、再びパリンに仲間の死を見せなくてよかった。

「気にかけてくれてありがとうよ。サラマンドラを立派に育てて見せるぜ」

 マリスがそう言うと、サラマンドラも理解したのかパリンの肩から飛び立ち、マリスの方へ移っていく。


 私はそんなパリンを黙って笑顔で返すしかない。何か話さなきゃと思うけど言葉が出ない。


「残念だが俺たちはここで失礼するよ。ここから下の階層は俺たちには手がでない。待ってろ……俺たちもレベル上げをして弱小モンスター専門という肩書を捨ててやるからな。パリン、魔法が何たるかしっかり見ておくんだぞ」

 アルフォードが言うとパリンは黙って頷いた。


 

 下の階層へ向かう彼らを見送る。やがて姿が見えなくなると急にせつなくなってきた。何だろう……こんな寂しさを過去にも経験したわ。

 

 そうだ、あれは大学進学で一人暮らしをすることになった子どもを見送ったときのことだ。アパートで一人暮らしの準備を終え、暮らしに困らないように数日の食料を買いこんでいよいよ車で帰ろうとしたときのことだ。

 

 しばらく会えない。それまでずっとそばにいた子どもと会えなくなってしまう。例えスマホがあるとしても物理的に会えない。つながっているとはわかっているものの、寂しさが一気に襲って夫の運転する車の中で泣いたっけ。


「アルフォード、ごめん。肩を貸して」

 我慢できず私はアルフォードの肩にもたれかかり、締め付けられる気持ちを静めようとする。だけどそれができないほど想いが溢れてきた。


「パリン……パリン……」

 涙がとめどもなく流れる。若がえりに失敗したまま異世界へ放り込まれて途方に暮れていた私に声をかけてくれたのは外ならぬパリンだ。人の痛みを知るパリンは優しくてどこか優柔不断でもあった。私にとって家族といって良かった。


 涙がとまらない。寂しいけど、パリンは立派な魔法使いとして成長して帰ってくるだろう。

 涙がとまらない。これは進化と成長の別れだ。


 涙がとまらない……。


 ありがとう……パリン。

最後までお読みいただきありがとうございました。ご意見ご感想突っ込みお待ちしております。

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