新しいテキスト 02
目を覚ますと白い天井が視界に入ってきました。
えっと、ここはどこなんでしょうか。
きょろきょろと周りも見回してみると昨日のことを思い出しました。
そうです、確か僕は新しいところに連れてこられたんでした。
僕が目を覚ますとすぐに、田中さんと、ピンクの洋服を着たリーファンさんという人がやってきました。
また、昨日と同じようなことを聞かれました。
―痛いところはないかい?
―なにか思い出したことはないかな
―なにかほしいものとかやりたいこととかある?
また僕はそのどれにもこたえることはできませんでした。
田中さんからの質問の後、リーファンさんい連れられて僕は外を散歩することになりました。
木々に囲まれていて、とてもすがすがしい空気です。
朝露に濡れた葉っぱを見て、とてもきれいだなと思いました。
お空を見上げるとそこには真っ赤な太陽と白い雲が浮かんでいてじっとそれを見ていると目がちかちかしてきました。
僕がずっと太陽を見ていることに気が付いて、なぜかリーファンさんが慌てて僕の目を覆いました。
彼女の手に覆われていても僕の目の中には太陽が浮かんでいてとても面白かったです。
そのあとすぐ、お散歩は中止になってまた部屋の中に連れ戻されることになってしまいました。
また知らない白い洋服を着たおじさんがやってきて僕の目を変な道具みたいなので覗き込んできました。
「太陽はじっと見たらだめだよ?」
そう、あとからリーファンさんからいわれました。
なんで?
そう聞くとリーファンさんは
「お目めが痛かったでしょ。たいへんなことになるんだからね?」
と言いました。
痛い、ということがよくわからなかったけど、約束、と言われたので僕は約束を守ることにしました。
だって、約束は守らなくちゃいけないものですから。
そのあとはまた、昨日と同じような感じでした。
時折白い洋服を着たおじさんとかピンク色洋服を着た人とかがやってきて何かを調べられたり、尋ねられたり、お話したり。
お日様が真っ赤に燃え上がってくるころにはもう眠くなってしまいました。
なので僕はそのことをちょうど一緒にいたリーファンさんにいうと、
「おやすみなさい」
といって、布団をかぶせてもらいました。
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私はあの、助けた子供のことが気になってその日のうちにもう一度顔を出しに行こうと思っていたのだが、教会の件が案外根深いもののようでその後処理に追われて、病院に行けたのは次の日の夜のことだった。
もちろんその子は眠っていて、その場は寝顔を眺めるだけにしておいた。
主治医の田中さんのところにも顔を出すことにした。
彼ならばこの時間帯でも起きているはずだし。
「どうも、こんばんわ」
「あ、あぁ、篠田さんじゃありませんか」
やはりというかなんというか、彼はこんな時間でも起きていた。
「あの子どものことですね」
「えぇそうです」
一日目は何も言わずにいきなり担ぎ込んでしまって悪かった、そう謝罪すると彼はそんなこと構わないと言ってくれた。
「でも、あの子いったいどんな地獄で過ごしてきたんでしょうかね…」
私が彼を発見したときその体にはいくつもの傷がつけられていた。
あの男たちは性欲だけでなくほかの、汚い心のはけ口にもしていたのだ。
肌にはいくつものやけどの跡があり、裂傷、切り傷、何かを埋め込まれそしてほじくり出された痕。
まるで一通りすべての拷問を受けたかのような傷跡があの小さい体のいたるところにつけられていたのだ。
不幸中の幸いというか、それこそ不幸なことかもしれないが、彼は性欲のはけ口にも使われていたからか、顔にある傷は比較的軽いものばかりだった。
体の傷は服で隠せるが顔はそうはいかない。
そう考えればまだ救いがある。
それにまだ彼は子供だ。
心の傷も体の傷も大人に比べ回復は早く、強いはずだ。
「あの傷から見れように相当の痛みがあったんでしょうね。
…そのせいか、あの子はどうも痛みを感じなくなっているようで」
太陽を長時間直視しいたり、痛覚に異常があるらしい。
あの傷跡だ、さもありなん。
むしろ、痛みを感じなくなったからこそ今まで生きれこれたかもしれないんだ。
とりあえず、今は生きていることを喜んでやるべきだ。
「それに、記憶喪失の症状も見られます」
記憶、喪失…
もうここまで来たら何にも驚かない。
それほどひどい地獄、だったのだから。
「一般に記憶喪失といっても、少し彼に関しては不可解なことがありまして…」
「不可解なこと?」
記憶を失うことそれ自体はある意味幸せなことではないのだろうか。
あんなこと、忘れてしまったほうがずっと幸せだとしか思えない。
「その、彼が失っている記憶というものがあのことに関することではなく、それより前のことに関することなんです
一般に、記憶を失うほどのショックがあった場合、その人はその出来事の前後、もしくはかなり前までも出って記憶を失うことになります
しかしそれが彼の場合、この事件のことに関してはほとんどといっていいほど覚えているんです。
忘れているのは自分が誰なのか、ということに関してのみ。
日常生活を送ることに関しては、多少の問題は起こすかもしれませんが、それほど大きな支障があるほどではありません。
…でも、だから不可解なんです。
記憶に関してだけではありません。
あの子の体に合った傷、そのほとんどは今回のことで突いたものでしょうが、それよりも前、それこそ生まれたころにつけられたと思われる傷もいくつもあったんです」
それは、なんといっていいだろうか。
地獄を切り抜け、これから新しい生活、もしかしたら生みの親、もしくは育ての親とで再開できるかもしれない、そう思っていたのに。
記憶を失っていたのがこの事件よりも前に関すること、それはすなわちそれ以上の地獄を味わっていた、ということだろう。
それは、あまりにもひどいことではないか。
子どもは笑っていなくちゃいけない。
私もまた、孤児院で育った。
親の顔なんて見たこともないし、見たいとも思わない。
しかし、先生たちにとても深い愛情を受けて育ち、こうしてまっとうな職業にも就くことができた。
「…それで、彼に関することなんですけれど、傷や記憶に関してもそうですけど、もう一つ大きな問題があります」
「…それはわかっている」
お金の問題だ。
病院にいるのだってただではない。
あの子の傷はひどいもので応急措置に使われた高価な薬剤。
安静を保つためにもつかわれる、これまた大量の薬に包帯。
ベットの値段だってただじゃない。
「たいへん醜いことですが、この世は善意だけでは回っていけないんです。お金が…」
「わかっているといっただろうが!!」
田中さんだって悪い人じゃないのはわかっている。
彼だって、彼の生活が懸かっているのもわかっている。
「施設に、私の育った施設に入れる」
「…そ、それは、妥当かもしれませんが、しかしわかっているんですか?
あの施設はもうあなたが育った施設とは全く別のものになっているんですよ?」
「しかし、それ以外に何も手立てはないじゃないか。
上司にも相談してみた。そしたらなんて帰ってきたと思う?
『自分で拾った命だ自分で責任を持て』だそうだ。
まったく、国家の正義が聞いてあきれる!!」
田中さんは私が毒を吐き切るのを待っていてくれたのだろう。
私はまるで全力疾走をしたかのように息を荒立ててしまっていた。
「…すまない、いやなことを聞かせてしまって」
「構わないさ。君と僕の中だ。同じ施設の兄弟じゃないか」
こうして、彼の施設への'入隊’が決定した。
「しばらく外で休んでくる」
「いや、もうそのまま帰ってしまうがいい。
あの子も今日はもうぐっすり眠っているだろうしな、君が来たところで気づきはしないよ」
「そうか」




