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第7話 辺境伯家の書庫と夜食

その夜、私は一人で地下書庫にこもっていた。


 王都から持参した照合表と、辺境で回収した登録簿を並べる。叔母の遺言と子爵の遺言。関係のない二件に見えて、使われている文言に奇妙な一致があった。どちらも末尾に『証人は当事者と直接利害関係を持たず』という一文が追加されている。最近の様式改定前の、古い定型句だ。


「それ、古い書式か」


 気づくと、書庫の入り口にディートリヒが立っていた。手には盆。上にはスープと黒パン、それに小さな焼き菓子が載っている。


「夕食を逃しただろう」


「……辺境伯が夜食を運んでくるのですか」


「書庫番がいない時間だからな」


 あまりにも真顔で言うので、私は思わず吹き出した。


 彼は私の向かいに座り、私が差し出した書類を読む。指先は剣を握る人のものに見えるのに、ページをめくる動きだけが妙に丁寧だった。


「つまり、偽造した人間は古い公証書式に慣れている」


「ええ。しかも王都と辺境の両方で通用する程度には」


 私はスープを一口飲んだ。温かさが胃に落ちる。


「おいしい」


「料理長に伝えておく」


「いえ、これ、あなたが選んだでしょう」


 香草の配合が、昼に私が好んだものと同じだった。言い当てると、ディートリヒは少しだけ視線を逸らした。


「覚えやすかっただけだ」


 それだけのやり取りなのに、胸の奥が少し緩む。王都では、私が夜更けまで働いても、誰も温かい皿を運んでなどくれなかった。


 食後、私は台帳の片隅に小さな登録番号を見つけた。王都印章工房の発注記号だ。しかも受領先は、レオポルトの旧部署と取引のある書式商会。


「見つけた」


「何を」


「印章の発注経路です」


 私は顔を上げた。


「王都の事件も、辺境の事件も、同じ印章工房を通っている可能性があります」


 ディートリヒは静かに立ち上がった。


「なら明日、工房の帳簿を洗う」


 彼の返答に迷いはない。


 その確かさが、私は嫌いではなかった。


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