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第36話 受益者全員の前で
取り調べと証拠保全を終えた二日後、私は公会堂で受益者確認会を開いた。
条件は一つだけ。名前を読まれた人は、自分の足で前へ出て、自分で受領を確認すること。
会場には未亡人も負傷者も、その家族も集まっていた。逃げずに来たクラウス院長、顔面を硬くした療養院事務係、王都銀行のマリアンネ、アグネス修道院長、イザーク。必要な人間を全員並べる。
私は原本照合済みの受益者名簿を開いた。
「マルタ・ケスラー」
「はい」
「ヘレーネ・ヴィルト」
「はい、死んでいません」
その返しに、張り詰めていた空気が少しだけ緩んだ。
私は名を読み上げ、本人確認をし、停止理由を一つずつ訂正していく。途中でクラウス院長が『現場判断だった』と口を挟んだが、私は療養契約と死亡証明の写しを並べただけで十分だった。
「現場判断で人は死にません。紙で死なせたんです」
静かに言うと、彼はそれ以上何も返せなかった。
最後に私は、アーデルハイト伯爵夫人の覚書を読み上げた。
『顔の見える金にせよ』
公会堂の後方で、誰かが泣いた。
それは敗北の音ではなく、ようやく自分の名が戻ってきた人の声だった。
受益者全員の前で、帳簿は書き直された。




