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第35話 救恤倉庫の二本目の鍵
夜明け前、イザークから使いが来た。
『倉庫の裏口に荷馬車が来ています』
仮差止め後なのに動くなら、証拠を運び出すつもりだ。
私は外套を掴み、ディートリヒとともに救恤倉庫へ向かった。裏手には確かに荷馬車が一台。御者台にはカスパル、荷台には療養院の箱と同じ印がある。
「開けてください」
私が告げると、カスパルは平然と答えた。
「余った物資を療養院へ戻すだけです」
「差止め中です」
そこへイザークが倉庫扉を指した。錠前に差さった鍵は、公証封印で止めた正規鍵とは別のものだった。
二本目の鍵。
私はゆっくり近づき、鍵山の傷を確かめる。新しく削った鉄の匂いがした。
「伯爵夫人の規則を変え、修道院の鍵を預かり、増やしたのはあなたですね」
カスパルの顔から笑みが消える。
「領内のために融通しただけだ」
「ならどうして荷台に載っているのが毛布ではなく、売却伝票付きの薬箱なんですか」
フリーダが荷箱から束を引き抜いた。薬箱、保存食、冬靴。受益者名ではなく、商会への卸値が書かれている。
倉庫物資まで現金化していたのだ。
ディートリヒが一歩前へ出る。
「カスパル・メルデン。不正払出、文書偽造補助、信託妨害の疑いで拘束する」
朝焼けの中で、ようやく二本目の鍵が止まった。




