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第34話 偽りの死亡証明
差止めの翌朝、王都銀行から原本照合済みの写しが届いた。
その中にあった一枚を見て、私はしばらく言葉を失う。
死亡証明書の名は、ヘレーネ・ヴィルト。
「本人が昨日も公証室に来ていたのに」
フリーダが呆れた声を漏らす。
証明書には転落死とあり、立会人欄には療養院の事務係と、見覚えのある書記の名前。だが書式が古い。しかも死亡届の受理日と、ヘレーネの支給停止通知日が同じだった。
私はヘレーネ本人を呼び、目の前で照合した。彼女は青ざめながらも、はっきり言う。
「こんな紙、見たこともありません」
さらに遺体確認欄には、彼女の兄の名が勝手に使われていた。本人を呼ぶと、兄は筆跡を一目見て首を振る。
「俺は字がこんなにうまくない」
その場にいた誰もが少しだけ救われるほど、明白な偽造だった。
だがだからこそ悪質だ。大人の生活を消すのに、たった一枚の紙で足りると知っている人間の手つきだった。
「これで支給を止め、残った金を動かしていたのね」
私が言うと、ヘレーネは唇を噛んだ。
「死んだことにされるより、黙ってるほうが楽だと思わされてました」
私はその手を握る。
「もう違います。あなたはここにいて、自分で名を言える」
偽りの死亡証明は、制度の穴ではない。
誰かが人を帳簿の外へ落とすために選んだ、いちばん乱暴な手段だった。




