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第33話 夫婦連名の仮差止証書
証拠が揃ったその日の午後、私は仮差止証書の清書に入った。
対象は遺贈信託の元本移動、療養院への追加払出、工房への倉庫物資搬出、そして受益者名簿の改変行為一切。
「ここに『受益者本人確認が完了するまで』を入れます」
私が言うと、ディートリヒは隣で領主命令文を整えていた。
「ならこちらには『違反時は領内営業停止』を加える」
並んだ机の上で、私の文言と彼の命令が噛み合っていく。
最初に交わした契約結婚の頃、私たちは同じ事件を追う協力者だった。今は少し違う。私は私の職分で書き、彼は彼の権限で守る。けれど、線はきれいにつながる。
清書が終わると、私は署名欄を見た。
『公証人ユリア・ヴァイス』『ヴァイス辺境伯ディートリヒ・ヴァイス』
連名の文字が、妙に落ち着く。
「これ、少しだけずるいですね」
「何がだ」
「一人で戦っている気がしません」
私が正直に言うと、彼はほんの少しだけ目元を和らげた。
「最初からそのつもりで妻にした」
さらりと重いことを言う人だ。
だが今は照れている暇がない。証書を乾かし、写しを三通取り、執行担当へ回す。
夕刻までに療養院、工房、信託事務室、倉庫の四か所へ仮差止命令が届いた。
逃がす前に、線を引く。
公証と領主権が並ぶ紙は、思っていた以上に強かった。




