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第28話 消えた受益者名簿

翌日、私は旧信託事務室の保管庫へ入った。


 本来ならここにあるはずの原本受益者名簿が見つからない。あるのは昨年作り直された写しだけで、綴じ方も紙質も他と合っていなかった。


「借出記録は?」


 私が言うと、フリーダが古い貸出票束を差し出す。


 原本名簿の最終借出先は、三か月前。記録上は『王都銀行照合のため』となっていた。だが照会書の控えがない。


「外部照会なら往復文書が残るはずです」


 私は保管棚の一番下を探り、ようやく一枚の受領控えを見つけた。署名はカスパル・メルデン。ただし印章は修道院の管理印になっている。


「他人の印を使っているわ」


 ディートリヒが低く言う。


「修道院長が貸し出したか確認する必要があるな」


 さらに妙だったのは、名簿だけでなく倉庫在庫一覧の原本も同時期に差し替えられていたことだ。毛布、石鹸、保存食、鎮痛薬。数が一斉に減っているのに、支給先の記載が曖昧すぎる。


 私は綴じ紐の色違いを指先でなぞる。誰かが一度まとめて原本を抜き、都合のいい数字だけ残したのだ。


「受益者を減らし、倉庫物資も減らし、書類の根拠だけ消す」


 口にするとあまりに手際が良い。偶発ではなく、慣れた手だ。


 私は貸出票を封筒に収めた。


「次は修道院です。あの印が本物か確かめます」


 もし偽物なら、名簿を消した手はさらに広い場所まで伸びている。


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