第27話 公開相談会は公証室で
三日後、私は公証室の扉に大きく告知を貼った。
『救恤信託に関する公開相談会 本日正午より 申述無料』
正午前には列が通りまで伸びていた。未亡人、負傷者、その家族。皆、遠慮するように声を潜めているのに、抱えているものはあまりに重い。
「一人ずつで大丈夫です」
私はそう言って席を増やし、フリーダには聞き取り表、イザークには待機列の整理を頼んだ。ディートリヒは執務室の奥に立ったまま、必要以上に口を挟まない。ただし、誰かが威圧されそうになると視線だけで空気を正す。
マルタは、支給停止通知を持ってきた。理由欄は『受益者死亡確認済』。
「私、生きてますけど」
乾いた言い方に、室内がしんとする。
次のブルーノは、療養契約の控えを差し出した。立会人欄の日付が、彼が高熱で字も読めなかった日と一致する。
さらに別の女性は、倉庫受領証に自分の署名があるのに、実際には毛布を一枚も受け取っていなかった。
嘘は個別に見れば小さい。だが机の上へ並べていくと、ひとつの制度そのものを食い破っている形が見えてくる。
私は申述書の最後に、必ず同じ一文を入れた。
『本人は成年であり、意思能力を有し、上記申述を自ら確認した』
ここで奪われていたのは金だけではない。大人として自分の意思を扱われる権利だった。
日が傾くころ、最後の相談者を見送った私は指をさすった。痛い。でも嫌な痛みではない。
机には二十六件の申述が積まれている。
「思った以上でしたか」
ディートリヒに訊かれ、私は首を振った。
「いいえ。思っていたより、みんなずっと我慢していただけです」
公開相談会は、その日一番静かな反撃になった。




