表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/40

第23話 救恤金は誰のため

領都へ戻ると、私は遺贈信託の出納簿を広げた。


 扶助金の支出欄には、受益者名ではなく『北丘療養院一括送金』『療養契約調整費』『作業復帰準備金』といった曖昧な項目が並んでいる。


「個人への給付ではなく、施設へのまとめ払い……」


 眉を寄せた私の隣で、イザークが腕を組んだ。


「坑内で足を潰した連中も、あそこへ送られてる。治るまで面倒を見るって話だった」


「実際は?」


「戻ってきても前より痩せてる。なのに借金だけ増えてる」


 私は該当する契約番号を追い、保管箱の底から束を引き抜いた。そこには扶助金の受領証と一緒に、『本人療養費立替同意』という別紙が綴じられている。しかも、立替額は給付額とぴたり同額だった。


「つまり救恤金を渡したことにして、同額を療養費名目で回収している」


 私が整理すると、フリーダが嫌そうに肩をすくめた。


「優しさの顔をした回収ですね」


 さらに不快だったのは保証欄だ。多くが寡婦本人の署名で、万一退所費用が不足した際は『将来の扶助受給分をもって充当する』と書かれている。


 救うための金が、従わせるための鎖に変えられていた。


 夕刻、ディートリヒが執務室へ来る。私は出納簿をそのまま差し出した。


「伯爵夫人の遺贈信託は、今や療養院の回収口です」


 彼は数頁めくっただけで口元を固くした。


「表向きは慈善、実態は囲い込みか」


「ええ。しかも受益者の同意は、生活が追い詰められた状態で取られています」


 私は最後の頁を閉じた。


「次は療養院を見ます。扶助契約が本当に本人の意思だったのか、現場で確かめたい」


 ディートリヒはすぐに立ち上がった。


「同行する」


「辺境伯自らですか」


「君一人で行かせるには、善意の仮面が厚すぎる」


 その言い方に、私は小さく息を吐く。


 確かに今回の敵は、露骨な偽造犯より厄介だった。


 困っている人の顔を見ながら、正しい言葉で奪っているのだから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ