第22話 寡婦台帳の空白
翌朝、私は炭鉱村の集会所で寡婦台帳の聞き取りを始めた。
最初に前へ出てきたのは、三十八歳のマルタ・ケスラーだった。黒いショールの端を握りしめたまま、彼女は自分の名を紙に書く。
「夫は五年前の落盤で亡くなりました。最初の半年は支給がありました。でも再申請に来たら、名簿にないって」
「再婚は?」
「していません。する余裕もありません」
次に来たヘレーネ・ヴィルトも同じだった。三十四歳。夫を亡くしたあと、義父母と二人の甥を養っている。支給停止の理由は『受益資格の消滅』。だが根拠書類は見せてもらえなかったという。
私は聞き取った氏名を旧事故報告書と照合し、紙の上に正しい列を作っていく。
十七名のうち、実際に扶助を継続して受けていたのはたった六名だった。死別後も村に残り、成年の家族を支え続けているのに、消えた扱いにされている女性が多すぎる。
「帳簿から消された人には、共通点があるわ」
私が言うと、マルタが顔を上げた。
「療養所へ行かなかった人、ですか」
その一言で、部屋の空気が変わった。
話を聞けば、管理者カスパルは『扶助を続けたければ指定療養所の契約へ移れ』と繰り返していたらしい。負傷した家族を入所させる場合も、寡婦本人が保証人になるよう求められた。
「行かなかったら、どうなるの?」
ヘレーネが乾いた声で言う。
「名簿からいなくなります。そう言われました」
私は台帳の綴じ穴をもう一度見つめた。消えたのは紙だけではない。従わない人から順に、救われる資格ごと削られている。
集会所を出る前に、私は新しい受付簿を置いた。
「今日から公証室でも申述を受けます。名前を消された人ほど、先に来てください」
帰りの馬車で、私は膝の上の控えを握る。
空白は偶然ではない。
誰かが意図して、支えるべき人を選り分けている。




